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2.2.6 折り
 折り曲げ加工で代表的なものは、フランジ折りであるが、これはFLサイズを型定規に示してあれば明確にできる。[図2.2.4 フランジ折要領]参照。このように標準幅でなくても、折れ線を与えてFLと記しておけば、折度は機械的に直角と判断される。
 ただし、このことは逆に折度が非直角なら、FLと扱わないことを意味する。つまり、設計図ではFLと指示されていても、型定規では間違いを避けるために、敢えて表示記号は[図2.2.3 曲加工記号の表示位置]●BKTの折れの場合に倣うことにするのである。
 
 また、ここで更に注意したいのは、部材の折れは、図面に必ずしも設計の意図として表現されているとはかぎらないことである。ここらの事情は、別書『造船現図展開』に示したが、再説すると:−
●空間にある4辺形は必ずしも1平面上にはない。
●だが3角形は必ず1平面上にある。したがって4辺形の対角に筋交いをいれて、2つの3角形に分ければ、筋交いはそれぞれの属する2平面の交線となる。交線とは、つまり折れ線であり、4辺形は可展面となる。
●4辺形の対角は4カ所あるから、筋交いは襷状に2通り引ける。つまり展開面は一通りではない。
●1平面上にない4辺形に折れ線を入れなければ、捩れ面、つまり曲面上にあることになる。
●4辺形部材が、捩れか折れか、折なら襷のどちらか・・・により構造としての強度評価は異なる。一般に設計者が気付かない程度のものであれば、どちらにしてもよいのであるが、図面にフィードバックし、設計の意図を確かめ訂正記入さすべきである。
 
 折れ位置とは、プレスで押す位置であり、加熱折れであれば火口で焼く位置である。折れ位置は、線として表示し、折れ線と称する。この折れ線が、直線であり折度が一定であれば可展面であり、それ以外、例えば折れ線が曲線であったり、直線であっても折度が変化するようだと非可展面である。
 部材にマーキンされている線が、折れ線であることは、[図2.2.3 曲加工記号の表示位置]の例●BKTの折れ・・・に示すように、折の向き(上/下)と合わさった記号で判る。
 折度とは、折の向きの、「面と面のなす角度」である。やはり、この例にあるように折の実角を示すが、折れ加工後も角度がチェックできるように、折れ線を跨がず、近くのどちらかの側に描く。どの工程も角度を拾い、また与えるのには自在に合せられる「折金」を使用するので、実角で示すことにしたのである。角度数値としてもよいが、そのときは分度器が必要になり、折金→分度器→分度器→折金というように情報受け渡しが面倒だからである。ちなみに数値現図では、どちらでも自動的にアウトプットできるので、併記としている。
 [写真2.2.1 折れのマーキン]に度数表示の実例を掲げる。折線に上折記号を重ね、その下に折線に直角に数値が、123.7ド・・・と記入されている。数値であるから、折線を跨いで示しても、折れ加工後の折角はチェックできる。
 ついでに、この写真の他のマーキン記事を説明しておこう。
 折れ指示の上側の、P上マ・・・は左舷上面マーキンの記号、さらに上両側に開先記号があるが、下面開先で4×73(サーピン)+12×25(標準V)のようである。さきに本書では開先面の記号をマーキン面:Mの位置で示してみたが、この写真の造船所では、折れ記号と同じく上/下の文字形で表し、向きや裏字によっては上の字と紛らわしい下の字には、念のため棒の下端に白丸をぶら下げる記号になっている。
 
写真2.2.1 折れのマーキン
 
 折といっても、折れ角はシャープな角ではなく、正しくは微小Rでの曲げである。このRを「折R」と呼び、[板内R=2×板厚]を標準とする。これより小さいと折り曲げで板縁に微細な割れ:クラックを生じる恐れがある。特に板の圧延(ロール)方向に折るときに注意したい。構造上重要な皮板:例えば、撒積貨物船のトップサイドタンクのハッチサイドコーナー板の折れ曲り部は[板内R>5×板厚]が望ましい。そこで標準の折Rの折れのみ「折れ」と扱い、標準外の折れは「曲げ」と扱う方が、折Rが明確になるのでよいと考えて、[図2.2.7 皮板の折り「曲げ」表示]のようにR寸法とR止り線で指示し、精度を要すれば曲型を作成支給するとよい。[写真2.2.2 折れ曲型]に、その例を示す。
 
図2.2.7 皮板の折り「曲げ」表示
 
(拡大画面:27KB)
写真2.2.2 折れ曲型
 
演習題:−
 上記写真の折れ曲型の記事では、なにが、どう省略できるか?
  
 
2.2.7 折型の有無と当て位置
 一般に折度は部材上にマーキンされるが、
●折金では、自在の足が短く、使っている途中で少し狂わないか、
●特定位置の折度を押さえたい、
など精度上での懸念のあるときや、
●折れ位置によって折度が変化する
など一様な折度でない場合には、折型を作成支給することがある。折型の形態は、固定した当型であったり、単にいくらか大きめに折度実角を盛った度板であったり、目的に応じたものである。折度の位置を特定するときは、[図2.2.8 折型当て位置]に見るように、
●中間位置:イ、ロ、ハ、・・・など位置に任意に記号を付す折度型
●端当て:折れ位置端に、端辺に当る折型が別途あることを示せばよい。この図の場合の折度は、当て位置を示す「線と線のなす角度」である。
 
図2.2.8 折型当て位置
 
2.2.8 折曲げ用タブ
 折れ線が部材縁に近づくと、プレスの矢弦が折り治具位置で滑って、折り成形が正常にできなくなる。そこで、さきに見た条材の曲げにおける掴み代の必要に相当するようなタブを設けるのである。設置条件と必要形状は造船所標準として取り決めておく。
 この要領を[図2.2.9 折曲げ用タブ]に示す。記号はタブ一般に倣えばよい。
 このタブは、折れ加工後に切り取られる。
 
図2.2.9 折曲げ用タブ
 
2.2.9 曲げ
 曲げの種類は、曲げ情報の与え方からR曲げと型曲げに大別され、対象部材の加工系列から皮板曲げ、条材曲げ、内構曲げに3区分されている。
 
 R曲げとは、円弧半径で曲げ情報が与えられるもので、狭義には曲型の新規作成を要しない標準Rの曲げをいう。
 R寸法は[図2.2.10 R寸法]の矢印の向きで示すように、一般にモールドライン:の形状である。このようにを決めて、Riが標準化されていれば、マーキン型、切断治具、曲型、曲げ治具は共通になり、このR形状側に板継があっても段差やサーピンは現れない。
 内構曲げの表示例としては[図2.2.3 曲加工記号の表示位置]●Fc.PLのR曲げに見る600R、皮板曲げの表示例としては[図2.2.7 皮板の折り「曲げ」表示]での100Rがある。
 
図2.2.10 R寸法
 
 R曲げ以外には、すべて曲型、またはこれに代わる曲げ情報が必要で、部材に曲げ記号がマーキンされているだけなら、別途に曲型があることを意味する。その意味でR曲げ以外を型曲げと呼んでいる。非標準の特殊Rでの曲げは、型作成を要し、治具曲げにもならないから「型曲げ」の範囲と把らえたい。
 
 曲りの変化点をR止りという。円弧が終わって直線に移る点、Rの異なる円弧が1点で接して他に移るときのその接点、タブシル(自由曲線)が接線に移る位置、円弧がタブシルに変わる位置、すべてがR止りである。性質の異なるタブシル間でも、この意味のR止りはある理屈であるが、位置が決められなければ、R止りはないとしていい。
 
 (曲げの)R止り位置を出す目的は、
●R曲げの範囲を明らかにして、曲げ加工の精度および効率を上げること
●(切断の項で示した)取り合い部材のR止りとの合せマークに利用すること
にある。
 この記号例を[図2.2.11 S曲りのFc.PL]に示す。図のR止りに記したTの字は曲げのR止りを表す補助記号であり、判り難いときに付加する。この場合のようにR曲げの止り位置が明確であれば、Tはなくても判るので省略してもよい。Fc.PLの(曲げの)R止り位置とウェブの(切断の)R止り位置を合せて組み付けるのである。
 
図2.2.11 S曲りのFc.PL
 
 ここでは内構の曲げとして代表的なFc.PLにつき説明し、前提としてロールラインが長さ方向に直角としてきた。ウェブヘの取付度がどこでも直角と言ってもいい。別の言い方をすると、ウェブ平面に直交する曲面にあるFc.PLであった。曲型は、取り付くウェブ端辺の形状曲線を移せばよく、当て位置もウェブ取付線で、幅位置のエッジに当ても同じである。したがって、この場合の当位置は自明であり、指定することはない。要するにR止り線に直角に板面にも直角に当てればよいのである。
 しかし、Fc.PLでも必ずしもこうならない場合がある。別冊『造船現図展開』に、斜行する面材、捩れた面材として取り上げた例などである。
 展開面の一例を[図2.2.12 斜行するFc.PLの曲げ]に示す。この場合は、600Rがよしんば標準であっても、治具曲げはできない。標準R曲型を当てようとすれば、ロールラインに直角だが、上記とは様子が変わることになる。また、このときのウェブの取付縁辺の形状は楕円のはずである。曲げ加工後の形状を確認するには、やはりウェブ取付線当ての曲型がよい。だとすれば曲型の形状は楕円となる。したがって曲型作成は必須であり、この面からもR曲げでなく、型曲げの範囲となる。
 
図2.2.12 斜行するFc.PLの曲げ
 
演習題:−
 上記の例で、逆にウェブの取付縁辺の形状が、標準の600Rなら(むしろ設計図は、こう指定することが多い)、どのようなことになるか?
  
 
 この他の曲げの表現や記号について、内構Fc.PLの捩れ、皮板の曲げでは外板、条材の曲げではフレーム、などに触れなければならないが、これらには他の関連や複合した問題があり、後の章に譲ることにする。







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