第2章 排ガス規制に関する国際基準
2−0 【概要】
国際海事機関(IMO)の海洋汚染防止条約(MARPOL73/78条約)は、海洋環境保護のため、船舶が排出する油及び油以外の有害物質による海洋汚染を防止するための諸規制が規定されている。正式には「1973年の船舶による海洋汚染防止のための国際条約に関する1978年の議定書」といい、日本は1983年にこの条約を批准している。船舶からの排出ガス規制に関しては、「船舶からの大気汚染に関するMARPOL条約附属書VI」として1997年に採択されたが、まだ発効していない。この附属書VIでは、船舶の重油燃料が燃焼する際に発生する硫黄酸化物を削減するために、当該燃料中の硫黄含有率について世界一律な上限値を4.5%と規定するとともに、さらにバルト海及び北海/イギリス海峡を航行する船舶が燃やす燃料中の硫黄含有率を1.5%以下とする地域規制を定めている。
同附属書VIではさらに、船舶のディーゼルエンジンからの窒素酸化物(NOx)の排出量制限を定め、オゾン層破壊物質の排出規制も規定している。現在、附属書VIが未発効であるが、IMOでは同附属書が発効された時の確実な条約規定の履行確保に備えて、NOx削減が条約に定めた基準に適合していることを証明する仮適合証の交付を行うよう条約に加盟する各国主管庁に奨励している。
MARPOL条約附属書VIは、世界の商船隊総トン数の50%保有に相当する少なくとも15カ国が批准した時から1年後に発効することとなっている。2002年12月、総トン数ベースで世界の17%を占めるパナマが批准に加わったことから、同附属書VIの発効はあと5カ国の批准を待つばかりとなっている。
2−1 【MARPOL条約の背景】
国際海事機関(IMO)がMARPOL条約を採択したのは1973年11月2日に遡るが、この時点では条約自体は発効に至らず、1978年の議定書の採択をもって「1973年の船舶による海洋汚染防止のための国際条約に関する1978年の議定書」という現在のMARPOL73/78条約の原形が整った。その後、最初の附属書Iが発効した1983年10月2日にようやく条約自体も発効し、以降、累次の改正が行われ現在の運用に至る。
MARPOL条約は油、化学薬品、汚水や廃物も含めた有害物質による汚染防止に関して適用されており、この報告書に関係する大気汚染に係る適用事項については、附属書VI(船舶からの大気汚染の防止)で規定されているが、この附属書VIは1997年9月に採択されている現時点では未だ発効していない。また、この時の採択に併せて、もし2002年12月31日までに発効要件が整わなかった場合には、IMOの海洋環境保護委員会(MEPC)を召集して同附属書VIの発効を促進するような対策について検討することも採択されている。次回MEPC会議は2003年7月に開催が予定されている。
2−2 【MARPOL条約附属書VIの規制対象となる大気汚染物質】
附属書VIは400総トン以上の全ての船舶及び固定式又は浮揚式掘削リグ又はその他のプラットフォームを対象として、以下に対する適用について規定されている。
1. オゾン層破壊物質
2. ディーゼルエンジンから排出される窒素酸化物(NOx)
3. 船舶から排出される硫黄酸化物(SOx)
4. タンカのカーゴタンク(気化ガス制御装置)から排出される揮発性有機化合物
5. 船上焼却炉
6. 受入施設
7. 燃料油の品質
2−3 【附属書VIの構成】
また、附属書VIは次の3つの章と付録によって構成されている。
第1章 |
総則 |
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第2章 |
検査、証書及び規制の方法 |
第3章 |
船舶からの排出規制の要件 |
付録 |
I |
国際大気汚染防止証書(IAPP証書)の書式(第8規則関連) |
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II |
テストサイクル及び重み付け係数(第13規則関連) |
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III |
SOx排出規制海域指定のための基準及び手続き(第14規則) |
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IV |
船上焼却炉の型式承認及び運転制限(第16規則) |
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V |
燃料油記録簿に含めるべき情報(第18規則(3)) |
附属書VIでは、船舶で使用される燃料油に含まれる硫黄含有率の上限を一律4.5%と明確に規定されている。また、バルト海及び北海/英国海峡の2地域を指定し、この区域の航行に使用される燃料油中の硫黄含有率は1.5%以下とすることも規定されている。これら規定の遵守は、燃料引渡書と航海ログブックヘの記載により担保されることとなる。
2−4 【オゾン層破壊物質】
附属書VIはさらに、ハロン及びクロロフルオロカーボン(CFC)も含めたオゾン層破壊物質の故意による排出も禁じている。全ての船舶についてオゾン層破壊物質を含有する新規設備の設置は禁じられているが、2020年1月1日まではハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)を含む設備の新規設置は認められる。
2−5 【窒素酸化物】
附属書VIは2000年1月1日以降に建造された船舶に搭載される出力130kW以上の船舶用ディーゼルエンジンについての窒素酸化物(NOxの排出制限を規定している。さらに、エンジンの最大連続定格出力(MCR)が10%以上増加するような大規模な換装を行った出力130kW以上の船舶用ディーゼルエンジンについても同じ制限が適用される。
2−6 【附属書VI発効へ向けて】
附属書VIの第13規則では2000年1月1日以降に建造された船舶に搭載される低速機関(130rpm以下)からの排気ガスに含まれるNOxを17g/kWhr以下に制限しており、これは、従来のエンジンからの排出量に比べて30%の減少を求めている。
この第13規則の規定は附属書VIが発効されなければ強制力はないものの、IMOは規則発効時の基準遵守を確実なものとするため、技術基準(NOx Technical Code)への適合が確認することができる仮証書の発行制度の創設を推奨している。米国環境保護局(United States Environmental Protection Agency)では、米国のエンジンメーカーが2001年までに製造または換装するエンジンに対して、要求された基準に合致していることを証することのできる自主的な認可プログラム制度を既に始めている。さらに米国では、附属書VIで定めるNOx規制よりさらに制限的な独自の基準を、条約の発効前であっても同附属書が規定する範囲内で導入しようとしている。
附属書VIではさらに、NOx排出基準に適合する船舶用エンジンであるかどうかを確認するための試験及び検査方法並びに当該エンジンの船舶への搭載後の同排出基準に対する適合確認の詳細手順も定めれている。
2−7 【附属書VI非適用船舶に対する扱い】
附属書VIが施行された場合、第5規則及び第6規則に基づき発行された国際大気汚染防止証書(IAPP証書)に従って、400総トン以上のすべての外航船舶は定期的に検査を受けなければならなくなる。なお、400総トン未満の旗国管轄下の水域のみを航海する船舶については、この附属書の目的を果たすために必要な措置として、旗国主管庁が同等の規定を定めることも認められている。
2−8 【IAPP証書の適用範囲】
国際大気汚染防止証書(IAPP証書)は、船舶用エンジンからの窒素酸化物(NOx)排出量が第13規則に適合していることを証明するものであるが、これは、主機関だけではなく、プロペラ、荷役ポンプ、発電機等に使用されるディーゼルエンジンに対しても適用される。ただし、非常用のみに使用されるエンジンには適用されない。
2−9 【適合試験の技術基準】
排出ガスの適合試験は、船舶用ディーゼルエンジンからの窒素酸化物(NOx)の排出抑制に関する技術基準(舶用ディーゼルエンジンからのNOx排出規制に関するテクニカルコード)に従って行われる。IAPPあるいはEIAPP(エンジン国際大気汚染防止証書)証明に係る試験は、世界中の港湾、造船所、エンジンの製造地で実施することができ、技術基準への適合が確認されれば証明書が発給される。
また、オゾン層破壊物質、燃料の硫黄含有率、タンカーの蒸気収集装置、船上焼却装置等の附属書VIで定める事項に対する基準適合についても証明書が発給されることとなる。これら証明書は、附属書VIの発効後初めて乾ドック入りした時に受給しなければならず、また、3年を超えてはならないとされている。
2−10 【附属書VIの発効要件と批准の現状】
附属書VIの発効要件は、15カ国以上かつその商船船腹量(総トン数ベース)の合計が世界の商船船腹量の50%に相当する商船船腹量以上となる国が締約国となった日の12ヶ月後に締約国について義務が生じる(発効する)。ただし、条約発効後に批准する国は、その寄託の後3ヶ月後に効力を生じる。2002年11月時点では、5カ国(スウェーデン、ノルウェー、シンガポール、バハマ及びマラウイ)の批准による12%相当の船腹量と、発効要件にはほど遠い状態にあったものの、同年12月にパナマが批准したことから、大きく発効要件に近づくこととなった。現在の発効要件に基づけば、あと5カ国、あるいは総トン数ベースで5%相当の船腹量を保有する国々の批准を待つだけとなっている。ギリシア、ルクセンブルク、オランダ、ドイツ、スペイン、フィンランド、ベルギー、及びキプロスの各国は、2003年末までに批准署名すると意図表明している。ちなみに、EU加盟国が保有する船腹量は世界の約10%、また、EUへの加盟参加が求められている国(主にマルタ及びキプロス)も約10%に相当する船腹を保有している。なお、IMOの国際会議の公式の場において、2003年6月までに批准できる見込みであると表明した全ての国が批准した場合、締約国数が17カ国、世界商船船腹量の59%となり、条約の発効要件を満たすこととなる。
2−11 【発効要件の再検討の必要性】
パナマの批准により附属書VIの発効に大きく道が開けた感がするが、それ以前には、条約の発効を促進するため、発効要件の見直しについて検討が必要との声も一部加盟国の間で指摘されたこともある。今後の展開は不確かな面もあるが、場合によっては、再び発効要件の見直しについてIMOの海洋環境保護委員会(MEPC)等の場で早期発効に向けた議論が行われることも考えられる。
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