第3章 欧州における排ガス規則に対する動向
3−0 【概要】
欧州委員会は、大気汚染問題について2002年初頭に包括的な協議を行ったのに続き、同年11月20日には環境及び人の健康に対する船舶からの排出ガスによる影響を削減するための新戦略を採択した。この戦略の主な目的は、環境にやさしい交通手段として海上交通の利用促進を支援しながら、船舶からの排出物が局地的な大気の質に影響を与えないようにすることや酸性化を招かないあるいはその影響を可能な限り抑制することにある。
3−1 【EU新戦略の対象となる排出物質】
新戦略ではEU域内における船舶からの排出物の規模及び影響について報告しており、船舶が酸性化、地表オゾン、富栄養化、健康、気候変動及びオゾン層破壊に及ぼす影響を削減するための数多くの措置を定めている。
3−2 【新戦略における船舶用燃料性質に関する指令の提案】
この新戦略の重要な部分は、EU海域で使用する船舶用燃料の硫黄含有量に係る指令に関する提案である。この提案は以下の主要な3項目からなっており、船舶が排出する硫黄酸化物及び煤塵が酸性化を促進したり人の健康に悪影響を及ぼしたりしないよう、あるいはその影響を極力抑えることを目的としている。
1. 北海、バルト海及び英国海峡における燃料の硫黄含有率の上限を1.5%とする。
2. EU域内の港に出入りする定期貨客船の燃料油についても同じ1.5%の硫黄含有量制限を適用する。
3. EU域内の港及び内陸水路に停泊する船舶にあっては、すべての船舶燃料の硫黄含有率の上限を0.2%に制限する。
3−3 【船舶用燃料性質に関する指令から期待される効果】
これらの条項を実施することにより、EU域内を航行する船舶から排出される二酸化硫黄(SO2)が年間50万トンも削減でき、さらに居住区域周辺にある港湾区域内にある船舶からの粒子状物質(煤塵)の排出量も年間8,000トン削減することができると見込まれている。このような排出量削減は、長期間汚染物質に曝されることによって引き起こされる呼吸器疾患で失われるかもしれない人の寿命を2000年分伸ばすことを意味する。さらに、北ヨーロッパにおける酸性化の促進を抑制することにもつながる。
3−4 【EC新戦略が未発行時の排出ガス抑制メカニズム】
欧州委員会は、新戦略に関する検討及び交渉を継続しながら、次のような他の目的の実現に向かっている。すなわち、
○規制上の要求事項、特に窒素酸化物(NOx)に関して、そのような要求事項を超えた排出削減を推進するための、市場原理に基づく方策の実施可能性に関する新たな研究。
○IMOにおいて船舶排出物に関する議論を進める準備のために加盟国とさらに協力する。
○市場原理に基づく方策に関するワークショップ及び低排出技術に関するワークショップも含め、6月2日から6日にかけてブリュッセルで催される環境総局主催の緑の週間(Green Week)中に低排出船舶に関する数多くのイベントを組む海洋汚染排気防止賞(Clean Marine Award)構想の詳細をまとめる。
3−5 【これまでの規制の枠組みについて】
大気汚染物質、温室効果ガス及びオゾン層破壊物質を含めて、船舶から大気中に排出される物質は、海洋に無害で分散されることもなければ、国境で留まることもない。船舶が排出する大気汚染物質、特に沿岸区域や港での排出物は、陸上にも分散されて環境問題を引き起こし、人の健康、自然環境及び人の生活体系にも影響を及ぼし、さらに、温室効果ガスの場合は、地球規模の気候変動にも悪影響を及ぼすこととなる。一方、陸上を起源とする大気汚染物質の排出抑制対策については、既にこれまで諸種の対策が講じられてきている。その結果、数多くの大気汚染物質については、今や船舶からの排出物の方が陸上を起源とする汚染物質に比べてその含有量もかなり多くなっている。このため、船舶以外の分野において大気汚染物質の軽減措置をさらに推進していく場合に比べ、費用対効果のある船舶からの排出量削減措置が今後ますます広範にわたって実施されるようになって行くと考えられる。
3−6 【大気汚染物質の排出削減に関する主要なEU指令】
欧州委員会は、以下の3つのEU指令の下、海事分野からの大気汚染物質の排出を削減するための措置を検討するよう求められている。
1. 【特定の大気汚染物質についての国の排出上限に関する指令2001/81】
本指令は、EU域内における国際海上交通機関からの排出物が酸性化、富栄養化、及び地表オゾンの形成に及ぼす影響の範囲について、欧州議会及び欧州理事会に報告することを欧州委員会に委任している。
2. 【特定の液体燃料中の硫黄含有量に関する指令1999/32】
既に、EU域内の海域で使用される蒸留舶用油における硫黄含有量については上限が定められている。本指令では、蒸留留出油以外の舶用燃料の燃焼による酸性化現象を軽減するための方策について検討するよう欧州委員会に委任している。
3. 【油の備蓄及び石油ターミナルからガソリンスタンドヘの配送に起因する揮発性有機化合物(VOCs)の排出管理に関する指令1994/63】
船舶の荷役中に排出される揮発性有機化合物に対処するため、本指令の適用範囲の拡大適否について検討することを欧州委員会に促している。
3−7 【新戦略における6EAP事業の役割】
これらの3つの指令に基づく規定のほかに、新戦略は、第6次環境行動プログラム(6EAP)2の目的に合わせた短期、中期及び長期にわたる数多くの目標、措置及び勧告を提案している。6EAPは、EUがリーダーシップを発揮しなければならない新たな問題も含め、現在の環境状態や今後の傾向に係るアセスメントに基づき、重要で優先度の高い環境対策課題に対するEUの活動プログラムである。このプログラムは、全てのEU政策の中から環境案件を統合し、持続可能な発展の実現を目指すものである。
3−8 【6EAP事業の目標1:大気クオリティの向上】
6EAPの目標の1つは、人の健康や環境への許容できない影響を与えることなく、また、人の健康や環境への影響リスクを招かないレベルの大気クオリティを実現することである。現在、船舶から排出される大気汚染物質はそのような影響やリスクを与えていると認識されている。
3−9 【6EAP事業の目標2:CO2削減方策】
6EAPのもう1つの目標は、地球の気候に不自然な変動をもたらすことのないレベルで温室効果ガスの大気濃度を安定させることにある。二酸化炭素(C02)は、この戦略で検討されている主要な温室効果ガスである。船舶が排出する二酸化炭素(C02)の量は、現在、全世界から排出される総量の約2%とそれほど深刻な量ではないが、物品輸送を以前よりさらに早くさらに遠くまで移動させるためには、より多くの化石燃料を燃やし続けることとなり、今後もその排出量は容赦なく増加し続けることとなる。
3−10 【欧州委員会の戦略と方針】
欧州委員会及びEU加盟国の何カ国かは、附属書VIの早期批准、早期発効の実現を促進したいと考えているものの、この附属書に規定されている排出基準等が必ずしも充分満足いくものであるとは考えていない。例えば、硫黄含有量の一律上限値を4.5%と規定されているが、現在、世界の平均的な硫黄含有量は2.7%と同規定値をかなり上回っており、現状との乖離及びその実効性を疑問視する声も少なくない。
3−11 【附属書VIの早期批准に向けて】
長年にわたり欧州連合内では、海事分野における問題はIMOの場で議論されるべきだとする意見が支持されてきたが、国の排出量制限に関するEU指令では、2002年末までに国際海上交通から大気汚染物質の排出を削減するための行動プログラムを提示することを欧州委員会に要求している。欧州委員会は、EU加盟国に附属書VIの批准を急がせるとともに、排出基準、とりわけ窒素酸化物(NOx)に係る排出基準の強化を迫っている。
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第6次環境行動プログラムを定めた、2002年7月22日付欧州議会及び欧州理事会の指令第1600/2002/EC |
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