刊行によせて
当財団では、我が国の造船関連事業の振興に資するために、日本財団から競艇公益資金による助成金を受けて「造船関連海外情報収集及び海外業務協力」事業を実施しております。その一環としてジェトロ関係海外事務所を拠点として海外の海事関係の情報収集を実施し、収集した情報の有効活用を図るため各種報告書を作成しています。
本書は、(社)日本中小型造船工業会および日本貿易振興会が共同で運営しているジェトロ・シンガポール・センター船舶部(山崎壽久駐在員)のご協力を得て実施した「東南アジア・オセアニア地域における旅客船市場参入手法に関する調査」の調査結果をまとめたものです。
東南アジア・オセアニアでは、島嶼部や大河川が多く、水上輸送への依存が大きいことなどから、旅客船に対する需要は非常に大きいものがありますが、設備投資資金の不足などにより、新造ではなく中古の旅客船を購入することが多い状況です。しかしこのような状況の中で、近年豪州の高速旅客船メーカーが新造船の輸入に成功しています。
本書は、豪州の高速旅客船メーカーがどのような手法で旅客船市場に参入しているかを調査し、まとめたものであり、当該市場に関心をお持ちの皆様の参考になるものと思われます。関係各位にご活用いただければ幸いです。
2003年3月
(財)シップ・アンド・オーシャン財団
はじめに
我が国の物流構造の変化と内航船船腹調整事業の解消等により内航船建造需要が激減し、これを供給している中小造船業は深刻な不況に直面しているが、地域経済及び雇用への貢献、環境に優しい海運を維持するためには今後も活力ある産業として存続することが不可欠である。このためには中小造船業が、市場ニーズの変化に的確に対応する船舶を供給する必要があり、その前提となる高速旅客船を例とする高付加価値船建造への対応等、中小造船業の技術基盤の強化、新規需要の開拓等は不可欠のものとなる。
島嶼部や大河川が多い等により社会基盤としての水上輸送への依存が大きいこと等から、東南アジア・オセアニア地域における旅客船需要は非常に大きい。これまで当該地域では、設備投資資金の不足、低運賃設定のため等から日本製新造旅客船の輸入の例はほとんどなかったが、海上交通網の近代化の推進や所得水準の向上、観光・経済開発の進展、安全意識の高まり等を背景に、これら地域では代替旅客船として新造船や低年齢船の輸入志向が高まるなど運航・船舶調達構造の変化が見られる。
これらの動きをうまく捉えた典型的な成功例がインドネシアにおける豪州製新造高速旅客船の参入である。その参入に際し豪州造船事業者は、エンジンメーカーによるファイナンスや従前の受身型の受注方式ではなく、企画型の受注方式を取っている模様である。
この舞台となったインドネシア、フィリピンは、世界有数の島嶼国家であるため、東南アジア・オセアニア地域のなかでも旅客船をはじめとする船舶需要は非常に大きく、これらの建造、保守を受け持つ造船業もある程度発達している。
本調査では、豪州高速旅客船造船事業者の成功例であるインドネシアでの船主に対するアプローチ方法(案件の発掘、船主のリスク評価、営業戦略)や舶用機器の調達方法に関する情報等を収集、整理することにより、我が国造船事業者がこれまでの中古船市場から新規の新造旅客船市場として大きく変化する可能性を有する東南アジア・オセアニア地域における旅客船市場開拓を検討するために資する資料を得ること並びにインドネシア及び東南アジア諸国に対する造船分野での技術協力を行うために資する資料を作成することを目的とした。
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