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5. 海運と港湾の重要性
 海運と港湾はUK経済にとって大変重要なものであり、国と地方の両方の経済競争力を支えている。しかし今後は、良好な海洋環境の維持・改善という命題にも同時に答えていくために、「持続可能な運用」が求められている。この持続可能な運用を推進するための具体的なUKにおける政策がMSR第5章にまとめられている。これらの中には我が国の施策と同様なものもあれば、UKが世界に先駆けて取組を行っているものもある。
 
5−1. MSR第五章「海運と港湾の重要性」
 MSRの第五章の内容を整理・要約し、必要と思われる個所では補足説明を加えて以下に紹介する。
 
5−1−1. 海運と港湾の経済貢献と環境との共存のための基本方針
 1999年現在、UKの対外貿易の90%以上(3.88億トン)、国内貨物の7%(1.77億トン)が海上貨物である。また1年間で7千万人以上の旅客がUK港湾を出入りしている。
 
 海運産業が効果的・効率的に存続し、港湾も現状能力を維持し、且つ潜在的開発力を効率的・持続可能的に保つことはUKの「国家的関心事」である。海運と港湾の開発・運営による明らかな影響、特に沿岸湿地帯や領海域内の野生生物への影響に関しては、
 
●Stewardshipの採用
 
●規制に対する「生態系べ一スのアプローチ」
 
が重要であって、「両者の運営と環境目標との共存」のためには、責任ある管理が不可欠である。
 
 海運はその性質上、「国際的管理と規制を要求される国際産業」である。UKにおいても、「国際海事機関(IMO)」を通じた活動によって、海運産業は規制されている。さらにEUを通じて、またIMOに於ける様々な条約で規定される「安全・環境要件の統一的な適用」を図るため、「国内措置」を行っている。
 
 UKは「海上汚染助言グループ(MPAG)」を通じて関係者との連携を図っている。MPAGは行政官が議長を務め、各行政機関と委任官庁、地方行政府、公共団体、産業会、NGOでメンバー構成されている。MPAGの対象課題の幅広さと特定問題に焦点をあてて結論を導く能力は、MPAGに政策参加への機会を与えたからに他なら
ない。
 
 UKの基本姿勢(ポリシー)は「国際的または国内的活動を通じて海洋汚染リスクを軽減し、海難時に国による対応で被害を最小限に抑えること1にある。
 
5−1−2. UKのアプローチ
 1993年のShetland島沖での油タンカー「ブレア号」沈没事故を教訓として大規模海難の再発防止のための提言であるドナルドソン卿の1994年報告書「より安全な船舶と綺麗な海(Load Donaldson's 1994 report Safer Ships, Clean Seas)」が出されてから、UKは海運による環境リスクヘのアプローチを大幅に変更した。
 
 さらにUKは、1996年にMilford Haven入口の岩礁に乗り上げた「シーエンプレス号」事故後にも「見直し」を実施した。
 
5−1−2−1. 排出リスクの軽減方策
 事故時または、船舶運航時の故意による油等の廃棄物の排出リスクを回避・軽減するために、UKは以下のような具体的な施策を展開している。
 
●基準の強化
 
 「事故時の排出リスクを軽減するため、UKは国際基準の強化を進めている。後述するようにIMOを中心に様々な事故からの教訓を踏まえ、各種条約の検討、採択、発効のために努力している。」
 
●基準非適合運航者(Sub−standard Operators)の排除
 
 UKでは事故リスクの高い船舶を排除するため「寄港国検査(Port State Control:PSC)」の強化を行っている。PSCは、「海上人命安全条約(SOLAS)、「海洋環境汚染防止条約(MARPOL)」等によって検査権
限が寄港国に与えられており、UK港湾に寄港する外国船舶がIMOで定められた国際基準に準拠して
いるかを検査している。
 
 一方「UK籍船」についても、世界で最も高い基準で運航されることを確保するよう「国内措置」を取っていく。
 
 また、「全ての旗国が海事法令のもとで彼らの責任(船舶の条約要件遵守の担保責任は船籍国に)を再認識する」ことを求めている。
 
●違法排出の探知と訴追
 
 UKは航空機や衛星等からの海面探知を厳しく行い、船舶運航時における油等廃棄物の違法排出の取締りを強化していく。さらに違法排出を続ける者に対しては、「厳しく訴追」を行うことで違法排出の抑止を進めていく。
 
●港湾廃棄物受入施設の整備
 
 航行中の船舶から廃棄物投棄がなされた際に、その船舶が廃棄場所の未整備を理由に、やむを得ず投棄したといった言い訳が出来ないように、UK各港湾には、「適切な廃棄物受入施設の整備」を進める。
 
●船舶動向情報の整備
 
 UKはEnglish Channelの「IMO報告要件(入域前の自船情報の通報)」の強制化を行うとともに包括的な検査を実施していく。他の地域についても任意の報告システムが存在している。UKは、英国海上保安庁がUK沿岸の全船舶動向の識別とモニターが出来るよう、IMO規則による「トランスポンダー(Automatic Identification System:AIS)」の強制配備を強く支持している。
 
●海上交通管制
 
 以下に示すIMOで合意されたUKの「海上交通管制」を推進する。
 
 「外Hebridesの西部域の深水ルート(10,000GT超えの油積載タンカーは通常Little MunchもしくはNorth Munchを通過するよりもここを使うことを要求される。)
 
 「English Channelの分離通航方式」
 
 「避けるべき他の地域(Orkney諸島とShetland諸島を含む)」
 
5−1−2−2. 事故発生後の被害リスク低減策
 UKは事故後の被害リスクを最小化するためのアプローチとして、以下のように海難への対応を大幅に変更しようとしている。
 
●救助と清掃活動中の環境的配慮
 
 事故発生後の救助と清掃活動中も環境的配慮を行うよう、作業実施主体は関係者や関係機関による助言団と密接に連携していく。
 
●被害者への迅速な補償
 
 さらにUKは船舶起因の汚染事故によって経済的損失を被った者、具体的には沿岸への油漂着等により漁業活動が不可能になったケース等に、出来るだけ早く適切な補償が行えるよう関連条約等の早期批准などの作業を行っていく。
 
●パイロッテージ等作業安全の向上
 
 水先業務やタグボート業務等の港湾業務の安全性向上のために「港湾業務安全規則(Port Marine Safety Code)」が策定され、2000年3月に公布にされた。規則は「港湾業務運用上のリスク管理の原則と安全管理システム」を規定し、船舶を指揮し航行を規制する権限をもつ全ての港湾管理者の義務と権限を明確にしている。また、水先を始めとする港湾に関連する全ての作業者の資格が基準化されている。」







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