日本財団 図書館


2. 損害と不利な影響
2.1 概論
 最初の申立てで、CESAはEUの産業は、TBRの第2条(3)に照らして損害(EC市場内で)と第2条(4)に照らして貿易上の不利な影響(第三者国市場において)を被ったと主張した。
 
 最初の申立てでは、さらに、(EU)共同体産業は、ASCM第3条、第5条に違反して韓国政府が韓国造船所に供与した助成により引き起こされた損害と貿易上の不利な影響を被ったと主張している。ASCM第5条に従い、助成はASCMの他の加盟国の利益に「不利な影響」を引き起こした場合、制裁措置の対象となりえる。とりわけ、このような不利な影響は、共同体産業に対する、ASCM第5条(a)に定められた「損害」またはASCM第5条(c)に定められた「深刻な権利の侵害」形を取りうる。
 
 ASCMの脚注11に従い、「損害」という用語は、ASCM第15条に定められた、EU域内市場の分析を要求する相殺調査手続きと同義で使われている。一方、「深刻な権利の侵害」分析は、ASCM第6条に従って、すべての市場について実施される。
 
 第1次調査で立証されたように、追加調査は商船市場が世界市場であることを確認した。実際、世界の全ての造船所は同じ顧客を争っており、国内市場、輸出市場、または輸入品といった概念は実質的に無意味である。さらに、ロイズ海運統計(Lloyd's Register of Shipping)のような独立したソースから得られる市場データは、特定市場への船舶の「輸入」が存在しないため、市場を地理的に区別していない。個別の「EU」市場を定義する努力は、それゆえに、現実的でもなければ、可能でもない。最後に、全ての利害関係者は、実際のところ商船市場が世界市場であると理解していることを確認した。
 
 それゆえ、ASCMの脚注11の意図するところの損害分析のために、世界市場に論及することは正当であると確認された。
 
 第1次調査期間中に協力したEU事業者は、全EU造船所の商船受注の44%を占め、TBR第2条(5)に照らして、共同体産業を代表するに十分であるとされた。本調査期間(2000年12月1日から2001年12月31日)において、当該事業者はEUの受注全体の48%を占め、それゆえに、依然として上記の条項に照らして共同体産業を代表している。
 
 追加調査は、商船市場は世界市場であるという事実に基き、世界の新規受注データが現実の市況を反映する最も適切な手段であることを確認した。その結果、EU市場と第三者国市場の区別は行わなかった。ロイズ海運統計(Lloyd's Register of Shipping)では、受注統計は四半期ごとに発表されるため、本調査期間(13ヵ月間にわたる期間)に限定したデータは入手できなかった。そのため、以下の分析は歴年の情報に基いている。
 
表1
船種別、世界の新規受注の動向(CGTベース)3
 
 上表に示すように、2001年は2000年と比べ新規受注は(約20%)減少している。しかし、これは受注が低迷したというよりは、2000年の受注水準が例年になく高かったことが原因である。受注数の減少にかかわらず、2001年の受注総量はここ10年間で2番目である。2000年に受注が高水準であった理由は、主要な海運市場が好況であったことと、概して船価が低いレベルであったことがかねあわさったものである。また、部分的には、欧州の運営助成スキームの終了の影響が原因とも考えられる4。多くのEU造船所で、最後の国家助成を得るために、2000年末の受注は特に活発であり、これがEUの受注量を嵩上げする結果となった。
 
 上の表によれば、2000年から2001年の間に、バルク・キャリアとコンテナ船部門で新規受注が大幅に減少したことがわかる。コンテナ船に関しては、2000年に受注のピークに達したことが説明できる。プロダクト/ケミカル・タンカー及びLNG船市場は2000年から2001年の間に大幅に成長した。一方、他の部門の需要は比較的安定していた。
 
 LNG船部門の受注量の拡大には目覚しいものがある。世界の受注量は1998年の178,000CGT(全船種受注量の1%)から2001年には2,197,000CGT(全船種受注量の9%)に拡大した。わずか4年間で受注が12倍に増加している。この市場部門において、このような大幅な成長があることはさらに期待できないとしても、今後の受注レベルは安定したものとなるはずである。
 
2.4.1. 損害(Injury)
 損害に関して、本調査では第1次調査と同じ要素を検討した。これには、受注量、市場シェア、生産、設備稼働率、収益率、船価、雇用、及び投資に対する影響が含まれる。損害分析は一方で、EU全体の生産者の状況に基き、他方では、共同体産業(協力した21社のEU造船所)が提供した情報に基づいて行われている。協力EU造船所21社に関する損害要素の分析では、特に問題とされる船種に焦点があてられた。第1次調査及び追加調査の目的から、クルーズ船、艦船建造、修理等のその他の事業は検討に含まれていない。
 
(a)EU造船事業者全体
総受注量と市場シェア
 次の分析は受注量(CGTベース)により世界の売上量をカバーした国際統計に基づいている。21の協力造船事業者により提供された質問票に対する回答ではなく、国際統計を使用したのは、船種別ベースでは、特定の期間の受注数が少ない、または受注ゼロの協力造船事業者について、有効な市場シェアのトレンドが確定できないという事実による。これは、産品の性質により説明がつく。実際、ある年に受注することにより、翌年に設備を全て利用することになり、そのため、翌年は新規受注がないことも有り得る。さらに、特定の船種を専門としている造船所がある一方で、広範な船種を建造し、毎年、建造する船種を変える造船所もある。
 
 本調査は2001年版の追加調査ではあるが、第1次調査期間(この場合2000歴年)の末と2001年末の市場の展開を比較するだけでは不十分であり、誤解を招く恐れがある。船舶の建造期間、造船所によるキャパシティの差違、造船所の受注量に対する潜在的影響を考慮して、可能な限り1997年から2001年を通してのトレンド分析が優先された。これらの潜在的要素が造船所の受注量に与える影響は、2000年の特殊な状況により、さらに助長された。2000年は先に説明した(2.2参照)理由で、受注量の点で並外れた年であった。船種別の分析では、第1次調査期間と本調査期間の両方にまたがるトレンドの検証は、調査の対象となった期間を通して受注総量に大幅な動きがあった船種に限って優先された。表1に見られるように、より限られた期間においてのみ、受注総量に大きな動きがあった特定の船種(たとえばLNG船)については、これはあてはまらない。これらの場合は、分析の対象期間は新受注量の動きに意味がある年のみとなる。
 
 このような理由から、次の表に示すように、受注量と市場シェアの動向分析は、第1次調査期間と本調査期間の両方を対象とする。
 
表2a
世界の地域別受注量(CGTベース、クルーズ船を除く)
 
表2b
世界の地域別受注量(CGTベース、クルーズ船を含む)
 
 2001年に韓国の絶対受注量が減ったのは、2000年に並外れた高水準の受注(1999年比60%増)があったためである。そのため、韓国の造船所は比較的に手持工事量がフルの状態で2001年を迎えた。しかしながら、2000年を例外として、2001年の韓国造船所の受注水準は、上の表2に示すように、今までにない高水準を記録している。韓国の受注量は、同年の受注総量の約30%を占めており、これは日本をわずかに下回る数字である。
 
 2001年にEUの受注量は、2000年に比べて約15%減少し、1997年とほぼ同じ水準に達した。絶対受注量で、2001年に2000年の受注量を上回った、または維持したのは中国と日本だけであった。
 
 5年間平均では、韓国の受注量は1992/96年期の3,731,000CGTから、1997/2001年期の7,077,000CGTへと、ほぼ倍増している。一方、EU及び日本は、同時期に受注量の約5%の減少に直面しなければならなかった。
 
表3a
受注量の各国の市場シェア(CGTベース、クルーズ船を除く)
 
表3b
受注量の各国の市場シェア(CGTベース、クルーズ船を含む)
 
 市場シェアの点で、韓国は2000年から2001年の間に8.5%という大幅な減少を経験した。2001年の韓国の市場シェアは1997年の水準にほぼ相当する。
 
 2001年にEU造船所の市場シェアは、前年と比べて安定しており、1997年の水準に相当する。1998年から1999年の間に5%という大幅な市場シェアの減少を経験した後、ここ2年の間、EU造船所の市場シェアは落ち着いた。これは、先に説明したように、欧州運営助成スキームが失効する直前の2000年12月に大量の受注があったという事実が有利に働いたものであることは確実である。
 
 絶対受注量が増加した結果、中国と日本は同時期に市場シェアをのばした。
 
 5年間平均で、クルーズ船を除いて、韓国は市場シェアを20.8%から33.0%に伸ばした。一方、EUは3.6%、日本は8.6%の市場シェアの減少を経験している。クルーズ船を含んだ場合、韓国は市場シェアを19.9%から31.2%に拡大した。一方、EUと日本のシェアはそれぞれ2.5%と8.5%減少した。
 
 船種別の全体像の分析は、次のような結果となる:
 
表4
船種別受注量市場シェア(CGTベース)
 
 船種別の市場シェアについて、2001年における韓国の市場シェアはLNG船部門を除くすべての船種で減少していることは注目に値する。先に説明したように、これは前年に並外れた高水準の受注があったためであり、その結果、手持工事量が比較的飽和状態にあるため、韓国は高付加価値の、成長部門、すなわちLNG船部門に照準を合わせることが可能となった。韓国はLNG船部門で2001年に80%近く(2000年は47%)の市場シェアを獲得した。これは、韓国通商産業エネルギー省(MOCIE)により、同省の韓国造船活動についての報告書で確認されている。5
 
市場シェアの減少にもかかわらず、韓国はプロダクト/ケミカル・タンカー、コンテナ船及び石油タンカー部門で首位を守っている。旅客/ROROフェリー部門、またはバルク・キャリア部門では、韓国はこれまでメジャー・プレーヤーであったにも関らず、2001年に新規受注はなかった。
 
 EU造船所については、これまでの年と同様に、2001年にもバルク・キャリア及び石油タンカーの新規受注はなかった。プロダクト/ケミカル・タンカー及びコンテナ船部門においては、失った市場シェアの一部を取り戻したが、1997年の水準までは回復しなかった。LNG船市場では、EU造船所は2000年に受注はあったものの、2001年にはその市場シェアを維持することはできなかった。EUの市場シェアは2000年には21%に達したが、その後、2001年には7%前後まで減少した。2001年にLNG部門の韓国による優位は続き、世界の新受注の80%を韓国が占めている。
 
 1997年以降の展開を見た場合、プロダクト/ケミカル・タンカー及びコンテナ船部門で、EUの市場シェアは著しく縮小する一方で、韓国の市場シェアは著しく拡大している。LNG船については、2000年及び2001年以前にはこの船種の世界市場は今よりもかなり小規模であったが、過去5年間にわたり韓国はEUよりも断然優勢なシェアを誇っている。
 
 旅客/ROROフェリー部門では、EU造船所は伝統的に世界最大のサプライヤーであるが、この部門においてさえ、EUのシェアは幾分減少している。
 
 KSAは本調査期間に、EU造船産業は多くの船種において、特に旅客/ROROフェリー部門においでシェアを伸ばしたと主張している。
 
 2001年に、前年に比べてEUの市場シェアが改善したとしても、さらに長い期間、つまり1997年から2001年の期間を見れば、EU造船所の全体の市場シェアは低下している。旅客/ROROフェリー部門においてEU造船所が伸びたという指摘については、表4の統計を見れば、指摘されている好転は2001年に起こっていないことは明白である。
 
 上記の根拠により、KSAの主張は却下されるべきである。

3 CGTは船舶の大きさの単位であり、compensated gross tonnes(標準貨物船換算トン)の短縮形である。CGTは総トン(GT 1GT=2.83m3)で表される船舶の容積に換算係数を掛けることにより計算される。各船種及びそれぞれのサイズ・カテゴリーについて、その換算係数は(OECDレベルで)国際的に合意されている。サイズ・カテゴリーは船舶の総トンまたは載貨重量トン(DW)で表される積載能力(燃料、飲料水を含む)のいずれかにより定義される。
4 理事会規則(EC)No.1540/98 1998年6月29日造船助成についての新規則。OJL202.18.7.1998,P.1
5 韓国通商産業エネルギー省(MOCIE)の韓国造船量及び船舶輸出報告書、2002年1月30日。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION