1. 序論
1.1 第1次調査
2000年10月24日、欧州造船工業会協議会(CESA)は理事会規則3286/94(貿易障壁規則、TBR)に従い、韓国造船事業者に供与された助成が、WTO補助金・相殺措置協定(ASCM)第3条及び第5条に違反するとして、異議申立てを行った。TBR委員会と協議の上、欧州委(EC)は、2000年12月2日に調査を開始した。調査は、1997年1月1日から2000年11月30日までの期間(第1次調査期間)を対象とするものであった。
2001年5月に委員会の調査報告書が加盟国諮問委員会(Member States Advisory Communittee)に提出された。輸出助成についての補足報告書が2001年7月に提出された。調査の結果、韓国は、主に国営の韓国輸出入銀行(KEXIM)による輸出補助と、政府系金融機関または政府の監督下にある金融機関による債権免減、債権の出資への転換を通して、相当額の助成を供与していたことが明らかになった。
韓国政府助成により便益を受けたとされる韓国造船事業者は、漢弩重工(現在の三湖重工)、大東造船、大宇重工(現在の大宇造船)、現代重工、現代尾浦、三星重工、韓進重工建設会社である。
さらに、問題の助成はWTO助成協定に照らして、(EC)共同体産業に不利な影響を及ぼしており、それゆえに、制裁措置の対象となり得るとの証拠が存在した。
具体的には、第1次調査期間中に、共同体産業はASCM第5条及びTBR第2条(3)、第2条(4)に照らして被害を被ったことが証明された。この被害は、ASCM第5条(a)に照らして、「実質的損害」(material injury)2の形、つまり、大幅な廉売、市場シェアに対する負の影響、キャパシティ稼働率、収益率、船価、雇用、投資という形で、またASCM第5条(c)に照らして、「深刻な権利の侵害」(serious prejudice)、すなわち、大幅な廉売、船価の下落、受注を奪われるという形で被ったものである。
実質的損害を及び深刻な権利の侵害を被った船種としては、コンテナ船、プロダクト/ケミカル・タンカーが特定された。損害及び深刻な権利の侵害は、程度は軽いが、バルクキャリア、石油タンカー、また旅客/ROROフェリーでも認められた。その他の船種では、損害または深刻な権利の侵害は認められなかった。クルーズ船では損害または深刻な被害が発生する可能性は立証されなかった。
2001年11月26日、CESAは、2000年12月1日から2001年12月31日の期間に被ったとされる損害/深刻な権利の侵害を調査することを目的とし、TBR報告書の不利な影響についての分析の見直しを欧州委に対して要請した。追加調査対象期間は第1次調査期間の終了から13ヵ月間にあたる(本調査期間)。
具体的に、CESAは、当該期間に造船市場において重大な新たな情勢の展開があったと主張している。第一に、CESAは、ECの造船業に対する運営助成が2000年12月31日に失効したため、韓国助成の影響はさらに深刻なものとなったと主張している。第二に、韓国助成の影響は、前年と比べて相当な成長をとげた市場部門において顕著になっている。
欧州委はCESAの要請を受けて、2001年12月4日に追加調査を開始した。
損害の評価を最新のものにするために、委員会は第1次調査に協力したEC域内の21の造船事業者に質問票を送った。1社を除く全社が回答に応じた。さらに、第1次調査には協力しなかったフィンランドのクバナーマサ造船所は、自発的に質問に回答した。委員会当局はこれらの造船事業者のうち6社(次表では星印で示されている)を実際に訪問して確認を行った。
さらに、韓国造工(KSA)とCESAが意見の陳述を要請し、委員会による聞き取りが行われた。
先に言及したように、調査の見直しの要請は、CESAがEC造船産業及びEC造船事業者に代って行ったものである。CESAはTBRの第3条、第4条に従ったEC企業団体である。CESAはEC内に事務所及び主要事業所を持つ船舶建造修理事業者の国内団体で構成されている。CESAに加盟していない企業で、重要な造船活動を行っているものはない。それゆえにCESAはEC域内の民間船舶建造・修理産業全体の大部分を代表している。
追加調査の対象となる産品は、第1次調査で対象とされたものと同一であり、商船からなる。船種は以下の通りである。
−バルク・キャリア
−プロダクト/ケミカル・タンカー
−コンテナ船
−石油タンカー
−旅客/ROROフェリー
−LNG船
−LPG船
−その他の貨物船
−その他の非貨物船
クルーズ船については、追加調査により、韓国造船事業者は本調査期間中にクルーズ船を建造しなかったことが確認され、同船種は損害分析から除外された。しかしながら、商船建造市場の全体像を示す目的で、世界の新規契約の動向を説明する表では、クルーズ船データも含まれている。
第1次調査と異なる部分は、市場における新たな重要な展開とされるものを考慮して、LNG船を個別の部門として扱った点である。明確を期するために、LPG船も個別の部門として扱った。
韓国造船所に代って、韓国造工(KSA)は、本調査期間における助成の存在と市場の新たな情勢に関して、韓国政府または韓国造船所から情報を求める努力が為されなかったという理由で、公正なヒアリングを受ける権利が侵害され、また、委員会が適当な注意(due diligence)を払う義務を履行しなかった、と論じでいる。助成に存在に関しては、「因果関係(Causal Link)」の角度から、後で論じる。
適切な手順が踏まれていないという主張に関しては、CESAの要講による本調査は報告書の損害の面に限定されていることをまず指摘しなければならない。その結果、本調査期間中に損害を被ったと主張し、なおかつ第1次調査に協力したEC造船事業者にのみ質問票が送られた。
第二に、委員会は韓国政府及び韓国の輸出業者ともに、自らの見解を提示する機会は十分に与えられたと考えている。韓国政府も輸出業者も追加調査の実施を知らされており、本調査期間における新たな情勢についてのコメントの提出を懇請された。さらに、委員会がどのような種類の情報を求めているかわかるように、EC造船事業者に送られた質問票のコピーも送付された。これに対して、KSAは委員会の関連部局とのヒアリングで、書面及び口頭で広範にわたるコメントを提出した。そのため、公正なヒアリングを受ける権利の侵害という主張には根拠がない。
同様に、委員会が助成問題について、韓国政府及び/又は韓国輸出事業者から詳細な情報を要請することを怠ったという申立ては、却下されなければならない。第一に、韓国政府または輸出事業者から、調査の対象を助成問題に拡大するようにという要請は全く受けていない。第二に、委員会部局は先の2件の報告書において助成問題の分析に結論を出している。委員会の所見を再検討することを正当化するような新たな情勢が存在するとの情報は委員会に寄せられていない。第三に、KSAのコメントは、新たな情勢が発生したかもしれないと大まかに暗示するものであり、その新たな情勢の性質や種類、またはそれが委員会の助成分析に与える影響を具体的に特定していない。最後に、韓国政府及び輸出入業者に具体的な質問票が送られなかったからといって、自らの利益に関係すると思われる問題について議論から除外されたことにはならない。
2 先の報告書では「相当な損害」(considerable
injury)という言葉が「実質的損害」(material injury)の意味で使われたが、法律上の明確性を期すために、本報告書では「実質的損害」(material
injury)を使用する。
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