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第7章 排ガス削減対策の将来展望
7−1 【規制関連】
 海運事業の有する国際的な性格から、規制ルールを制定し、それを実効あるものにするに当たっても全世界的な合意形成や手続きが前提となり、このための作業には応分の時間を要するものと考えられる。このため、船舶からの有害な排気物質の削減に関する規制の早期実施(条約発効)についても、当該条約の現行の発効要件の見直し案も浮上するなどIMOを中心とした水面下での議論もなされてはいるものの、遅々として進んでいないのが現状である。この状況を睨み、EU加盟国はIMOや海運等の関連業界に対し、条約の早期発効に向けた働きかけを行っており、また、EU内でIMOの条約案(MARPOL条約附属書VI)の内容を先取りするような独自規制の実施について世界に向けて意図表明するなどの動きが出てきている。このような地域的な動きが、国際的な統一行動のペースを促進する契機になればと期待されるところである。
 
 現在未発効となつている条約案では、30%のNOx削減、50%のSOx削減が要求されているが、ノルウェー船級協会等からはNOxの50%削減の声も挙がっている。
 
7−2 【市場関連】
 また、他方で、これら規制の実施にあたっては、船舶からの排出ガスが基準に適合していることの確認及びその立証方法や排出ガス削減措置に係る費用負担を誰に負担させるかについても疑問視するなど、その実施の担保に懐疑的な見方もある。エンジンメーカーの視点からは、例えば、彼らにとっての問題は、新型にしろ既存モデルの改造にしろ、規制基準に適合した機種を世に送り出すまでにそれ相応の時間を必要とすることである。エンジンの試運転には数千時間に及ぶ性能や耐久性についての確認試験を伴い、また、市場へのマーケティングについても新たな時間と労力が必要となる。一般的に、明白な市場ニーズがある場合でも、市場に導入するまでには2〜3年の準備期間を要するといわれている。
 
 このようなメーカー側の主張に対し、試運転には時間と膨大な費用がかかることは認めつつも、現在、大多数の舶用エンジンは一部の例外を除いては、その大半は既に附属書VIに適合する機種が生産されているという、ロイズ船級協会のコメントも一方では存在する。この指摘を裏付けるように、最近の環境問題への世界的な関心の高まりの中、船舶からの排出ガスの削減対策の必要性については、船主や造船所もよく理解している。現在彼らが導入を検討している機種のエンジンは、10年以上前のものと比較してより低価格、高品質で排出ガス量も遥かに少なくなってきていると証言する。さらには、自社のイメージアップ等の理由により一部顧客からは、自身の環境対策責任を果たすとの意味から、エンジンメーカーの協力を得ながら、ユーザー自身が環境対策に対する目標を設定し始めるようになった。今やほとんどのケースの場合、環境対策に係る性能要件は、エンジンの機種選定に際し、運航コストや製品価格と同様に重要なファクターと考えられるようになっている。
 
 しかしながら、排出ガス削減とコストとは相反するものと考えられている。技術の進展等により大気汚染物質の排出ガス量は今後さらに削減可能なものになっていくであろうが、そのために要する費用は関係事業者への負担となって跳ね返ってくる。船主、造船所等関係業界は、彼らの環境問題に対する責任は理解、浸透してきているところではあるが、彼ら自身の利益や株主に対する利益供与の責務についても配慮していかなければならないところである。
 
参考文書
本調査報告書のとりまとめにあたり参考とした関連EC指令等は以下のとおり。
 
大型燃焼プラントからの特定大気汚染物質の大気への排出制限に関する10月23日付け欧州議会及び欧州委員会指令2002/80/EC
特定の大気汚染物質の国別排出量上限に関する2001年10月23日付け欧州議会及び欧州委員会指令2002/81/EC
 
“外航船舶からの大気汚染物質に関する欧州共同体戦略”、欧州委員会討議資料、環境総局、C局(環境及び健康)、C1部門(大気及び騒音)、2001年1月発行
 
“外航船舶からの大気汚染物質に関する欧州共同体戦略についての討議資料に対する反応報告”環境総局、C局(環境及び健康)、C1部門(大気及び騒音)、2002年7月発行
 
“欧州共同体における港間の船舶移動で船舶から発生する排出物の数量化”、欧州委員会委託によりEntek UK Limited社作成の報告書、2002年7月発行
 
“船舶からのSO2及びNOx排出を削減するEU制度の経済、法規、環境及び実務上の影響に関する研究”欧州委員会の委託によりBMT Murray Fenton Edon Liddiard Vince Ltd作成の報告書、2000年発行
 
“海上交通からの排出物を削減するための経済上の方策”、Per Kågeson作成の報告書。スウェーデンNGO酸性雨事務局、欧州環境局(EEB)および欧州交通環境連盟(T&E)による共同出版
 
“地域的及び国際的海洋廃棄物法規を遵守する方法”、Ole Grone及びKjeld Aabo共著、MAN B&W Diesel A/S社(デンマーク)
 
海事ガイダンスノート142号、海上保安庁(英国MCA)、2000年1月発行







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