日本財団 図書館


6−1−4. 海洋環境モニタリングと観測
 
6−1−4−1. 環境品質モニタリング
6−1−4−1−1. 「国家海洋モニタリングプログラム」(NMMP)
 MPMMGが調整している「国家海洋モニタリングプログラム(NMMP)」では、海洋環境汚染範囲及び影響のモニタリングが行われている。UK政府各省と環境保護責任を持つエージェンシー間の環境品質状態モニタリングの調整が、NMMPを通して実施されているわけである。
 
 NMMPは1993年に開始されたプログラムで、調査対象となっている特定沿岸地域と河口域において、環境品質の正確な長期的トレンドを探ることを目標としている。NMMPでは、調査対象沿岸地域・河口域に調査ステーションのネットワークを構築しており、1999年から、年に一回サンプル調査が行われている。現場でのサンプル収集とサンプル分析の品質コントロールスキームの開発と適用がプログラムにおける主要要素となっている。
 
 その他、「EC指令」、「食料・環境保護法(FEPA:Food and Environment Protection Act)」、「汚染コントロール法(COPA:Control of Pollution Act 1974)」などの法規制に関連し、これらの政府エージェンシーは、「法規制準拠状況のアセスメントのための海洋環境モニタリング」も行っている。
 
 MPMMGはまた、「海洋に散乱しているゴミに関連するモニタリング活動、及び下水汚泥投棄サイトの回復状況モニタリング活動」の調整も行っている(UKでは下水汚泥の海洋投棄は1998年に全廃されている)。
 
6−1−4−1−2. 「海洋環境資源マッピングと情報データベース」(MERMAID)
 UK沿岸周辺の生物相に関する様々な情報収集のコーディネートはJNCCの管轄である。JNCCの「海洋環資源マッピングと情報データベース(Marine Environmental Resource Mapping and Information Database。MERMAIDと略記)」は、UKとアイルランド周辺の生息地、生物種に関する情報へのより広範なアクセスの提供を
目的として開発された。JNCCは、「海洋SACプロジェクト」の調整も担当している。JNCC作成の「海洋モニタリングハンドブック(Marine Monitoring Handbook)」は、海洋SACモニタリングスキーム作成に関するガイダンスを提供するものである。
 
6−1−4−2. 海洋気候と海洋循環変異性の観測
 海洋システムと大気システムを総合して理解することが重要であり、長期的観測と新技術の利用が必要である。UKの海洋環境変異性の主要要因は大西洋からUK水域への海洋水流入であり、この流入水の温度と塩分度は生物的・化学的プロセスに影響を及ぼしている。
 
6−1−4−2−1. 「世界海洋観測システム」(GOOS)
 UKは、「ユネスコ(IOC)」の「世界海洋観測システム(Global Ocean Observing System。GOOSと略記)」開発に参加している。GOOSにより、特に物理的海洋学分野に関係し、海洋環境観測のための超調整された国際戦略の策定が行われている。UKの「GOOSへの貢献活動」は、IACMSTの「GOOSアクショングループ(GOOS Action Group of IACMST)」によって調整されている。
 
 「自然環境リサーチカウンシル(Natural Environment Research Council。NERCと略記)」は、「サザンプトン海洋学センター(Southampton Oceanography Centre。SOCと略記)」と「プリマス海洋研究所(Plymouth Marine Laboratory)」を通じて、以下のプログラムのプロジェクトオフィス主催者を務めている。GOOSで開発に貢献しているプログラムは以下のとおり。
 
●「世界海洋循環実験」(WOCE:World Ocean Circulation Experiment)
 
 気候変動予測モデルの開発及び関連データ収集を行うプロジェクトである。
 
●「気候変異性と予測可能性」(CLIVAR:Climate Variability and Predictability)
 
 自然の気候変異性と、人間が発生の原因を作づている気候変動に関する多くの問題について取り組む国際的研究プログラムである。CLIVARは、「世界気候研究プログラム(World Climate Research Programme。WCRPと略記)」の一部である。
 
●「世界海洋生態系ダイナミクスプロジェクト」(GLOBEC:Global Ocean Ecosystem Dynamics Project)
 
 世界的な環境変動による、海洋動物存在度・多様性・発生に対する影響の解明を目的としている。
 
GOOSの実際運用に対するUKによる主な貢献には、以下の事項が含まれる。
 
●「ARGO(Array for Real−time Geotropic Oceanography)」
 
 ARGOプロジェクトのUK主要パートナーは、DEFRA、気象局(Met Office)、サザンプトン海洋学センターである。ARGOは、オープンな大洋で漂流する3,000個のフロート(浮き)群配置の総体である。このフロートは14日周期で浮き沈みを繰り返すことによって水深2,000mまでの大洋の水温と塩分度の特性データを収集する。UK最初のARGOフロートは2000年9月に配置された。
 
●「連続的プランクトン記録装置(CPR:Continuous Plankton Recorder)」
 
 CPRは、ボランティアの商用船舶から牽引されるプランクトン捕獲装置である。サーベイは、環境NGOも参加する国際的なコンソーシアムによってサポートされており、DEFRAとNERCが資金提供を行っている。このサーベイにより、UK海洋水域の長期的変化記録が収集される。プランクトン分布はまた、水温・潮流・海への人為的なインプットの指標として有効である。
 
●「UKは、ボランティア観測船、ボランティア商船で参加する船・係留ブイ・漂流フロートなどを利用し、海洋気候を観測する数々の全世界的プログラムに参加している。」
 
●「平均水面常設サービス(PSMSL:Permanent Service for Mean Sea Level)」
 
 PSMSLは、プラウドマン海洋学研究所(Proudman Oceanographic Laboratory)に設置されており、長期的な海面水位変動情報の世界的なデータバンクである。
 
6−1−4−2−2. 海洋環境変動ネットワーク
 「最新の技術開発とオペレーションにおける調整」によって、海洋のモニタリングと観測の改善が可能である。DEFRAは「海洋環境変動ネットワーク(Marine Environmental Change Network)」の組成を開始した。その第一フェーズでは、現存の長期的海洋観測データの価値を最大限に引き出すことを目的としているが、環境変化による影響の観測・予測のネットワーク構築のために、新しい技術を利用し、MarCLIM研究の様な既存研究の成果を取り入れていく方針である。
 
6−1−4−3. 海洋環境モニタリングの将来の発展
6−1−4−3−1. UK政府の生態系べ一スアプローチ方針
 「海洋環境」は複雑なシステムである。「生態系をべ一スとしたアプローチ」のためには、全体的な機能として生態系を理解することが必要である。UK政府のアプローチ方針は、「分野毎に各々異なった目的で行われているモニタリング・観測活動間の相互インタフェースの調整改善する」ことである。すなわち、「海洋学的気候アセスメントや漁業アセスメント」を、「環境品質モニタリング、生態的品質モニタリング、自然保全状況モニタリング」と協調させることである。この目的は、より「統合的で一貫性」のあるUKの「海洋環境状態定期アセスメント」にも寄与するものである。
 
6−1−4−3−2. 統合アセスメント成果発表予定
 UK政府は、最初の統合アセスメントを、「我々の海の状態報告書(State of Our Seas report)」の形で2004年に発表する予定である(この報告書は、2番目のMSRとして予定されているものである)。「海洋環境管理のためのパフォーマンス指標」は、政府の各種研究プログラムを通じて現在開発中であり、この「統合アセスメント」に寄与するものとなるであろう。
 
6−1−4−3−3. 新技術の利用
 新技術、特に「海洋センサー、データ伝送・管理」を利用することにより、ますます範囲が広がっている「環境パラメータのリアルタイムモニタリング」が可能となる。量的にも増加しつつある環境データ収集に、「リモート監視と物理学的・生物学的モデリング手法」を通して、これらの新技術が役立つ可能性がある。既に「沿岸管理」においてはこれらの新技術が有効利用されており、「人間の海洋関連活動による環境への影響管理」を改善する事において多大な潜在的可能性がある。我々は、これらの技術を検討し、「科学的証拠収集・利用方法の開発に対する新技術の応用可能性」を探っていく必要がある。
 
6−1−5. 研究開発(R&D)
6−1−5−1. UK政府の研究開発支援体制
 海洋観測とモニタリングに加えて、政府各省庁は様々な調査研究を通じて海洋環境の管理と政策策定を支援している。これらの研究は、政策策定において利用される科学的証拠基盤の拡張強化に役立っている。研究プログラムは、自然環境リサーチカウンシル(NERC)の海洋研究所と大学の専門学部によっても実施されている。
 
 NERCの使命は、「高品質な基礎的・戦略的・応用研究、測量、長期的環境モニタリングを支援し、それによって知識と技術を発達させ、UKの経済的競争力の強化・公的サービスと政策の効率化・国民生活の質の向上に貢献すること」とされている。
 
 NERC研究センターと協力センター(Collaborative Centres)には、「プリマス海洋研究所」、「ダンスタッフネージ海洋研究所」、「プラウドマン海洋学研究所」、「サザンプトン海洋学研究所」が含まれる。
 
 海洋研究の発展は、科学界との「パートナーシップ」により達成される。政府各省とリサーチカウンシルは、研究提案を公募している。また、プログラムの進展について科学界と見直しし議論するために、政府は科学プログラムの様々な段階において「セミナーやワークショップ」を開催している。「政府各省による海洋環境研究」は、関連する調査策定担当者と政策策定担当者間で、可能限り広範な諮問を行うことによって調整及び管理されている。また、適切と判断される場合には外部専門家のアドバイスを利用することもある。
 
6−1−5−2. 汚染物質の生物学的影響
 「汚染物質が海洋有機組織体に与える影響の研究プログラム」により、様々な有機組織体と海洋生物群の遺伝子レベル・細胞レベルの撹乱、行動学、生理学が研究されている。この研究成果は、現在使用されている汚染物質規制システムと汚染対策により、十分な環境保護が為されているかどうかを判断するために利用可能である。
 
 「海洋環境における内分泌撹乱研究プログラム(Endocrine Disruption in the Marine Environment Research Programme。EDMARと略記)」を支援するために、政府と産業界の協力によるコンソーシアムが設立された。この研究プログラムの目的は、海洋魚類と無脊椎動物双方の生殖健康性の変化が内分泌混乱に依るものであると結論できる証拠の有無についての調査研究である。EDMARは河口域に生息する5種類の生物種が影響を受けていることを発見している。観測された影響が、生殖的成功に帰結する可能性があるのか、また無脊椎動物の様な他の生物種グループにも同様事象が発生しているのかについては、まだ明らかにはなっていない。変化原因物質と、その潜在的影響を特定するためにはさらなる研究が必要である。
 
6−1−5−3. 人為的派生栄養分の海洋環境に与える影響
 「UKの主要沿岸地域における栄養分の影響に関する6カ年研究プロジェクト(JoNuS)」はCEFASによって主導され、政府各省のコンソーシアムによって資金提供された。この研究成果は、人間社会から発生する栄養分の海洋環境への流入管理に関する政策決定、沿岸システムがどの様に働いているのかに関する理解の促進、生態系への影響の許容可能レベルと許容不可レベルの決定など、様々な面で利用されている。さらなる研究により、栄養分による影響に関する海洋域の分類・管理方法確立が進められている。
 
6−1−5−4. 海砂利採取の環境的影響
 「海底に関連する活動による影響」の研究は、他の海洋利用者との潜在的利害衝突を特定することに役立ち、海底関連活動の規制をサポートするものである。研究結果に基づき、政府が「骨材採取ライセンス交付条件」を規制当局にアドバイスするケースもある。例えば、「骨材採取作業時に発生する堆積物散乱による地元のカニ漁業への影響を最少化するために、採取活動実施を小潮時のみに制限したケース」などである。
 
6−1−5−5. 生息、地分布図作成
 音響学技術の利用により、海底の生息地と海洋資源分布図作成が可能である。現在、「環境・漁業・養殖科学センター(CEFAS)」と「北アイルランド農業農村地域開発省(DARDNI)」によって、「海底ビオトープ分布図作成における音響学技術と生物学的サンプリングの併用についての研究」が進められており、DEFRAと北アイルランド環境・自然文化遺産サービス(EHS)により資金助成が為されている。
 
 この研究活動は、生態系持続可能性を維持しながらの海底骨材採取に関する政策策定に直接応用可能である。従ってこれらの研究は、主に砂利沈殿物から構成されている海底域に対象を絞ったものとなっていたが、さらに広範な応用が可能である。統合的管理と保全目標達成のために、海洋関連産業界との協力の下に、主要な環境特性・生物多様性・人間による海洋利用状況に関する、コンピュータベースの分布図作成の必要がある。
 
6−1−6. 今後の行動計画
 MSRでは、UK政府の今後の活動方針・計画が以下の様に述べられている。
 
●2001年にDEFRAが設立されたことにより、保全・環境保護・漁業・沿岸管理に貢献する海洋科学関連事項が一省の管轄下に集められた。この組織改編により、政府が資金提供する海洋科学の価値の最大化ならびに調整を進める機会がもたらされた。スコットランドでも、「スコットランド地方政府環境・農村省(Scottish Executive Environment and Rural Affairs Department。SEERADと略記)」の設立により同様の効果が期待できる。UK政府は、「海洋環境統合管理目標」に向けてこの機会を利用していく。
 
●「海洋科学研究とモニタリング成果」を政策策定へ反映させる。
 
●「有害物質や内分泌撹乱物質による影響についての研究」を継続していく。
 
●UK政府の「海洋管理基本原則」である、「生態系をベースとしたアプローチ」の効果を評価するために、「OSPAR条約機関を通じて生態学的特性目標(EcoQC)の開発」を進める。
 
●海洋環境状態の統合アセスメント実施のための「環境モニタリング・観測のフレームワーク」を開発していく。最初の統合的アセスメントである「我々の海の状態」レポートを2004年に作成する。
 
●「沿岸管理、緊急対応、海洋活動管理」を支援するために、モデリングリモート感知・リアルタイムデータ収集技術を結集する実際的海洋学パイロットプログラムを開発していく。
 
●「海洋環境データに対するオープンなアクセス」を奨励する。
 
●UKの海洋生態系に対する気候変動による影響の長期的モニタリングのために、「海洋環境変化ネットワーク」を形成していく。広く一般からアクセス可能な統合海洋分布図を、当初は沿岸地域データについて提供していく。







日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION