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4−1−4. 洪水対策・沿岸防護施策
 
4−1−4−1. 海岸線管理計画(SMP)
 1993年に、農業・漁業・食料省(当時)とウェールズ省(当時)により、新たな「洪水対策と沿岸保護戦略(Strategy for Flood and Coastal Defence)」が発表された。
 
 この戦略に基づき沿岸の地理的管理単位である「堆積セル」が定義され、「海岸線管理計画(Shoreline Management Plan。SMPと略記)」作成が促進された。この戦略では、「人命、自然または人口の重要資産が危険にさらされているのではない限り、自然の沿岸プロセス変化を乱さない」というオプションも考慮すべきであるとされている。この事はつまり、「防護設備を構築するだけではなく、積極的干渉を皆無にする事」、「干渉を極小にする事」、「ソフトエンジニアリング技術の利用(例:砂丘など)」などもオプションとして検討されるべきであることを意味する。
 
 1999年に、イングランドとウェールズの全沿岸線をカバーする最初のSMP集が完成した。これらのSMPは、今後50年間にわたる「沿岸防護計画」に対する、全体的視野に立った「持続可能なアプローチ」の基礎となるものである。
 
 SMPの次回ラウンドは2002年中に開始予定である。その目的は、さらに「長期的な自然プロセス」への配慮である。「沿岸線の将来起こり得る進化に関する研究プロジェクト」が実施されており、研究結果は「次世代のSMP」に反映されることになる。具体的な研究成果は、今後50年から100年に亘って起こり得る沿岸線変化のGISをベースとしたモデリングシステムであり、近々完成の予定である。
 
 新たなSMPはまた、「UK生物多様性行動計画(UKBAP)」で設定された生物種及び生息地の保全・復旧・拡張目標に寄与するものとなるべきである。
 
 SMPの詳細については、本報告書4−3−1節で補足説明する。
 
4−1−4−2. 沿岸生息地管理計画(CHaMPS)
 「沿岸生息地管理計画(Coastal Habitat Management Plans。CHaMPSと略記)」は、EUの「LIFEプログラム」から助成金を受け、以下の機関が共同で進めている「Living with the Seaプロジェクト」を通じて開発された活動である。
 
●イングリッシュ・ネイチャー(English Nature)
●自然環境リサーチカウンシル(NERC)
●環境エージェンシー(Environmental Agency)
●DEFRA
 
 「Living with the Seaプロジェクト」は1999年12月から2003年12月までの4ヵ年プロジェクトである。プロジェクトのねらいには、以下が含まれている。
 
●7つのCHaMPSの準備
 
●生息地創設の最適方法方針
 
●変遷する沿岸線での欧州生息地管理のためのフレームワーク作成
 
 各々のCHaMPSでは、「次の30〜100年間に起こり得る野性生物生息地の増減予測、保護生息地を保持するために必要な洪水対策と沿岸防護、生息地の消失を埋め合わせるために新たに創設されなくてはならない生息地を特定すること」が予定されている。
 
 CHaMPSには、戦略的な生息地モニタリングプログラムも含まれている。具体的な施策は、「海岸線管理計画及び洪水対策と沿岸防護戦略ならびスキーム」を通して行われる。
 
 CHaMPSの詳細については、本報告書4−3−2節で補足説明する。
 
4−1−5. 水質改善
 「沿岸周辺の水棲生物保護と水質の改善」に関して、複数の「EU指令」が存在しており、これらの指令に沿って実施されてきた「UKの水質改善施策」とその成果がリストされている。
 
4−1−5−1. 遊泳水域指令
 「遊泳水域指令(Bathing Water Directive)」では義務水質基準の他に、努力目標値として義務水準より厳格なガイドライン値を設定している。2001年に実施された546ケ所のUK内海水浴場における水質検査では95%が義務水準をパスし、57%がガイドライン値をパスした。これは、1990年度調査に比べて、各々77%と30%の増加である。
 
 UK政府は、海水浴場水質改善のために、1990年代初めから総計20億ポンドを投資しており、2000年から2005年の間に、さらに6億ポンドが追加投資される予定である。
 
 UK政府は、科学技術・研究の発展を考慮に入れて、「遊泳水域政策」の見直しをECと協調して進めている。堅固な科学的根拠をべースとし、対費用分析を考慮に入れた、「公衆の健康保護のための指令」作成が目指されている。
 
4−1−5−2. 貝類生息水指令
 「貝類生息水指令(Shellfish Waters Directive)」は、貝類が成長する水域の水質保全・改善を目的としている。現在、UK内には161ケ所の指定水域がある(1998年には40ケ所)。指令では、指定された貝類成長水域において達成義務のある基準の他に、努力目標値として義務基準より厳格なガイドライン値を設定している。全ての貝類成長水域に対して水質モニタリングを含む包括的な汚染減少プログラムが策定されている。
 
4−1−5−3. 水枠組み指令
 2000年12月に発効した「水枠組み指令(Water Framework Directive)」は、沿岸水域を含む水域保護のためのフレームワークを規定する指令であり、2015年までの達成目標として厳しい水質基準値を設けている。指令には優先的に規制されるべき物質のリストが含まれ、リストされた高優先物質の発散の制御についての規定もある。
 
4−1−5−4. 都市廃水処理指令
 「都市廃水処理指令(Urban Waste Water Treatment Directive。UWWTDと略記)」では、下水処理に関し、水質基準とその達成の最終期限を設けている。この指令は、廃水収集システムと大雨によるオーバーフローによる汚染削減についても、その目標に含んでいる。UKでは、2002年末までに15, 000人以上の人口をカバーしている下水処理場からの廃水の98%について、排出先の水域に流入する前に第一次及び第二次の2段階処理が実施される予定である。
 
 さらに、イングランドとウェールズにおいては2005年の終わりまでに、2, 000人以上の人口をカバーしている下水処理場からの廃水について、第一次及び第二次の処理が最低限の基準となる予定である。UKの沿岸廃水規定はEU指令の要求基準を上回るものである。
 
4−1−6. 今後の行動計画
 MSRでは、UK政府の今後の活動方針・計画が以下の様に述べられている。
 
●ECのICZM勧告が採択され勧告の最終本文が明確になり次第、「全国の沿岸フォーラムのジョイント会議」を開催する。この会議は、統合的沿岸管理方法を議論し、政府の勧告実施計画について諮問を行う機会である。
 
●「水質改善に関するEU指令」準拠の早期実施に向けて継続投資を行う。
 
●UK周辺沿岸海域・海底地図の既存情報を基にして、「情報センター」を設立する。
 
●「生態学的特性目標(Ecological Quality Objectives)」を策定し、環境モニタリングフレームワークを確立する。
 
●沿岸地域に関連する全ての制度・法律・関係者に関して、「包括的な広い視野に立った見直し」を実施する。見直しが完了後、個々の国内行政機関に対して沿岸戦略草案に対する諮問を開始する。
 
●イングランド・ウェールズ・スコットランド・北アイルランドの統合戦略を柱とし、UKの沿岸線の未来に関する「UK全体の包括ビジョン」を2006年にまでに完成する。







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