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B.2.3 資本構造改善計画:Capital Structure Improvement Plans(CSIPs)
B.2.3.1. 説明
 1998年1月、韓国政府、主要な債権者である銀行、5大財閥(大宇、LG、SK、現代、三星)の経営者は、債務資本比率を200%以下に減少させることを日的とした企業改革に関する主要原則に同意した。合意された主な対策は、企業の透明性を高める、相互の債務保証を止める、資本構造を改善させる、中核業務部門に集中する、財閥の関連会社の数を削減することである。この他にも7つの主要な産業分野における財閥間の資産の交換や統合に関する規定を設け、これらの産業分野における過剰な生産力を削減することにも同意された(“Big Deals”として知られている)。10
 
関係した造船所
 現代グループ及び三星グループが資本構造向上計画を実行している。
 
 現代重工(HHI)は、現代グループの一員である。同社は世界最大の造船事業者であり、世界の造船市場の13%以上を占めている。同社は広範囲にピジネスを広げており、造船(1999年には同社の売り上げの56%を占めた)、機械、産業プラント、海洋及びエンジニアリングを手がけている。
 
 三星重工(SHI)は、1974年に韓国で公に株式会社となった。韓国で2番目に大きい財閥である三星グループの一部である。造船業は同社の主要ビジネスであり、売り上げの70%を占めているが、同社は多くの他のビジネスも積極的に行っている。同社は3つの部門から成り立っており、造船・プラント部門、デジタル・環境ビジネス部門、建設部門に別れている。
 
 三星及び現代についての詳細は補稿を参照。
 
B.2.3.2 補助金の交付に関する分析
 CSIPsに従った債務リストラでは、調査の対象となった造船所に対し、補助金は交付されていなかった。自らの財務状況を強化しようとする企業側が、資産売却、株式発行やその他通常の企業金融の形で対策を実施し、公的な資金は使用しなかった。そのため、現代重工、現代尾浦、三星重工がCSIPsを通じて補助金を受け取ったという証拠はない。
 
B.2.4.1 説明
 裁判所の介入なしの債務リストラ・ワークアウト(以下「ワークアウト」)は、倒産関連法の適用を受けずに企業を救済するプロセスである。そのため、債権者である銀行と企業との間の同意により、債務は帳消しやリストラされる。
 同ワークアウト手続きのもと、負債を有する企業が再建可能だとみなされると、企業の財務状態を健全化するため、企業の債権者によって救済される。このため、債権を有する銀行は負債を有する企業に対し管財人を送ったり、清算手続きを求めたりする代わりに、ワークアウト計画を採用して企業のリストラに参加することに同意する。ワークアウト計画は、一般的に多くの金融上のリストラ対策(債務の繰り延べ、出資転換、利息軽減、負債免除)、そしてある程度の経営上のリストラ対策(資産の売却、企業分割、経営者の交代など)を有する。
 
 このワークアウト計画は、韓国が国家レベルでの金融破綻の最中に、同国の上位64財閥の金融上の問題を解決し、将来性のある職を維持し、不必要な破産を避ける方法としては最適であると韓国政府に支持された。計画は任意の企業ワークアウトに関するロンドン・アプローチ11と呼ばれるモデルに従い、金融監督院が設けたガイドラインの枠組みに基づき作成された。
 
 韓国におけるワークアウト・プロセスの基本的な契約上の枠組みは、1998年6月25日の企業リストラ協定(Corporate Restructuring Agreement:CRA)であり、210の金融機関が参加した。12
 
 2000年8月までに、大宇グループの関連会社12社を含む104社の会社は、各々に対して債権を有する銀行の幹事行によりワークアウトを受け入れられた。13
 CRAは2000年12月末に失効し、それ以降は新しいワークアウトの協定が金融機関によって受け入れられている。
 
手続き
 金融監督院は最初に財閥の主取引銀行を特定する。通常、主取引銀行は当該財閥に対するの最大の債権者であり、会社のワークアウトの条件について交渉する権利を有する。主取引銀行はその後会社に対し、手続の開始に係る書簡を送り、会社のリストラ・プロセスを提出するように要請する。申請者は主取引銀行が任命した選定委員会が受け取り、成功の可能性によって選抜される。他に取るべき手段は倒産となる。ワークアウトの適切さは、CRAに基づく適切性基準及びワークアウトの手続きに従い、主取引銀行により決定される。CRAの第15条によれぱ、ワークアウト・プログラムの採択には会社の未払い債務の75%以上を所有する金融機関の承認を必要とする。14
 
韓国政府の役割
 ワークアウト・プロセスは、CRAに従って債権者である金融機関が裁判所の介入なしにワークアウト・スキームを実行するものである。同プロセスの適用に関する全ての決定は債権を有する銀行によって行われる。韓国政府は各々のワークアウト計画の実施には直接関与しない。韓国政府の役割は、債権者である国営銀行の参加を通じて、または韓国政府が株主となっている銀行に対する株主としての権利行使を通じてと間接的である。後者のケースとしては、韓国預金保険機構(KDIC)が韓国政府を代表している。15
 
金融監督院の役割
 金融監督院がライセンスの供与や監督に直接責任を有する金融部門とは異なり、企業部門に対する金融監督院の役割はより間接的である。金融監督院は、ガイドラインを策定することによって、原則と手続に関する全体的な枠組みを与えることに主な責任を有する。また、金融監督院は、主取引銀行の特定、CRAに対する主取引銀行の支持の獲得、銀行による企業リストラ委員会の設立を促進する等の具体的な行動を取ることによって、ワークアウトの手続き促進に貢献している。この他、金融監督院は、(金融機関に対する融資規則の強制化と同時に)金融機関によるワークアウト計画の実施状況の監視も行う。
 
ワークアウト・プロセス下での手法
 負債のリストラの方法は、ワークアウト計画の対象である会社の固有の状況によって大きく異なる。金融機関は下記の援助のいくつかを与えることができる。
 
―ローン及び利子の返済期限の延長
―利息の免除や利子の削減を含む利子の軽減
―短期ローンの長期ローンヘの転換
―債務の出資転換
―転換社債の引き受け
―追加的なローンの供与
―支払保証の決定
―債務免除
 
 上記の手法は、債務リストラパッケージの構成要素となる可能性のあるものであり、特定の会社に対するワークアウト手続きにおいて金融機関の同意が得られるかもしれない。そのため、上記の構成要素が別のプログラムを構成することはない。
 
 債務リストラの承認は、ワークアウトの対象となる会社が自らリストラ(自らの救済)を遂行することを条件として、金融機関から与えられる。これらのリストラには会社の経営に関わる以下のリストラ方策が含まれる。
 
―土地、建物、株式などの資産の処分
―中心的なビジネスヘの集中及びそれ以外のビジネスや子会社の譲渡
―給料支払額や従業員数の削減
―経営者の交代
―無条件の資本削減
―主要株主による経営権の放棄
―主要株主による個人資産の供出
 
 上記の各種対策の選定は、債務を有する会社の固有の状況を考慮し、また、独立したコンサルティング会社にょる当該会社の財務及びビジネス状況の調査をもとに、金融機関によって行われる。
 
このスキームが採られた造船所
 
 大宇造船:DSME(以前の大宇重工:DHI)は、世界で2番目に大きい造船所で、ワークアウト・プロセスを取り入れた。
 
 大宇重工は1963年に設立され、1976年に大宇グループの一部となり、同日以降、同社の株式は上場された。DHIは造船と機械という2つの主な部門を有していた。1999年8月26日、CSIPの実施に失敗したことにより、大宇グループ(大宇重工を含む)はワークアウト・プランの採用を申請した。2000年10月23日、大宇重工は同プランのもと、同社の2部門を分離した。造船部門は大宇造船(DSME)に、重機械部門は大宇重機械工業という新しい会社になった。大宇重工は分離された会社に譲渡されなかった特定の資産及び債務を処理するために存続した。同社のワークアウト計画には、新会社に対する出資への切り替え(2000年12月14日に終了)や債務再計画に関する債権者間の合意も含まれている。
 
大宇の状況の詳細についてはANNEXを参照。

10 石油化学、航空、鉄道車両、原動機、舶用機関、半導体及び石油精製
11 「ロンドン・アプローチ」の用語は、1970年代の英国において、産業の不況に対処するため、イングランド銀行によって開発された手法を指す。
12 CRAは210の金融機関(韓国産業銀行や韓国輸出入銀行のような国営の金融機関を含む)によって署名された。内訳は、商業銀行及び特殊銀行(27)、商業金融会社(22)、投資信託会社(30)、証券会社(31)、開発機関(2)、リース会社(22)、クレジットカード会社(8)、債権買収会社(28)、生命保険会社(28)及び海上火災保険会社。ワークアウト・プロセスの効率的な実施は、企業リストラ委員会によって行われた。この委員会は、(i)プロセスに参加する金融機関によって採択されるワークアウト・プロセスの基本的な契約スキームを準備するとともに、(ii)ワークアウト・プロセスの導入に関し、金融機関間の意見の相違を仲裁するための臨時の組織として金融機関によって設立された。
13 これらの会社のうち58の企業が、計画の中止、会社の合併、計画の早期完了により、2000年末までに計画を離れた。
14 ワークアウト・プログラムの下での意思決定プロセスの一般的な流れは以下のとおり。
―ワークアウト・プログラムの透明性を高めるため、申請会社が債権を有する銀行に対しワークアウト・プログラムを採るよう要請する、または、債権を有する銀行が自ら当該会社をワークアウト・プログラムの下で取り扱うことを決定することができる。
―債権を有する銀行の幹事行は、企業リストラ委員会との協議を経て、債権を有する金融機関の協議会(CFIC)の会合を召集する。
―召集から10日以内にCFICの会合が開催される。同会合では、申請会社に対する債権の総額の3/4以上を有する金融機関の承認により、当該会社をワークアウト・プログラムの下で再建可能であると決定することができる。
 承認の後、債権を有する銀行の幹事行が、外部のコンサルティング会社の助言に基づきワークアウト計画を準備し、同計画は協議会に提出される。この計画は、債権の総額の3/4以上を有する金融機関の承認により最終化される。幹事行は、申請会社との間で、ワークアウト計画の強制実施に関する覚書(MOU)を締結する。
 ワークアウト計画を実施するため、幹事行はワークアウト会社に対し経営チームを派遣することができる。このチームは、当該会社におけるリストラの進捗状況をつぶさに監視する。ワークアウト手続きの過程で、関心を有するグループ内で意見の相違が発生した場合には、企業リストラ委員会(CRC)により仲裁される。
 CRCは、企業リストラ協定の第7条に基づきワークアウト・プロセスに参加する金融機関により臨時に設置される組織である。CRCの機能は、ワークアウト計画の実施に際して金融機関を支援すること、及び、同プロセスの間金融機関間に発生する意見の相違を仲裁することである。CRCは、プロセスに参加する金融機関により銀行家及びリストラの専門家の中から指名される、7人の委員で構成される。
15 韓国預金保険機構は、金融機関に対する預金保険機構である。韓国預金保険機構の主たる役割は、金融機関が破綻しその預金の払い戻しができなくなった際に、預金者を保護し、金融システムをサポートすることにある。







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