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5−1−3. 具体的措置
 前ページのUKのアプローチに沿って、具体的には、以下に述べるように「国際条約を始めとする国際的な枠組み」を前提とした具体的な措置と、UK独自、または地域国際的な枠組みの下で国内的に実施している措置が存在する。
 
5−1−3−1. 国際的手段
 IMOを中心に国際条約の検討、採択、発効、改正等の一連のフェーズでUK政府は活動している。以下に個別説明を行う。
 
5−1−3−1−1. 特別海域の保護
 UKは「海洋汚染防止条約(The International Convention for the Prevention of Pollution from Ships。略記はMARPOL)」の付属書第I章(油による汚染保護をカバー)と第V章(船からの廃物汚染保護をカバー)の特別海域として、それぞれ北西欧州海域(北海、英仏海峡、Irish海とその他のUK海域を含む。)と北海を指定するようにIMOにおいて活動を進めている。これらの指定が得られれば、UK領海は船舶起因の汚染から特別に保護されるべき海域と認められ、油と廃物の海洋投棄が他の海域より厳しく規制されることになる。
 
5−1−3−1−2. 船底防汚塗料の規制
 船舶防汚塗料は船体に海洋生物が付着するのを防ぐために用いられる。船体表面への生物付着は水の抵抗を増加し、船の速力を落とし、燃料消費を増やす。船舶防汚塗料の中の最も効果のある活動成分は有機錫であり、特に「TBT(Tributyltin)」である。
 
 しかしながらこれらの混合物は「環境に極めて有害」な影響を持っており、UKは1987年から「25m以下の船舶へのTBTの販売と使用を禁止」してきたが、「IMO海洋環境保護委員会(MEPC)」は、TBTが世界規模の問題であると認識し、「有害船体防汚システム規制国際条約(The International Convention on the Control of Harmful Anti−Fouling Systems on the Ships)」が2001年10月に採択された。
 
 本条約は、「2003年1月1日から有機錫を新たに船体に塗ることを禁止し、2008年1月1日から船舶への一切の使用(存在)を禁止するものである。条約は検査と証書のシステムと強制要件を規定し、将来出現するかもしれない環境リスクを呈する他の防汚システムを規制するメカニズム」も含んでいる。UKはECの進捗を見つつ、条約の早期批准にむけて作業中である。ECは全船舶を対象に殺虫剤としての有機錫の販売と使用を禁止する指令を改正する提案を行っており、さらに2003年1月1日に条約が発効しなかった場合、EC諸国の船舶とEU域内の港に寄港する船舶に条約のいくつかの要素を適用する規則も策定中である。
 
5−1−3−1−3. バラスト水の規制
 船舶は安全と経費効率の高い運航を行うため、「バラスト水」を使用する。しかしこれは、「通常港内で行われるバラスト水やタンク内沈殿物の排出時に不本意に域外海洋生物種がその海域に移入されるリスク」を含んでいる。もしこれらの種がそこで生存できるようになると、それらはその海域の生態系を狂わすことになる。
 
 「OSPAR条約」と「北海会議」は、船のバラスト水と沈殿物の管理手段と被害緩和手段を確立するため、IMOを通じ共同活動の必要があることを訴えており、IMOのMEPCは1997年に指針を策定した。
 
 その後船舶バラスト水と沈殿物の規制と管理のための国際条約の起草に入り、UKは「条約策定作業部会(WG)」の議長を務めており、2003年に「条約採択外交会議」が予定されている。条約は「バラスト水を使用する全船舶にバラスト水管理計画や、指定されたバラスト水管理海域に適用される厳しい規制に対処できる最低要件の遵守」を要求しようとしている。
 
5−1−3−1−4. ISMコード
 「ISMコード(International Safety Management Code)」は、「海上人命安全条約(SOLAS)の改正によって追加された船舶管理と運航安全及び汚染防止のための国際基準」である。これは2003年7月から国際航海に従事するほとんどの船舶に適用される。
 
 その一環として、海運企業は環境保護に関する原則(ポリシー)を持たねばならず、それは社内と社外の両面から定期的に監査を受けなくてはならない。UKは、ISMコードを「海運企業の環境に対する責任を促す重要な手段」として、また「サブスタンダード船とこれに纏わる問題を排除するための主要な手段」と考えている。同様な手段が国内の小型旅客船に導入されつつあるが、UKは今後全ての英国籍船舶(内航船舶を含め)へISMコードの拡大を行うことが検討されている。
 
5−1−3−1−5. 国際油濁補償制度
 2000年10月にIMOにおいてUKは、「国際油濁補償制度の補償額の抜本的増加」の合意達成にリーダー役を努めた。2003年11月からタンカーの単発油濁事故の補償額は50%増加し、1.8億ポンドとなる予定である。
 
5−1−3−1−6. 危険・有害物質事故被害補償条約
 1996年「危険有害物質の海上輸送に関連する被害の民事責任と補償のための国際条約(The International Convention on Liability and Compensation for Damage in Connection with the Carriage by Sea of Hazardous and Noxious Substances 1996。略記は、HNS条約)」がIMOで首尾よく採択されたがUKは、1996年の外交会議とそれまでの下準備に力を注いできた。
 
 「HNS条約」は、時間のかかる裁判所手続きを免除し、被害補償手続きを簡便にした油タンカー汚染に適用される制度と類似の補償基金を新設しようとするものであり、船舶には強制保険を要求し、事故時には保険業者への直接請求権を提供しようとするものである。
 
 UKは積極的に条約発効の達成に向けて作業を行っており、潜在的条約参加国を取り込むため、条約で規定された枠組みの中で実務的問題の解決を図ることを目的に、IMOメンバー国や関連業界、その他関係者で構成される作業グループの調整に当たっている。英国は海事上の責任、準備、そして対応のための戦略の一環としてEUメンバー国の中で条約の早期実施を強く推進している。
 
5−1−3−1−7. 燃料油被害補償条約
 船舶燃料油は、船舶からの海洋汚染源として、その責任の確定と補償措置の国際合意が出来ていなかった顕著なものの一つであった。2001年の「燃料油による汚染被害の民事責任国際条約(The Imitational Convention on Civil Liability for Pollution Damage Caused by Bunker Oil 2001。略記は、燃料油条約)」は2001年3月に首尾よく採択された。
 
 UKは条約の起草作業と早期採択に向けた鍵となる役割を担った。責任と補償に関する他の海事条約と同じように、燃料油条約は厳しい責任原則と強制保険と保険業者に対する直接請求権が適用される。UKは燃料油条約を発効させるため積極的に作業中である。条約は、海事における責任と準備及び対応の戦略の一環を形成している。この戦略は、英国がEUメンバー国の中で重要なIMO条約群の実施を促進するよう推進しているものである。
 
5−1−3−2. 国内措置
 国際的取組以外に、UKは以下に述べるように国内的取組を進めている。これらの中には、近隣関係諸国との連携を常に図りつつ政策を進めていることが伺える。
 
5−1−3−2−1. 権限集中組織と一貫した摘発・訴追
 UKは船舶からの不法排出問題を取り扱うため他の欧州国とともに作業を行ってきている。1998年以前は、海洋汚染罪の起訴は単一官庁では統一できず、その摘発数も起訴率も低かったが、権限集中組織として、「海事沿岸警備庁(Maritime and Coastguard Agency。略記はMCA)」が出来てからは、摘発率が増え、100%近い起訴率となっている。空中からの監視は船舶の海洋汚染の探知と抑制に目覚しく役立っている。またUKはボン合意の締約国と衛星情報を共有している他、汚染その他の罪で起訴した者の氏名を公開している。またPSC検査によって英国港湾で拘留した外国船舶リストも毎月発表している。
 
5−1−3−2−2. 犯罪者追跡ネットワーク
 「第5回北海会議」の大きな成果は、船からの汚染を防止・抑止し、国際条約基準をより効果的に強制するため、捜査と起訴機関の各国間ネットワークを作ることを目的に、ボン合意に照らして作業を行うことを北海各国が約束したことである。このネットワークによって不法排出の探知率が向上し捜査と犯罪者の起訴がやりやすくなるであろう。協力体制作りとネットワークを効果あるものにするために必要な調整作業は2002年後半のスウェーデ
ンが招聰する会議でスタートする予定である。
 
5−1−3−2−3. 緊急用タグボート
 船舶の座礁その他の事故を防ぐ上でタグボートは有用である。自力航行不能に陥った船舶もタグボートがあれば危険海域から引き離すことが出来る。UKは政府支出基金による「緊急用タグボート(Emergency Towing Vessels。略記はETVs)」を1994年から試験的に導入した。当初ETVsはDoverとSternwayに冬期のみ配置されたが、後の見直しでETVsは4隻に増加され、Dover(仏国と共同)、Sternway、Fair島海峡、South West approachesに配置されている。最後の3つはもともと冬期のみは位置されていたが、2001年10月から全てのETVsが通年配置となっている。
 
5−1−3−2−4. ダブルハルタンカー
 1999年12月の仏国沿岸での「エリカ号油タンカーの沈没事故」後のEU提案に対しIMOは素早くかつ前向きに対応し、「ダブルハルタンカー導入(シングルハルタンカーフェージングアウト)の加速されたタイムテーブル」が出来上がった。
 
 (しかし今回のスペイン沖油汚染事故によって、ECは更なるシングルハルタンカーのフェーズアウトを加速させる検討に入った。UKも欧州全体の動きに同調していくものと思われる。)
 
5−1−3−2−5. 海洋環境高リスク海域
 UKは、高い環境敏感性と高い船舶運航リスクが重なることによって、高い汚染リスクの存在する海域や沿岸域に特別な保護を与えようとしている。これは「海洋環境高リスク海域(Marine Environmental High Risk Areas。略記は、MEHRAs)」として知られている。MEHRAsの指定の意味は、従来英国がその沿岸域と海域に対してとってきた保護レベルを超えて、さらに高いレベルで保護されることを意味する。MEHRAsはUKの沿岸と海洋の環境を守るという約束を強調し、既存の保護メカニズムを補完する国内活動である。関係者(環境団体等)はMEHRAsの制定にとって重要な役割を果たしてきたし、今後もそれが期待されている。
 
 MEHRAsの認定後、UKは海域の保護手段の効果をモニターし、更なる保護手段を導入する必要があるかどうかを評価する予定である。そのような場合必要に応じIMOを通じて合意を求めることとなる。
 
5−1−3−2−6. 国内緊急計画
 広範囲の見直し結果、2000年2月にUKは、適切な省庁等が如何に緊急事故に対応するかを規定した「船舶と沖合い施設からの海洋汚染のための国内緊急計画(National Contingency Plan for Marine Pollution from Shipping and Offshore Installations)」の改訂版を発行した。UKはまた、1990年の「油汚染準備・対応・協力国際条約(OPRC)」の参加国であり、地方と地域レベルの油汚染計画と対応の枠組みを定める国内規則によって本条約の実効性を担保している。もちろんこれは国内緊急計画と両立するものである。
 
 具体的に緊急計画に沿って海難に対処するのは、MCAの「汚染対処部(Counter Pollution and Response Branch。略記はCPR)」であるが、ここでも関係者との連携が考慮されている。まず事故の第一報はUK全国に配置される18の各管区の「運用管理官(Regional Operation Manager)」からCPRへ上がってくる。大事故の場合にはMCA本部に「海事緊急情報室(Maritime Emergency Information Room。略記はMEIR)」が立ち上がる。MEIRは以下の3つのユニットから形成される。
 
●Salvage Control Unit(SCU)
 後述する「海難救助と調停のための国家代表長官」(SOSREP)により指揮され、サルベージ計画・執行全般を監督する。
●Marine Response Centre(MRC)
 海上汚染事故と清掃作業の中心的役割を担う。
●Shoreline Response Centre(SRC)
 沿岸清掃を調整する。地方行政府がMCAの技術的支援を得て指揮をとる。
 
 このMEIRを中央指揮所として全てが統括されることとなるが、MEIRには科学者、海上作業専門家、経費回収予測専門家、兵站支援専門家が張り付く。また、作業に当たっては、環境的配慮の必要性から、自然保護機関や環境規制当局、漁業所管官庁等で構成される「環境グループ(Environmental Group)」が助言団として入る。この他、化学物質関係事故の際は、「化学危険物助言グループ」もMEIRに加わり、化学対処部隊が現場に出動することとなる。
 
5−1−3−2−7. SOSREP(海難救助と調停のための国家代表長官)
 上記で説明のとおり、海難緊急時は海空陸での同時作戦の可能性がある。国務大臣の代理として「海難救助と調停のための国家代表(Secretary of State's Representative for Maritime Salvage and Intervention。略記はSOSREP)」は監督・管理権限を持ち、必要であれば英国領海内で顕著な汚染リスクが存在する場合、船舶や固定プラットフォームを含む救難活動に介入する。SOSREPに与えられた命令権は広範であり、彼が公共の利益が適切に守れないと信じる場合は、活動命令を発することが出来る。またこの制度は「UKが世界で最初であり、SOSREPの役割がとても適切であること」を数多くの事故例が証明している。







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