6. 海洋科学の最善利用
「UKにおける海洋科学研究」は、政府各省や政府系機関(エージェンシー、公共団体など)の各種研究プログラムや国際機関のサポートする研究プログラムを通じて幅広く行われている。また、官民共同の研究プログラムも多数存在する。研究機関自体も100%政府所属のもの、官民のジョイントベンチャー、民間商用研究機関まで多岐に亘り、政府主導の様々な研究プログラムに携わっている。また、政府各省や政府系機関は教育機関への研究助成も行っている。
UKは歴史的に見ても科学技術研究開発に「政府レベル」で力を入れている。同時に政府資金によって行われている研究の成果の実用性にも注意を払っており、「政府系研究機関の運営」について定期的に見直しを行い、対費用効果と効率性の最大化を目指している。
MSR第九章冒頭では、まず「UK海洋環境管理政策」に対する「海洋科学研究の重要性」が強調され、政府資金提供による科学研究の価値を最大化するための「UK政府基本方針」が説明されている。続いて、海洋科学研究に関連する政府系組織と、組織間コーディネートのためのイニシアティブが紹介されている。
MSR第九章の後半では、「海洋環境モニタリングと観測に関するUKの研究活動内容ならびに組織が世界的な研究プロジェクト」との関連を含めてリストアップされ、概略が紹介されている。また、定常的、定期的に実施されている海洋環境モニタリング・観測活動の他に、現在実施されている主要な研究開発プロジェクト概要が、研究項目別に整理してリストにされている。
本報告書のこの章においては、まず6−1節においてMSRの第九章の内容を整理・要約して紹介する。MSR第九章では、リストされている組織・イニシアティブ・プロジェクトなどについての背景の説明が省略されている。本報告書6−2節以降では、MSR内容をより理解しやすくするため、これらの背景を整理して補足説明する。「参考資料−リファレンス・データ」として利用されることを意図している。
6−1. MSR第九章「海洋科学の最善利用」
6−1−1. 海洋科学の最善利用に向けたUK政府基本方針
MSRで述べられている「UK政府の基本方針」は、以下の3点に要約できる。
●可能な限り最善の科学的証拠を、「UK政府の海洋環境管理ビジョン達成」のために利用する
●海洋環境モニタリング・観測の統合を促進し、産業界・NGOとの「協力」を奨励する
●空間的データ・海洋環境分布データの調和とアクセス改善により「統合的管理」を促進する
MSR第九章では、「生態系アプローチ」における重要な要素として、「海洋科学とモニタリングに関するUKの組織編成状況、UK政府省庁による海洋環境についての科学プログラム促進のための取り組み」が説明されている。
MSR全体にわたり、海洋環境に関する政策策定及び海洋環境管理における、科学的証拠の重要性は繰り返し強調されている。特に、「不明点の多い領域、複数の科学的オプションが存在する領域において科学的証拠の改善」は特に重要である。「予防的アプローチが取られるべき不確実領域」の特定のために科学的証拠が利用されることもある。政府の海洋科学プログラムの成果は、「政策策定サポートの科学的証拠基盤」を提供している。
「政府の海洋科学プログラムの成果」はまた、海洋科学発展の材料提供の役割も果たしている。「政府基本方針」では、「公的資金」を使用して得られた海洋環境データは可能な限り「無償で提供」されるべきであるとされている。UK政府は「公的資金」が使用された科学研究成果に関して「公開主義」を取っており、研究関連予算の対費用効果の最大化を図っている。政府海洋科学プログラムに関連した研究報告書とモニタリングデータのアセスメント結果は一般に公表されている。研究プログラムから派生した科学的論文についても広く公表することを、政府は強く奨励している。
6−1−2. 海洋科学研究に関連するUK政府組織
6−1−2−1. 海洋環境保護
「UKにおける海洋環境保護」に責任を負う政府機関は、「地方分権化」に伴い管轄地方別組織となっている。
管轄地方 |
組織名 |
組織名(英語) |
組織略称 |
イングランド及び ウェールズ |
環境エージェンシー |
Environment Agency |
EA |
スコットランド |
スコットランド環境保護エージェンシー |
Scottish Environment Protection Agency |
SEPA |
北アイルランド |
環境・自然文化遺産サービス |
Environment and Heritage Service |
EHS |
|
これらの主要組織の他に、漁業関連研究に関連する政府系組織としては以下がある。
●「環境・漁業・養殖科学センター(Centre for Environment Fisheries and Aquaculture Science。CEFASと略記)」
●「漁業リサーチサービス(Fisheries Research Service。FRSと略記)のアバディーン海洋研究所」
●「北アイルランド農業農村地域開発省(Department of Agriculture and Rural Development in Northern Ireland。DARDNIと略記)」
これらの「政府機関の責任範疇」には、海洋投棄規制・骨材採取規制・骨材海洋投棄認可などが含まれる。「行政責任遂行」をサポートするため、これらの政府機関は、海洋観測・モデリング・モニタリングと研究調査・緊急汚染対応・予防的汚染コントロールに関して科学的専門知識やインフラを提供している。
6−1−2−2. 沿岸地域管理
沿岸地域に関する管理戦略作成と意思決定をサポートするためめ研究とモニタリングは、以下の政府機関によって実施されている。
管轄地方 |
組織名 |
組織名(英語) |
組織略称 |
イングランド |
イングリッシュ・ネイチャー |
English Nature |
EN |
ウェールズ |
カントリーサイド・カウンシル |
Countryside Council for Wales |
CCW |
スコットランド |
スコットランド・ナショナル・ヘリテージ |
Scottish National Heritage |
SNH |
北アイルランド |
環境・自然文化遺産サービス |
Environment and Heritage Service |
EHS |
− |
共同自然保全委員会(EN・CCW・SNHの共同フォーラム) |
Joint Nature Conservation Committee |
JNCC |
|
研究とモニタリングは、特に、各種保護・保全指定地域に対する各組織の管理責任と、生息地指令で定められる保全特別地域(SAC)の管理必要性に対応して行われている。
6−1−2−3. 海洋気象情報関連
「気象局(Met office)」は、波高・海洋潮流・暴風波浪予測を含めた海洋気象情報を提供している。例えば、深海の水温・塩分濃度・潮流のリアルタイム分析と5日先までの予測データを海軍(Royal Navy)に提供している。
6−1−3. 海洋科学における組織間調整
6−1−3−1. 海洋科学・技術(UK政府系組織間)
「海洋科学とテクノロジーに関するエージェンシー間委員会(Inter Agency Committee on Marine Science and Technology。IACMSTと略記)」は、海洋科学・技術分野における国内及び国際活動の概要を把握する役割を担っている。
IACMSTの活動により、「海洋科学・技術に関する国内及び国際活動の調和」が図られている。IACMSTには2つのアクショングループが含まれる。一方のグループは「海洋環境データ」を調整しており、他方のグループは「ユネスコ政府間海洋学委員会(Intergovernmental Oceanographic Commission。IOCと略記)」の「世界海洋観測システム(Global Ocean Observing System。G00Sと略記)」に関連したUKの組織活動を調整している。
「IACMSTによる最近の調整活動」として、MSRでは以下がリストされている。(カッコ内は実施年)
●「UK水域気候に関する報告書」(2001)
●「現在と将来のニーズに関連した、現在のUK海洋観測の見直し」(2000)
●「UK内研究所で保持されている海洋環境データセット目録」(2000)
●「センサーとプラットフォームに関するワークショップ」(2001)
●「海洋サンプル採取:その価値ある利用と未来」(2001)
●「海洋学的モデリングに関するワークショップ」(1999)
●「データアクセスと課金ポリシーに関するワークショップ」(2000)
●「実用的海洋学(Operational Oceanography)の未来に関するワークショップ」(2001)
6−1−3−2. 海洋汚染観測(UK内組織間)
「海洋汚染モニタリング管理グループ(Marine Pollution Monitoring Management Group。MPMMGと略記)」は、「水枠組み指令」を含む数々の「欧州指令」や「OSPAR条約」などで定められる国際的責任との関連において、海洋環境品質モニタリングの調整責任を負っており、その一環として、MPMMGは海洋環境品質のモニタリングとそれに関連した研究の科学的調整を図っている。
「MPMMGによる主要な成果」として、MSRでは以下がリストされている。
●生態系と生物多様性、海水栄養分状態、環境汚染の長期的トレンドをモニターするプログラムである、「国家海洋モニタリングプログラム(National Marine Monitoring Programme。NMMPと略記)」を確立
●生物学・堆積物・化学に関する分析的品質コントロールスキームの調整
●放射性物質放出・魚類養殖・海洋投棄など様々な活動による環境への影響を見直しする技術的ワーキンググループを設立
●1998年に、最初のNMMP報告書、「UKの沿岸水域品質(The Quality of UK Coastal Waters)」を発表
●水枠組み指令の下で、沿岸水域・航路水域の分類法・類型学関連事項を調整するエージェンシー間タスクチームを設立
6−1−3−3. 産業界
産業界と政府間のコーディネーションは、「海洋情報協議会(Marine Information Council。MICまたはUKMICと略記)」によって行われている。UKの海洋情報セクター全般に亘る、政府・学究組織・産業界組織の集合組織である。MICの主要な職務は、「海洋研究に対する資金援助の改善を図り、海洋情報関連製品、サービスを提供する中間的商用開発を通して、研究の成果を顧客ニーズを満たす応用技術へと育成していく事」である。
6−1−3−4. 国際研究プログラム
UKは「国際的海洋組織をサポートし、広範囲な国際的科学プログラム」に参加している。また、「国連内における協調体制の強化」に取り組んでいる。定期的でコーディネートされた世界レベルの海洋環境アセスメント範囲について、国際社会と協調した検討が進められている。
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