日本財団 図書館


6−3−3. 研究開発プロジェクト(UK)
 
6−3−3−1. 海洋環境における内分泌撹乱研究プログラム(EDMAR)
 
英語名称 Endocrine Disruption in the Marine Environment Research Programme
組織略称 EDMAR
組織形態 CEFAS、Plymouth Environmental Research Centre(PERC)、Centre for Marine and Coastal Studies in Liverpool(CMACS)、FRS、AstraZeneca Environmental Laboratory、ブリクサム大学、グラスゴー・カレドニアン大学による共同プロジェクト
人員数 不明
所在地 N/A
設立年 1998年。プロジェクト期間3年。
予算規模 1.5百万ポンド。
DEFRA、EA、Scotland and Northern Ireland Forum for Environmental Research(SNIFFER)、European Chemical Industry Council(CEFIC)がコンソーシアムとなって資金提供。
目的 海洋魚類と無脊椎動物双方の生殖健康性の変化が内分泌混乱に依るものであるとする証拠の有無についての調査研究
管轄/活動概要 EDMARプロジェクトは、海洋生物の内分泌混乱に関する最初の大規模調査プロジェクトである。プロジェクトでは、UKの特定水域の特定生物種に内分泌混乱が発生していることが確認されたものの、その原因・帰結についての結論は出ていない。
最近の活動成果例 各種プロジェクトレポート
 
6−3−3−2. 栄養分に関する共同研究(JoNuS)
 
英語名称 Joint Nutrient Study
組織略称 JoNuS
組織形態 環境・交通・地域省(当時)と農業・漁業・食料省(当時)がスポンサーとなった研究プロジェクト
人員数 不明
所在地 N/A
設立年 1990年
予算規模 不明
目的 河川に混入する栄養分量の沿岸水域に達するまでの地理化学的・生物学的プロセスによる変化の研究
管轄/活動概要 北海に流入する過剰栄養分による汚染リスクを低減すべきであるという国際的圧力に対応するために開始されたプロジェクトである。テムズ川など、3河川の河口域に焦点を絞った調査研究が行われた。
JoNuSプロジェクトにより海への栄養素流入を支配するプロセスに対する理解が促進されたが、調査対象となった河川により結果が異なることから、さらなる研究が必要であるとされている。
最近の活動成果例 1998/99年にJoNuS II開始計画があったが、その後の経緯については不明である。
 
6−4. UK海洋モニタリングの調整とネットワーク
 
 UKにおける海洋モニタリングの調整とネットワークに関し、MSR第九章の補足として追加情報を記述する。
 
(1)UKの気候・気象観測と海洋観測の調整の概要
 
 「UKにおける気象及び大気観測」は気象局(Met Office)が主導しているが、自然環境リサーチカウンシルセンター(NERC)やサーベイプログラムもあり、環境エージェンジー(EA)なども観測を行っている。
 
 「UKにおける気象研究と観測」は、政府各省の予算によって各種機関へ業務委託されているケースが殆どである。従って気象研究と観測に関する「国家プラン的」なものは存在しない。さらに広い範囲での地球環境変動研究と観測に関する政府エージェンシー間の調整は、「世界環境変動委員会(Global Environmental Change Committee)」によって行われている。
 
 UKにおける「世界気候観測システム(GCOS)関連活動」はMet Officeによって調整されている。
 
 「海洋観測活動」については、UK内で広く分散している。政府の省やその関連研究所、大学、企業などによって観測が行われており、十分には調整されていない。
 
(2)システマチックな観測に対するUKの取り組み
 
 UKは、「本土を包括的にカバーする気象観測網を所有しており、観測局を通じて海外領土についても観測」を行っている。また、種々のソースから得られる「データの整合性と比較性」を確保するための「データ晶質管理」にも注力している。
 
 「UKの環境データ」はNERCとその付属/関連機関によって収集が行われている。NERCは7ケ所のデータセンターにデータ管理等の実施を委任している。海洋環境関連のデータの管理センターである「ブリティッシュ海洋学データセンター(British Oceanographic Data Centre)」はプラウドマン海洋学研究所内に設置されている。
 
(3)調整とネットワーク
 
 UKにおいては、「海洋科学とテクノロジーに関するエージェンシー間委員会(IACMST)」が政府内組織間を跨る海洋活動の全体像を把握する役目を担っている。IACMSTは、「政府とUKの海洋関連コミュニティのリンク、海洋科学と技術のより広範な応用、UKの主要海洋科学施設の最大活用、トレーニングと教育、国際的リンク」を奨励している。
 
 IACMSTにはまた、「海洋環境データ・アクショングループ(Marine Environment Data Action Group)」があり、「UK海洋環境データネットワーク(UK Marine Environmental Data Network)」の構築を行っている。
 
 「UK海洋環境データネットワークの活動内容」は以下のとおり。
 
●データ詳細目録を作成、保守、公開する
 
●データ管理ガイドラインを作成する
 
●データ交換(UKデータの世界的データベースヘの貢献を含む)促進メカニズムを改善する
 
●海洋環境に関するデータと情報のポータルサイトとしてのOceanNet WEBサイトの保守と運営(http://www.oceannet.org)。OceanNet WEBサイトは、種々の海洋データカタログヘのリンクを提供している。
 
 2001年にはFRS作成のスコットランド周辺水域の年次報告書「Ocean Climate Status Report」をベースとした、UK周辺水域をカバーする「2000年のUK水域の気候(Climate of UK Waters at the Millennium)」レポートがIACMSTによって作成された。このレポートは、UK領海水域の海洋パラメータ(海洋天候、海水温、塩分度、海水レベル、波浪、プランクトン、栄養分、葉緑素)の現在(1999/2000)の状況とトレンドについての調査報告である。
 
 UK政府は、「全てのUK沿岸水域について、最新の情報にアップデートされたレポートを定期的に作成する事」を意図している。
 
 「共同自然保全委員会(Joint Nature Conservation Committee。JNCCと略記)」は、UKの海岸周辺で見られる生物相についての様々な情報収集の調整について責任を持っている。JNCCの海洋サイト・生息地・生物種データベースであるMERMAIDについては前述した。MERMAIDの開発はまた、「国家生物多様性ネットワーク(National Biodiversity Network。NBNと略記)」と密接に関連している。
 
 「MarLIN(Marine Life Information Network for Britain and Ireland)」は、UKの「海洋生物学協会(Marine Biological Association)」と主要な海洋生物学的データ保持者及びユーザー(利用者)によるイニシアティブであり、オンラインデータベースによって、UKとアイルランド周辺の海洋生息地・群生・生物種に関する情報を提供している。MarLINは、UKとアイルランドの沿岸及び大陸棚海域の海洋生物多様性に関する既存情報の所在特定・カタログ化・整理・交換のためのネットワークを開発する予定である。
 
 前述の様に、海洋観測活動については、UK内で十分には調整されているとは言えない。UK政府もその問題は認識している。MSR諮問文書「変化の海」において、MPMMG、IACMSのG00Sアクショングループ、各漁業研究所などの組織活動のコーディネーションが将来MSRに含まれるべき内容の一つとして挙げられている。
 
7. あとがき/「変化の海」へ向けて
 
 本報告書では、「UKの海洋管理への取り組み」について、主に環境問題の側面から、UK初の海洋管理報告書(MSR)である「私たちの海の保護:海洋環境の保全と持続可能な開発のための戦略」の内容紹介・補足説明を軸として、UK政府の政策策定活動を取り巻く背景を含めた全体像の概説を試みたものである。
 
 既に本文で述べたとおり、「海洋管理政策」を取り巻く課題は多岐に亘り、その統合的な管理の困難さは広く認識されているところである。MSRで示された、「理念レベルの海洋管理から、実地の施策を実現していくためのギャップ」は大きい。今後のUK政府の課題は、この「ギャップ」を如何にして埋めていくのかという点に尽きるであろう。
 
 MSRに続く「変化の海」諮問文書においても、その問われている内容は、「MSRで謳われた理念・原則を実地の施策策定・実行プロセスに移していくための最善方法は何か」ということである。また、「目指すべき戦略的ゴールは何か」という問いも為されている。まさに、「海洋管理」という大海に乗り出していこうとする旅の始めに、目的地を定め、最善の方法でそこへ辿り着くにはどうすれば良いのか模索している状態と言えよう。
 
 MSRで示された「海洋管理理念」を「理念レベル」で終わらせないためには、「今後、統合管理に社会経済的な視点を盛り込み、より具体的な取り組みを行っていくこと」が必須であろう。MSRでは「海洋管理」を「環境の面」から捉えているために、「社会経済的ニーズ」については、「自然環境保全目的と調和させていくという目標」が掲げられているにすぎず、「実際の実現手段」についての記述は極めて少ない。
 
 現実問題として、漁業問題に典型的に見られる様に、「海洋管理に関係する諸問題について環境保全と産業のバランスを模索するにおいて、時間的猶予が許されないケース」が多数存在する。「社会経済的ニーズと自然環境保全目的のバランス」を如何に取っていくかという問題についての答は一つではない。現場においては、「ケースバイケースの対応」が要求される。この「バランスの問題」に対し、UK政府が今後どう取り組んでいくのかについては、個々のケースの積み重ねを見ていく必要があるであろう。
 
 MSRでは、「清潔、健康、安全、生産的そして生物学的に多様性に満ちた海洋」という理念に基づき、「一世代のうちに真の変化を成し遂げたい」というUK政府の目標が述べられている。真の「変化の海」に向けて、今後の「UK政府の海洋管理政策」がどの様に発展していくのか注目される。
 
 本報告書が海洋管理政策に携わる方々にとって、何らかの参考になれば幸いである。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION