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4−9 【新規制条件】
 指令1999/32/ECの第7.3項は、ガスオイル以外の船舶燃料の燃焼による酸性化を削減するために、欧州委員会が、どの措置を講じることが可能かを検討し、妥当と判断される場合、提案を提出しなければならないと規定している。
 
4−9−1 【特定区域船舶用燃料性質の制限強化】
 最初に提案された修正によって、北海、イギリス海峡およびバルト海で使用されている重油も含めたすべての船舶用燃料について、MARPOL条約附属書VIの下で亜硫酸ガス(SOx)排出量制限区域に関してIMOで同意された制限に相当する、新たな硫黄含有率制限が導入されることとなる。
 
 数多くのEU加盟国、候補国およびEU以外の大国によって、MARPOL条約附属書VIが批准され(ると期待されており)、国際的な合意による硫黄含有率制限が、この指令の発効から12ヶ月後、あるいは附属書VIが発効してから1年後に実施される見込みとなっている。
 
4−9−2 「客船に使用される燃料性質に対する制限強化」
 第二提案の目的は、亜硫酸ガス(SOx)排出量制限区域指定による恩恵を被らない、人口の密集している南ヨーロッパ都市部での排出量を削減するために、EU域内の港湾に発着する定期旅客船が使用するすべての船舶用燃料に関して、同一の硫黄含有率1.5%制限を設定することである。
 
4−9−3 「EU域内において基準適合の船舶用燃料の入手可能の確保」
 第三提案の目的は、すべてのEU加盟国において、基準に適合した硫黄含有率1.5%の燃料が充分な量をもって入手可能とすることにある。旅客船に関するこの提案がもたらす利点は、EU全体における低硫黄含有燃料に対する需要を生み出すことによって、加盟国が容易にこの目標を達成できるようにすることである。
 
4−9−4 「DMB及びDMC級のディーゼルオイルの販売規制強化」
 第四提案の目的は、DMBおよびDMC等級の船舶用ディーゼルオイルに対する硫黄含有率0.2%制限を撤廃し、さらに1.5%以上の硫黄を含有するDMBおよびDMC等級燃料の販売を禁止することにある。これによって、亜硫酸ガス(SOx)排出量制限区域の規定と適合するように、船舶用ディーゼルオイルが使用されるようになる。低硫黄含有重油がEUの域外で容易に入手できない可能性があるため、外航船舶にとって特に重要である。
 
4−10 【現行規制条件の修正】
 その他の修正は、指令1999/32/ECの第4項に基づく、現行の船舶用ガスオイル規制条件と関連している。業界との協議を通じて、エンジンが船舶用ガスオイルのみで運行する設計となっている内航船舶に関してはこれらの規定は有効であるが、外航船舶に関しては有効性があまり明確でないことが明らかになった。外航船の主推進エンジン駆動で圧倒的に使用されている重油に関しては、現在この指令は適用されていない。現行の国際的な船舶用燃料基準であるISO8217の下で、これらの燃料は最高5%まで硫黄分を含むことが許されている。
 
 エンジンとオイル加熱技術における進歩によって、外航船舶は常に重油で運行できるようになった。過去においては、粘度の高い重油を使うということは、入港時蒸留燃料に切り替え進路を制御し、バースに停泊する際には補助エンジンから発電機を駆動させねばならなかった。技術的進歩によって、安価だが硫黄含有率の高い単一燃料(uni−fuels)の使用が可能になったことにより、人口密集区域の近辺における二酸化硫黄(S02)、粒子状物質(PM)、および窒素酸化物(NOx)の排出量も上昇した。
 
 欧州委員会は、かなりの時間をかけて、都市部近辺における船舶からの大気汚染物質排出を削減する方法を検討してきた。その結果、環境的効果および規制徹底強制を鑑みた上での最良のアプローチとして、EU域内の港湾で使用される燃料の硫黄含有率を規制することを決定した。これを受けて、港湾区域の定義に関する疑問ならびに、同規制が港湾内を操縦中の船舶によって使用される燃料(主機用)にのみに適用するのか、あるいはバースに停泊中の船舶が使用する燃料(大抵の場合、発電用補機エンジン用)にのみ、あるいは、この両方に適用するのかという疑問が持ち上がった。
 
 船舶にとって、港湾内を航行中に、主機に供給する燃料を切り替えることは可能であるが、エンジン製造業者は、温度の急変にともなう燃料ポンプおよびインジェクタ装置で発生する不具合を回避するために、高粘度の重油を低粘度の船舶用ガスオイルに直接切り替えるには、20ないし60分の切替手順が必要となると忠告している。この手順のいずれかを省けば、一時的にエンジン故障が発生し、港に近い場合は特に危険となる。
 
 こうした実践的な検討とともに、港湾内での排出量の定量化が、提案を説明するために使用された。これによって、港湾内で船舶の操縦中に排出される大気汚染物質は、バースに停泊中の場合の排出量の4分の1であることが判明した。
 
4−10−1 「EU域内に停泊する船舶の燃料の規定の義務化」
 この提案の第一目的は、EU域内における全港湾のバースに停泊中の船舶が使用する燃料の硫黄含有率をすべて0.2%以下とすることを義務づけることにある。このアプローチは公正であるとともに、実践的で、容易に強制可能であるから、港湾内での船舶からの二酸化硫黄(SO2)、粒子状物質(PM)、窒素酸化物(NOx)の排出量を削減できることによって、局地的な大気の質を向上させることになる。
 
4−10−2 「DMA及びDMX級のディーゼルオイルの販売禁止」
 欧州委員会はさらに、規定に適合した燃料が確実に入手可能となることを狙って、硫黄含有率0.2%(2008年以降は0.1%)を上回る船舶用ガスオイル(DMAおよびDMX等級)の販売を禁止することも提案している。
 
4−10−3 「外航船舶の適用除外の撤廃」
 この最終要素は、“EU域外の第三国とEU加盟国の国境を通過する船舶が使用するガスオイル”に関しては、現在0.2%の硫黄含有率規定条件の適用を除外しているEU指令1999/32の第1.2項(a)に関連している。この適用除外条件は、統一された解釈および強制が難しいことが判明した。この規定は、外航船舶が、基準に適合したガスオイルをEU水域で使用するために、EU域外の港湾で入手することが必ずしも可能ではないという理由で盛り込まれていたのである。
 
 硫黄含有率0.2%以下の船舶用ガスオイルを世界中のどこでも入手することは困難であることが、欧州委員会の委託によって実施された世界の燃料市場に関する市場調査で明らかとなった。そこで新たに提案されている規制条件修正版によると、外航船舶がEU域内の港に停泊している間に限って硫黄含有率0.2%以下の燃料を使うよう求めているため、船舶がEU港湾に到着した時点で基準適合燃料の給油を受けることが可能となり、適用除外を設ける必要性がなくなっている。
 
 したがって、EU域外の第三国と加盟国の国境を通過する外航船舶に関する適用除外を撤廃することも提案されている。
 
4−11 【将来における技術的修正の調整を担う規制委員会の設置】
 欧州議会と欧州閣僚理事会によって、時間をかけて合意に基づく共同決定を確立してゆく手順よりも、むしろ、技術的又は結果的修正に関しては、規制委員会で合意にいたることが望ましい。このいわゆる“コミトロジー(欧州閣僚理事会が、欧州委員会の内部に特別委員会を設けることによって、事実上その決定を左右できること)”の手順は、共同決定によって政治的にすでに合意が成立している他EU指令の結果として必要となった修正である場合は、特に妥当といえる。またコミトロジーは、政策実施ガイドラインの作成など、非政治的な提案に同意する場合にも有益な手段である。しかしEU指令1999/32の下で設けられている規制委員会は現在のところ存在しない。
 
 したがって今後、政治的な議論を必要としない技術上の問題に関して決定を下すために、規制委員会が創設されることを目指す提案が行なわれる。ただし、この委員会は、燃料の硫黄含有率制限が直接的・間接的に修正される結果をもたらすような修正を採択するためには利用できない。







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