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6−5 【第二方式(Secondary Methods)】
 
6−5−1 【選択還元触媒(SCR)】
 これは排気ガスを事後処理するシステムで、窒素酸化物(NOx)排出量を90%以上削減することが可能であり、大半の意見では、窒素酸化物(NOx)削減を高レベルで実現できる唯一の技術であるとされている。また、排ガス消音器(サイレンサー)が必要なくなるという利点もある。
 
 2ストロークエンジンの場合はエンジンそのものの内部に組み込まれるが、4ストロークエンジンの場合は、エンジン運転にあまり干渉しないEnd−of−Pipeユニットとして使われる。SCR装置は、航行中の船舶に設置することが可能で、受注から6ヶ月以内に委託することが出来る。
 
 SCRでは、燃焼排気ガス流が触媒コンバータを通過する前に、尿素又はアンモニアをこれに噴霧することによって窒素酸化物(NOx)を窒素ガスに変化させる。削減コストは、NOx排出量kg当り0.6ユーロ以下となるが、もし船舶の建造中にこのユニットを設置できる場合はもっと安価となる。
 
 SCR装置は、1960年代に日本で開発された技術が基礎となっており、その技術は最初のDENOX装置が開発された1985年以来あまり変化していない。これは欧州で初めてHaldor Topsoe社によって開発された(MAN B&Wとの提携によって、ディーゼルエンジン向けSCR DENOX技術を最初に用いた)触媒作用に基づくものであった。最初に応用されたのは、陸上用発電装置であったが、現在は50隻以上の船舶がSCRを搭載している。このうち半分はスウェーデン船籍で、残りも殆どがスウェーデンに寄港する船舶である。
 
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SCR技術の仕組み
 
 NOx削減第一方式の多くが古いエンジンには適用出来ないと同時にこれらのエンジンの殆んどはIMO(あるいは特定の国の法規または地方条例)の規定に抵触する。そのため、SCRのような第二方式が必要となることは明白である。スウェーデンの航路税制度は、SCR技術の採用を促進したと思われているが、実際のところ、航路税の割引で節約できる分は、SCR設備の設置にかかるコストを正当化するものではない。
 
6−6 【二酸化硫黄(亜硫酸ガス)】
 船舶からの亜硫酸ガス(S02)排出は、酸の堆積や、大気汚染の原因となる微粒子群の生成の原因となる。この排出量は、燃料の硫黄含有率に直接比例する。これを削減する最も安価で簡単な方法は、硫黄含有率の低い燃料を使用することである。現在のところ平均的な硫黄の含有率は約3%であるが、低硫黄油も使用されてはいる。この使用に際しては、エンジン改造の必要も無く、追加コストも取るに足らないものである。硫黄含有率0.5−1.0%の油は、トン当り約140−160米ドルである(硫黄含有率の高い油はトン当り約130米ドル)。その高品質故に、低硫黄含有燃料を使用すれば運航上の色々な問題が起こり難く、円滑なエンジン運転が可能となる。
 2001年11月のIMO会議で、更なる低硫黄含有燃料使用の促進を狙って、各国政府に対し、各々の管轄区域内で低硫黄含有燃料が入手可能となるよう要請し、石油・海運業界に対しては、低硫黄含有燃料が容易に入手でき、容易に使用できるよう要請する決議に関して合意に達した。低硫黄含有燃料は現在EU域内港湾の95−99%で入手可能と考えられている。
 
 排ガス浄化装置あるいは排煙脱硫(fgd)装置として知られている(高硫黄含有燃料を、許容レベルまで「浄化する」ことを狙う)ユニットを船舶に据え付けることも可能である。ただしロイズ船級協会は、排ガス脱硫装置の使用は環境にとって有益でないとみなしている。実際に、MARPOL条約附属書VIのもとで、SOx制御方法の一オプションではあるが、ロイズ船級協会によって「環境保護覚書」(Environmental Protection Notation)を船舶に対して発行する際のオプションとしては認められていないのである。これは、ロイズ船級協会が、海洋環境に対して更に硫黄化合物を排出すると顕著な問題となると認識している一方で、排気ガスの脱硫装置(fgd)は海洋環境にとって悪影響を与える有害物質、とりわけ重金属類、分解しにくい有機化合物、大気汚染の原因となる微粒子等の排出を招くとみなしているためである。
 
6−7 【二酸化炭素(炭酸ガス)】
 炭酸ガス(CO2)は、温室ガス効果の主原因である。即ち地球温暖化によって異常気象を引き起こす温室効果の最大要因となる。1997年12月の京都議定書において、温室効果ガス(そのうち最重要要素がこの炭酸ガスとされている)削減目標として、地球全体で排出する温室ガス量を、2008年から2012年の間に少なくとも1990年レベルより5%以下に削減するという目標値が設定された。世界的な炭酸ガス排出量のうち、海運による排出は比較的少ない(約2%)が、今後世界貿易拡大が継続し、海上輸送の高速化が要求される場合、これが増加すると予想される。
 
 炭酸ガスの排出は、二硫化硫黄と同様に燃料と相関関係にある。すなわち、燃料に含まれる炭素と、プロセス内での特定の燃費と比例している。また、炭酸ガスの排出は、二硫化硫黄と同様に、発電装置の総エネルギー効率改善、そして石炭よりも石油の使用、石油よりも天然ガスの使用、更に、天然ガスよりもバイオ燃料を使用することによって、炭酸ガス排出量は削減できる。ディーゼル・プロセスと、ガスエンジン向けオットー・プロセスは、シングルサイクルにおける最高の効率が実現可能であり、ディーゼルエンジンおよびガスエンジンの効率は、近年飛躍的に改善されてきた。なお、排気ガスからC02を取り除く実践的方法は未だ確立されていない。今のところディーゼル発電プラントの数基のみがDESOX能力を装備しているに過きない。
 
6−8 【煤煙】
 可視煤煙は最近、海洋市場、特にクルーズ船、客船において大きな問題となっている。世界中の港湾の殆んどが人口密集地に近いことから、どんな状況のもとでも肉眼では見える煤煙をなくす必要が、今後益々重要となることは予見出来る。
 
6−9 【揮発性有機化合物(VOCs)】
 揮発性有機化合物(VOCs)は、炭素を含む化合物で、常温で直ちに気化し、地上でのオゾン層生成の一因となる。VOCsは積荷時に排出されるものであるが、最近の調査では、この排出量がEU全体の排出量のうち0.07%に過ぎないことと、排出削減対策には多額の費用がかかる一方で、VOCs排出全体を鑑みて、対策効果がコストを正当化できないことが判明した。これを受けて、欧州委員会(EC)は、海運部門よりも、他部門におけるVOCs排出削減を優先事項としている。







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