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3−3. UK生物多様性行動計画
 
 前節では、「海洋生物多様性保全」を「海洋環境保全・自然保護の一環」として捉え、「UKの海洋環境保全・自然保護政策の現状」について外観したが、本節では、「海洋生物多様性保全」を「生物多様性保全の一部」として捉え、「UKの生物多様性保全行動計画」について概説する。
 
図3−4:生物多様性保全の面から見た海洋生物多様性保全
 
 1992年の「リオ地球サミット」において、「生物多様性条約(Convention on Biological Diversity。略記はCBD)」が159ケ国の政府によって調印され、1993年12月29日に発効した。「生物多様性保全のための法的フレームワーク」を提供する初の「国際条約」である。この条約により、「生物学的多様性を保全・保護・拡張するための国家としての戦略の作成と実行」が条約締結国に要求される。
 
3−3−1. BAPの歴史
 「UK生物多様性行動計画(UKBAP)」は、上記のCBDで定められる加盟国義務遂行のために開始された「UKの国内プログラム」である。
 
 1993年に、UK政府はCBD関連事項に対する意見聴取のために300以上の組織・団体を集めて2日間のセミナーを開催した。その成果として、「Biodiversity:the UK Action Plan」レポートが1994年に発表された。
 
 このレポートでは、来たる20年間に亘って実行されるべき59種類の活動を広く定義(59ステップと呼ばれる)し、活動を前進させるための「調整グループ(Steering group)」の創設を勧告している。このレポートで確立された、UKの生物多様性保全原則は以下に要約される。
 
●パートナーシップ
 全国及び地方双方のレベルにおける、公的機関・ボランティア・学究組織・実業界の相互協力による活動を促進する
 
●目標
 最も優先度が高い生物種と生息地タイプについて、計量可能な、保全措置効果を評価するための指標を確立する
 
●政策統合
 UKにおける生物多様性資源の減衰をくい止め、社会の全てのセクターにおいて持続可能な開発をサポートするためには、政策の転換が必要であることを認識する
 
●情報
 意思決定は堅固な科学的知識によって裏打ちされるべきであり、情報ギャップを埋め、既存の情報をより効率的に管理するためには新たなアプローチが必要であることを認識する
 
●公衆の啓蒙
 生物多様性を維持するためには、公衆の理解と活動が必要である
 
 1994年レポートの勧告に従い、「UK生物多様性調整グループ」が設立され、1995年に「Biodiversity:The UK Steering Group Report Meeting the Rio Challenge」レポートが作成された。このレポートには、「116種類の生物種と14の生息地を保全するための行動計画が示されており、将来の生物多様性行動計画に対する勧告」も含まれている。その後さらに「6部の生物種及び生息地に関する行動計画」が発表されている。
 
 UK政府は、「調整グループレポート」に対し、1996年5月にレポートの内容とその主要な勧告に同意する旨を表明した。「UKの生物多様性活動」を全国レベルで調整するために、「UK生物多様性グループ(UK Biodiversity Group)」が設立された。「UK生物多様性グループ」は、UK生物多様性調整グループの後継組織として位置付けられる。
 
3−3−2. UKBAPの活動内容
 2002年12月現在、436の「生物多様性行動計画(生物種に関する計画391、生息地に関する計画45)」が存在する。
 
 いくつかの行動計画は、「チャンピオン」と呼ばれる企業スポンサーによってサポートされている。具体的には生物種毎に企業スポンサーが付いており、資金援助を行っている。例えば、大手スーパーマーケットは「雲雀」の、地方水道会社は「ある種の蛙」の「保全行動計画スポンサー」となっている。
 
 企業から見れば、「環境に優しい企業」としての企業イメージアップのメリットがあり(税制上の優遇があるかどうかは不明)、UKBAPグループとしては、民間資金活用のメリットがある。行動計画の実行には、個々の地域的な特色や実情を反映した「地方レベル生物多様性行動計画(Local Biodiversity Action Plan。LBAPと略記)」が大きな役割を果たしている。
 
 「UKの生物多様性行動計画」には3タイプがある。一番目のタイプは、「全国的に重要性があり、優先度が高いと見なされる生物種に関する行動計画」、二番目は「同じく全国レベルでの高優先度が与えられている生息地に関する行動計画」、そして三番目の行動計画タイプは「地方レベルで重要とされる野性生物と生息地保全に関する行動計画」である。
 
 調整グループは地域行政機関や地方政府との共同検討を経て、「地方レベル生物多様性行動計画」を作成するための一連の「ガイドライン」を作成している。2002年12月現在、約160の地方レベル行動計画が策定中または実施中である。
 
 各行動計画は「パートナーシップ」をベースとして運営されている。LBAPの活動内容は、全国レベルのターゲットに沿う様に指導されており、全国レベルの優先順位と密接にリンクしている。つまり、「国家レベルのフレームワーク内」で、「統一的ターゲットとの整合性」を確保しつつ運営されている。同時に、「地方レベル行動計画」は、その地方の「独自実情」を反映したものとなっている。活動のための資金は、行動計画に参加している「パートナー」からの資金(政府系機関からの交付金やNGOからの寄付金など)で賄われている。
 
3−3−3. UKBAPの見直し
 2001年3月に、公共・民間セクターからの代表者で構成される「UK生物多様性グループ」により、「Sustaining the Variety of Life:Millennium Biodiversity Report(通称、ミレニアム生物多様性レポート)」が政府に対して提出された。このレポートでは、UK BAP開始以来最初の5年間の活動成果についての評価が為されている。
 
 「ミレニアム生物多様性レポート」に対する政府回答は2002年7月に発表されており、レポート内で提案されたUKレベルでの組織構成変更に同意するなど、概ね肯定的に受け取られている。
 
 UK BAP開始以後に行われた「地方分権化政策」により、UKBAP実施の責任は「各地方政府(イングランドの場合のみ中央政府)」に移管されることになった。レポートで提案された組織構成変更は、主にこの「行政責任配分の変革」に対応するためのものである。
 
 「ミレニアム生物多様性レポート」で提案されている新組織編成は、「UKレベルでの活動をサポートする仕組みを保持しつつ、各地方政府への権限委譲を強調すること」を目指したものである。提案されている主な変更点の一つは、UK生物多様性グループの後継として「UK生物多様性パートナーシップ(UK Biodiversity Partnership)」の新設である。この新組織の目的は、UKレベルにおいて、「明確で包括的なパートナーシップ」を提供することである。すなわち、「地方政府への権限委譲の結果、地方レベルで制定されることとなる生物多様性戦略や、その実施活動のUKレベルでの整合性調整のための新組織」である。
 
 「ミレニアム生物多様性レポート」では活動成果分析の一つとして、「生息地に関するBAP」と「生物種に関するBAP」に2つに大別した、各BAPの主導パートナーによるアセスメント結果の統計が示されている。それによると、アセスメントを行うための情報が不足であるという回答が生息地BAPについて71%、生物種BAPについて55%に上っている。
 
 また、行動計画実施促進のために必要なものは何かという質問に対しても、生息地及び生物種双方について80%以上の主導パートナーが「さらなるリサーチとサーベイ」が必要と回答しており(複数項目回答可)、評価指標となる科学的・実地的データ採集の困難さが大きな進捗阻害原因となっていることが伺える。これには、評価指標自体の策定段階の問題と、実際のデータ計測、収集段階のオペレーショナルな問題の双方が含まれていると
推測される。
 
 2002年10月に、新たなイングランドの生物多様性戦略が環境・食料・農村大臣によって発表されている。上記のUKBAP再編と、過去の実績評価から導き出される進捗阻害の原因分析と対応策検討を経て、UKの生物多様性保全政策の策定活動は、新しい段階に入ったところであると言えるであろう。







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