3−12 【外航船舶からの大気汚染物質排出を削減するためのEUの新戦略】
これを受けて2002年11月20日に欧州委員会は、外航船舶からの大気汚染物質排出を削減するための欧州連合(EU)戦略を採択した。この新戦略は、参照No.COM(2002)595:欧州議会及び欧州理事会への欧州委員会コミュニケと、船舶用燃料の硫黄含有分に関する指令のための添付提案と題する2つの文書から成っている。
3−13 【戦略目標】
この新戦略の総合的な目標は、EUにおける環境及び人の健康問題に対する船舶からの大気排出物の影響を軽減することにある。規範的な達成目標は含まれていないが、欧州委員会は、長期的にEU諸国の政策を導くための一般目標を数多く提案している。その内容は次の通りである。すなわち、
・二酸化硫黄(S02)については、酸性化の臨界負荷を超過させる場合及び、局地的な大気の質に影響を与える場合、船舶からの排出量を削減する。
・窒素酸化物(NOx)については、酸性化及び富栄養化の臨界負荷を超過させ、また、人の健康及び植物に影響を与える地表オゾンレベルを増やす場合、船舶からの排出量を削減する。
・一次粒子については、局地的な大気の質に影響を与える場合、船舶からの排出量を削減する。
・揮発性有機化合物(VOCs)については、健康及び植物に影響を与える地表オゾンレベルを増やす場合、船舶からの排出量を削減する。
・二酸化炭素(C02)の船舶からの排出量を削減する。
・EU水域内で運航中のすべての船舶からのオゾン層破壊物質の排出を根絶する。
欧州委員会は、委員会自体が行動を起こしたり、他の主要な利害関係者に適切な措置を勧告したりするなど、数多くの様々な方法でこの目的を実現することを目指している。
3−14 【IMOを通じた国際的な協調行動】
欧州委員会は、世界中の船舶の環境パフォーマンスを規制する最良の方法は、IMOを通じた国際的な行動であると信じている。さらに欧州委員会は、EU域内の海上を航行するがEU域内の港には停泊することとならないEU域外に船籍を置く船舶からの排出物を削減するためにもIMOにおける議論及びIMOを通じた行動が最良の方策であると考えている。2000年に欧州委員会が実施した船舶移動に関する調査では、EU域外の船籍を有する船舶によるEU域内水域の通過交通量は船舶移動全体のおおよそ50%を占めていた。この調査結果は、EU域外の船籍を有する船舶は、EU域内における総排出量の50%について、その排出に起因する責任を負っていることを示すものである。
3−15 【IMOのMEPCにおけるEUの立場】
欧州委員会は、船舶から排出される大気汚染物質、温室効果ガス及びオゾン層破壊物質の排出量を削減するためのより厳格な措置を迫るため、IMOの場においてEUの立場、主張を展開し続けている。
以上のことから、EU加盟国は、2003年7月に開催されるIMOの海洋環境保護委員会(MEPC 49)の会合に先立ち、可能な限りすみやかにMARPOL条約附属書VIを批准すべきであると考える。
また、MEPC 49の席上、加盟国は、MARPOL条約附属書VIに基づいたより厳格な国際基準(硫黄含有量について世界的な上限を4.5%未満とし、エンジンから排出される窒素酸化物(NOx)の量を9.8−17g/kWhよりも厳格にする等)の確立を迫るために、これまで加盟国間で調整を図ってきたEU独自の立場を支持すべきである。
3−16 【今後のIMOにおけるEU対応措置】
加盟国は、船舶からの温室効果ガス排出制限のための戦略を推進することとなるあらゆるIMOの作業を支援するとともに、当初は、船舶からの温室効果ガス排出量に関する自主的な環境指標を設ける制度を確立するものの、将来は必要に応じた長期的な義務的措置を講じることが妨げられないようにすべきである。IMOが2003年までに具体的で意欲的な戦略を採択しなかった場合、欧州委員会は、温室効果ガスの船舶からの排出を削減するために必要なEUレベルでの措置を講じることを検討していくこととなる。
加盟国は、気候変動に関する国際連合枠組条約(UNFCCC:United Nation Framework Convention on Climate Change)に則った当事国の国別インベントリーに船舶排出物を割り当てることを顧慮しながら、国際航海に従事する船舶に売却された燃料に係る温室効果ガス排出量の報告に関連する方法論について、IMOの考察を支援すべきである。
加盟国は引き続き、IMOの事前会合で調整が図られたEUの立場を発展させ支援すべきであり、さらに、欧州委員会委員長または欧州委員会がIMOにおいて欧州の意見を発表できるような新たな経過措置についても支援してゆくべきである。
3−17 【排出基準に関するEU規則】
EUの港、域内の河川及び排他的経済水域での船舶からの大気汚染物質の排出量を削減する最良の方策として、欧州委員会は、排出基準に関するEU規制を検討している。しかし、国際法は、沿岸水域における国際航行船舶への規制、特に、船舶の建造、設計、並びに船舶の設備及び人員に関する規制については、沿岸国(及びEU)の司法管轄権をある程度制限することとなる。
3−17−1 【船舶用燃料の硫黄含有量に関する規制】
EU域内で使用され販売されている船舶用燃料の硫黄含有量を制限するためEU指令1999/32/ECの船舶燃料に関する部分を修正するとの提案の目的は、船舶からの排出量を著しく削減することにある。この提案は、国際海事機関(IMO)のMARPOL条約附属書VIと歩調を合わせて、北海、英国海峡及びバルト海を航行するすべての外航船舶が使用する船舶用燃料の硫黄含有量を1.5%まで制限することになっている。
港湾、沿岸周辺域の大気の質を改善するために、EU域内の港に出入りする定期貨客船の燃料についても同じ1.5%の硫黄含有量制限が適用されることとなる。これは、EU全域にわたって硫黄含有量の低い燃料の供給を確実にするために見合う需要を生み出す効果ももたらすこととなる。しかしながら、船舶運航者への影響を緩和するため、この措置は2007年7月までの暫定期間だけとすることが提案される。
さらに、二酸化硫黄及び粒子状物質の局地的排出量を削減し、それによって局地的な空気の質を改善するために、EU域内の港及び内陸水路に停泊する船舶のすべての船舶用燃料の硫黄含有量制限を0.2%とすることが提案される。
欧州委員会はさらに、内陸水路で運行されている船舶で使用することを意図し販売されているエンジンからの排出についても適用対象とするため、EU域内で販売されている非道路エンジンの窒素酸化物(NOx)、粒子状物質(PM)及び一酸化炭素排出量に関する指令1997/68を修正することも提案する予定である。この提案は加盟国、エンジン製造業者及びその他利害関係者との協議を間もなく終えるところである。
新排出基準を適用すべきエンジンの種類及びサイズについて、また、外航船舶での使用を目的として販売されているより小さなエンジン(その大部分は補助エンジン)についても同一基準を適用すべきか否かについても検討中である。
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