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2.1.4 搭載工程での切断
 後工程の仕上切は、当然限定されるべきであるが、なかでも特に高所作業、フリーハンドトーチでの手切など、条件の悪い搭載工程でのブロック継手合せ切断は、開先形状やギャップも正確に取れず、吊り上げ建付の時間・完成船体精度・溶接量・安全などなど、あらゆる面から局限したい。
 このプリミティブ(原始的)な「現場合せ=現物合せ」の残る製造業、建設業は、いま造船以外にはない。決まった場所での生産でありながら、安全靴・ヘルメットの重装備、それでいて未だ残る人身災害・・・と併せて、造船技術改善点のトップに据えたい。
 生産性の高い造船所では、この最終工程での切断を「火入れ長」「(全切断長に対する)火入れ率」の数値で追跡している。(なお、「火入れ」の逆に「過大ギャップ」もないわけではないが、この方は目立たすわけにはゆかず、自ずと局限されている。この方を追跡するには「当て金率」を掴む。昔、ギャップに煩い船主監督の船は、短く出来上がるという話もあった。)
 搭載工程切断の発生は、ブロックの完成精度と搭載位置決め精度の双方の不良によるが、前者が悪いと後者も悪くなり、元を辿れば現図工程での「伸ばし仕上げ」指示判断のあり方にも起因する。
 
1)ブロック完成精度について
 多くの造船所の現状は、関心はあるにしても、完成寸法などの計測資料の要求が現図工程に来ていないところから、定量的に捕らえてみようとする意志が乏しいように思われてならない。精度は上げたいが、努力してもこの程度と諦められているのではないだろうか。
口実として:−
●組立定盤の構造が柔らかく、水平度も狂いやすい。定期的検査やメンテもしない。
●組立場の面積が狭く、回転率を上げるのが至上命令。
●短納期で、出図以降の工程が詰まっており、搭載日程に追われて、固めるのがやっと。
●どうせ外注ブロックがあり、精度は期待できない。
などがあるようだ。
 精度計測は、定盤が堅固で、組立姿勢が決められた通りなら、面倒ではあるが行うことができる。水盛とトランシット見透による基線確認、巻尺による周端部計測を行い、現図資料:ブロック完成寸法表と対照すればよい。測定制度は±2程度にしかならないが、それでも使えるのである。
 すでに大手造船所では、精度管理が進展し、ブロック全周・全継手の地上仕上が一般的となり、先行艤装の配管でも接続ショートピースが廃止されている。
 
2)搭載位置決め精度について
 ブロック完成寸法が、搭載前に判っておれば、建付用の現図資料:シップライト寸法表と対照することで、位置決めの要領をブロック吊り上げに先立って計画できる。近年、二重殻構造が増えてきたので、この事前検討が益々有効になってきた。
 精度の良いブロックと悪いブロックでは、搭載工程の取付能率が3倍違う・・・とのタイムスタディ報告がある。あいだに一つ悪いブロックがあれば、隣接する2〜3ブロックに悪影響を及ぼすことも明らかになった。
 ブロック精度の定量的追及は、結果として、立体的変形・歪みの防止に向けた取付順序・拘束仮付・組立溶接手順、搭載要領の確立など工作法の進歩を引き出しつつある。
 
 以下、搭載に至る各工程での伸ばし、仕上について説明しよう。
 
2.1.5 撓鉄仕上げ
 (略称:撓仕(ぎょうし)または曲仕(まげし)、ベンダーの意のB仕とすることもある):−
 部品精度確保のため、曲加工完了後に、再マーキンして仕上切りする。
 もっとも認識不足からか、現図による形状展開方法の不備、不適合・・・などのリカバリー(補い)を曲加工に負わせている造船所も、まだかなりあるようだ。別書『造船現図展開』を参照されたい。
 
1)フレームベンダー曲げでの「掴み代」
 形鋼類の面内曲げで、端曲げ曲率が大きい場合の3点押し延長部をいう。掴み代なしでは、端部は必ず直線部を持つが、トレランス(許容限度)内なら無視している。
 この関係を[図2.1.10 掴み代とトレランス]に示す。
 
図2.1.10 掴み代とトレランス
 
 縦肋骨構造方式では、ほとんどのフレームが掴み代を要しないが、横肋骨構造方式では、フレーム下端の曲りがきつく、掴み代なしにはムリ、焼曲げで補う必要がある。スクラップ率VS加工精度が相矛盾するので、最適組合せを探って標準化しておく必要がある。曲りのきつい下端で左右舷を繋いで取材し、左右対象ベンダー曲げ後に切り離す工作法にすれば、掴み代を廃止できよう。
 この対策判断も数値現図ではプログラム化できようが、ベンダー機種・機能、形鋼断面、端部曲率、掴み代、トレランスの相関については、まだ公刊された研究を見掛けない。
 
2)焼き絞り量の多い船首尾端外板の「材料荒取り」
 ステム、スターンフレームを形成する中心線対称の曲り板などは、展開と仕上がりとの形状の差が大きく、プレス押しの掴み代もあるとよいので、外周に余裕をみた近似形状で取材する外ない。余分な余裕を取ると、あと切り捨てるムダな部分の曲げに精出していることになる。
 
2.1.6 組立仕上げ
(略称:アセンブリーの頭文字から、A仕):−
 ブロック完成精度を上げるための伸ばし仕上である。
 組立工程で手間を掛けても、搭載工程で、その手間を遥かに超えるメリットを回収しようとするのである。やみくもに内仕とすれば、組立工程は再マーキン仕上切断が省略できて単純になるが、搭載工程での「火入れ」「当て金」が発生する。
 
1)板継後仕上げ
 皮板を複数並べてシーム溶接とするとき、シーム方向を長さとすれば:−
巾方向:シーム合せ精度・板継溶接による収縮による誤差累積
長さ方向:各板の端や板毎の基準線を合わせて行っても、ずれ誤差が累積
というように、両方向に予定する原寸と異なる可能性がある。
 この可能性を排除するため、板継溶接完了後に一体として再マーキン・切断するのである。
 もちろん単位の板の加工精度と板継精度を上げ、累積しても搭載「火入れ」「当て金」が発生しない程度に押さえることができれば、この必要はない。例えば:−
●平板3枚継ぎ、曲り板2枚継ぎまで
●平板矩形ブロック板並べ(ストッパー)治具適用
●単板工法(単位の各板にロンジフレームを先付、後板継)装置化
など、いずれもブロック完成精度の管理の下に成り立つ。たんにプレーナやNCのマーキン切断だから成り立つのではない。
 
2)組立後仕上げ
 板継後仕上げられた皮板を証拠に仕上げる場合と、ブロック組立溶接完成後に形状を計測して仕上げる場合とがある。例えば、プレスと焼き曲げ両方で成形したフレームで、撓鉄工程で再マーキンして個別に仕上げるより、組立工程で現物合せでまとめて仕上げる方が、総合工数少なく精度も良い・・・などがある。
 また、船内切断を地上に移すよう判断する「総組:プリエレクション」工程での切断もこれに相当する。







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