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第5章 EU加盟各国の動向
5−0 【概要】
 EU加盟国のうち、船舶からの排ガス削減問題について措置を講じている国、強固な意見を有する国はごくわずかである。実際のところMARPOL条約を批准しているのはスウェーデンとデンマークにすぎない。スウェーデンは他に先んじて、1998年1月から環境に対する影響を考慮した独自の航路税を課している。この政策によるインパクトは限定的なものではあったが、重要なジェスチャーであると認識されている。これに対して英国はより慎重な態度を取ってきたが、一方でデンマークはEU加盟国の中で唯一、MARPOL条約に対して積極的な態度を示してきた。
 
5−1 【加盟国の自主的な措置】
 MARPOL条約附属書VIが批准されない限り、独自の汚染防止規制を導入する国が多いことから、特定区域を対象とする法規(local rules)が次々と発効されると予想される。
 
 船舶からの排ガス問題に関して対策を既に講じている国もあるが、EU全体で考えると抜本的な対策は確立されていない。国によっては(ベルギー、フランス及びスウェーデン)硫黄含有量の多い舶用ガス・ディーゼル油の販売を禁止したり、他の処置を取ったりしている。最も強硬な対策を講じているのは、スウェーデンと思われる。
 
5−2 【スウェーデン】
 スウェーデンでは1998年1月から環境に与える影響に沿った航路税が課せられている。港税も又、スウェーデンの主要な港で差異化されているが、港湾当局はそれぞれ独自に規定を定めており、貿易を港にもたらすために港税を使用するため、国全体で合意の上設定される航路税と比較すると差異化は限られてくる。
 
5−2−1 【航路税の仕組み】
 船主は、硫黄含有量がフェリーで0.5%以下、貨物船で1.0%以下の燃料油を使用することで、総トン当り0.1ユーロの割引を受けることができる。NOx削減に関しては、kWh当りの排出重量(グラム)で割引率が決まる。若しNOx排出がエンジン負荷75%の際に12g/kWhを超えていると割引とはならない。NOx排出がこのレベルを下回る場合は、最低で2g/kWh以下の際に総トン数当り0.18ユーロという段階まで、徐々に割引率が高くなってゆく。このようにフェリーと貨物船の場合は、硫黄低含有の燃料で運航し、NOx排ガス削減のための最新技術を駆使することにより、合算して総トン数当り0.28ユーロの割引を受けることが可能となる。この他支払うべき税金は、この制度が始まった1998年以前より0.13ユーロ少ない総トン数当り0.28ユーロのみとなる。排ガス対策管理を実施していない類似船舶の場合は、0.56ユーロ、あるいは1998年以前と比較して0.16ユーロ負担が増えることになる。
 
 1998年以降、大手荷主数社が「環境に優しい輸送」を要求したことによってある程度拍車が掛かったこともあって、低硫黄含有燃料で運航する船舶数が急増した。この制度が導入される前から一部の船舶では前倒しで対策を取っていたものもあるが、2000年12月までにスウェーデンの港湾に定期的に寄港する3,500隻のうち1,450隻は低硫黄含有燃料で運航されるようになった。
 
 これまでNOx排ガス問題に関しての反応はそれ程顕著なものではなかった。2001年10月時点で航路税減額申請は約30隻分のみにとどまっていた。この比較的低い数字にも拘らず、年間NOx排ガス量は27,000トン減少すると見積もられており、一方で排ガス対策を実施する船舶は徐々に増えるものと期待されている。この硫黄含有率とNOx排ガス対策における対応の違いは、低硫黄含有燃料への切り替えがコストも大してかからず、実施が安易であることに対して、NOx排ガス削減に関しては多額の投資が必要となり、この投資に関しては利益率の問題が絡んでくるからである。もっと多くのEU加盟国が環境に優しく差異化された税制を導入するならば、より多くの船舶が対策を実施するようになるのは明らかである。
 
5−2−2 【航路税の弱点】
 このスウェーデンの制度の弱点は、汚染物質の総量に大きく影響する航行距離を考慮に入れていないことである。従って短距離にある港湾間を航行する船舶は、長距離を航行する船舶に比べ相対的に多く払うことになる。ただし、この不利益は頻繁に寄港する船舶に与えられる割引によって、一部相殺されるものではある。排ガス量と航路税が真に比例するように変更するならば、その一つの手段として、頻繁に寄港する船舶に対する割引制度を廃止して、直前の寄港地からの航行距離を考慮に入れて課税する方式が考えられる。このように現状では、スウェーデン方式は実践的と言うよりも象徴的なものであるが、スウェーデンが環境保護に積極的に取り組んでいることを明らかに実証する重要なジェスチャーであるといえる。
 
5−2−3 【スウェーデン以外の航路税制度】
 船舶からの硫黄と窒素酸化物の排ガス量に比例して差異化された港税は、現在オーランド諸島のマリエハムンで導入されている。またフィンランドのヘルシンキ港とドイツのハンブルク港では、低硫黄含有量燃料を使用する船舶に対して低い税率を課している。環境に優しい、差異化されたトン税が最近ノルウェーで導入されたが、スウェーデンの制度と比較すると、排ガス削減に対する奨励度は弱いといえる。
 
 スウェーデン海事局はスウェーデン政府の代表として、1998年5月18日にMARPOL条約附属書VIを批准した。しかし、スウェーデンは世界的なNOx排ガスと舶用燃料の硫黄含有量の規制に関して、附属書VI条文を補強することを希望している。
 
5−3 【英国】
 英国が附属書VIの批准するための障害となっているのは、NOx排ガスに関するエンジン要件と、欧州連合の娯楽舟艇指令(Recreational Crafts Directive)94/25/ECとの間の葛藤という見方である。この矛盾が解決されれば、英国は附属書VIを速やかに批准すると期待されている。
 
 英国は、欧州委員会が提案している、「EU域外である第三国からの船舶がEU港湾に初めて寄港する際に、低硫黄含有舶用燃料に切り替えるという要件」に関しては、実践的ではないとして反対を表明している。更に英国は、個々の船舶に排ガス脱硫(FGD)装置を設置するよりは、むしろ燃料油の精製段階で硫黄分を取り除く方が、コストの面で効果的としており、ガス洗浄装置(scrubbers)は水質に影響するとの理由で、特定の港湾では使用出来ないことも付け加えている。
 
 英国の海事局(MCA:Maritime and Coastguard Agency)による附属書VIの解釈は、海事ガイダンス備考書(Marine Guidance Note)142として知られている。この備考書は、舶用ディーゼルエンジンにおいてどのタイプがMARPOL条約附属書VIの対象となるか、そのテスト・検査・認証に関する要件は何か、そして遵守状態実証の手続きを設定するものである。同海事局は、検査・認証要件に関して、ロイズ船級協会(LR)やフランス船級協会(BV)など他国に拠点を置く類似団体の英国委員会に委任することを提案している。







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