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2−3−5. MSR第五章「海運と港湾の重要性」
 MSR第五章では、海運活動と港湾開発について、環境保護とのバランスを中心にUKの現状と今後の計画について説明されている。
 
(1)海運と港湾の貢献と環境との共存のための基本方針
 UKの対外貿易の90%以上は海上輸送が分担しており、年間7千万人以上の旅客がUK港湾を出入りしている。海運と港湾の効率的かつ持続可能的な維持は国家的関心事である。これらの環境影響に関しては、「Stewardship」の採用と、規制に対する生態系ベースのアプローチが重要である。海運はその性質上国際産業であり、UKも「国際海事機関(IMO)」を通じた活動によって規制を実施しており、「欧州共同体」を通じた環境要件等の統一的な適用も行っている。
 UKは「海上汚染助言グループ(MPAG)」を通じて関係者と政府の連携を図っている。UKの基本姿勢(ポリシー)は「国際的・国内的活動を通じて海洋汚染リスクを軽減し、海難時の被害を最小化すること」にある。
 
(2)UKのアプローチ
 上記方針に至るまでに、UKは以下の大事故を経験している。
 
●1993年のShetland島沖での油タンカー「ブレア号」沈没事故
●1996年にMilford Haven入口の岩礁に乗り上げた「シーエンプレス号」事故
 
 UKは具体的な排出リスク回避策として以下の政策を展開している。
 
●基準非適合運航者(Sub−standard Operators)の排除(PSC)
●探知による船舶からの運航時の排出縮減
●非合法排出を続ける者の訴追
●港湾廃棄物受け入れ施設の整備
●自動船舶識別装置(AIS)の強制配備
●海上交通管制の実施
 
またUKは海難発生後の対応として以下を整備している。
 
●救助と清掃活動中の環境的配慮メカニズム
●汚染事故によって経済的損失を被った人々への早期補償
●港湾業務安全規則(Port Marine Safety Code)の施行
 
(3)国際的措置
 IMO等を通じた国際的措置としてUKは以下を推進している。
 
●特別海域の拡大による規制強化
 −MARPOL条約第I章(油汚染保護)
 −MARPOL第V章(船からの廃物汚染保護)
●船体防汚塗料の規制
 「有害船体防汚システム規制国際条約」の推進
●バラスト水の規制
 2003年に条約採択外交会議が予定。
●ISMコードの適用
 2002年7月から国際の全船舶に適用。
●危険・有害物質規制
 「1996年危険有害物質の海上輸送に関連する被害の民事責任と補償のための国際条約」(HNS条約)の発効推進
●燃料油規制
 「2001年の燃料油による汚染被害の民事責任国際条約(燃料油条約)」の発効推進
 
(4)国内措置
 UKは「海洋環境防止」のために以下の国内施策を展開している。
 
●権限集中組織としての海事沿岸警備庁(MCA)による違反者の一貫した摘発・訴追
●空中監視(ボン合意による衛星情報共有。)
●緊急用タグボートの配備
●海洋環境高リスク海域(MEHRAs)の設定
●国内緊急計画
●海難救助と調停のための国家代表長官の任命
●ISMコードの国内の小型旅客船に導入と全UK籍船への拡大検討
 
(5)港湾の持続可能な開発
 「持続可能な開発政策」は、新規開発を管理する手段であり、開発を止める規則ではない。敏感な保護サイトのためには、「生態系ベースのアプローチ」や「新規開発認可手続き等を含む規則の策定」が必要である。
 港湾廃棄物受入施設は、海への廃棄物投棄を抑止するために重要であり、UKは1998年1月に全船舶にバースを提供するよう国内法を導入し、港湾管理者は利用者と協議の上、廃棄物受入施設の準備計画の作成が要求されることとなった。
 
(6)今後の行動計画
 UKは以下の政策を展開していく。
 
●シングル・ハル・タンカーの世界的禁止のような厳しい制約を更なる海洋環境保護のために今後導入。
●海洋汚染犯罪者を締め出すための関係国間情報ネットワークを構築する。
●MEHRAs(海洋環境高リスク海域)は船舶起因の汚染事故で高いリスクを呈する特に敏感な海域と沿岸域であり、他の海域に対する措置に加え、追加防護を行う。
●規制システムを、より簡素化する。関係者(環境団体等)はこの見直しと一体不可分。
 
2−3−6. MSR第六章「オフショア事業と再生可能なエネルギーの貢献」
 MSRの第六章では、オフショア活動について大きく以下の3つのカテゴリーに分けて、UKの現状と今後の計画が説明されている。
 
●石油・天然ガス
●再生可能エネルギー(オフショア風力発電など)
●海洋鉱物資源採取
 
(1)石油・天然ガス
 
 「オフショア石油・天然ガス開発」のUKのエネルギー生産全体に占める割合は85%に上り、その「国家エネルギー政策」に占める位置は非常に大きい。
 
 オフショア石油・天然ガスの開発分野」におけるUK政府の現在の取り組みを概観すると、「オフショア設備のライフタイム全般に亘って業界の経済的発展とのバランスを図りつつ、MSR第一章に示された生態系ベースアプローチと理念達成原則を適用していくための管理フレームワーク整備」を行っている段階であると言える。
 
 MSRでは、「オフショア石油・天然ガス開発」に関して、以下の項目が取り上げられ、解説されている。
 
●環境保護のためのUKの規制システム
●関係者の参画の仕組み作り
●オフショア設備撤去問題
●OSPAR条約を通じた国際協力活動
 
 また、UK政府の「具体的な行動計画」として、以下が挙げられている。
 
●「採掘ライセンス交付前段階から探査・開発・閉鎖に至るまでの、シームレスで統合的・包括的な環境規制体制を2003年までに整備する。」
●「OSPAR戦略の要求事項に準拠するための活動を推進していく。」
●「UKの大陸棚全域で、今後5年間の間に段階的に「戦略的環境アセスメント(SEA)」を実施し、これが終了していないエリアの新規ライセンスは交付しない。」
 
(2)再生可能エネルギー
 
 「オフショア風力」、「波力」、「潮力発電」は、それ自体が政府の海洋管理政策原則の一つである「持続可能な開発」を体現するものであり、政府のエネルギー政策において重要な役割を果たすものとして期待されており、業界育成に力が注がれている。
 
 「2010年までに、電力事業ライセンスを受けた事業者からの電力供給のうち、販売量の10%を再生可能エネルギー源からの供給で賄う」のがUK政府の目標である。2002年5月現在、UK国内で20のオフショア風力発電事業が開発初期段階にある。2010年までに「再生可能エネルギー」を使用した電力市場は15〜20億ポンド規模になると予想されている。(2003年2月に発表されたエネルギー白書でも、この方針が確認されている。)
 
 MSRでは、「オフショア再生可能エネルギー開発」に関して、以下の項目が取り上げられ、解説されている。
 
●政府の市場育成措置
●認可申請プロセスの簡便化
●環境、他の海洋活動、野生生物への影響の考慮
●風力以外のオフショア再生可能エネルギー技術の現状
 
 また、UK政府の具体的な行動計画として、以下が挙げられている。
 
●「京都議定書に関する世界的及び欧州内での公約を考慮に入れ、再生可能エネルギーの潜在的価値を探求する。」
●「オフショア風力エネルギー設備の開発計画の申請を検討する場合に、使用できるクライテリアを、OSPAR条約関連活動を通じて作成する。」
●「設備潜在能力の活用と海洋生態系保護の両立を可能とする、オフショア風力エネルギー設備の立地・建設・操業・撤去に関する最善な利用可能技術を、OSPAR条約関連活動を通じて検討する。」
●2002年度中に「エネルギー白書」を発行する。(実際の発表は2003年2月)
 
(3)海洋鉱物資源採取
 
 「海洋鉱物資源」としてMSRで取り上げられているのは、主に建築骨材として使用される「海砂と砂利」である。
 
 2000年度の統計では、イングランドとウェールズ建設業界において約1千3百40万トンの「海砂と砂利」が使用され、7百30万トンは欧州大陸内の建設業界に輸出されている。沿岸防護素材としては2百20万トンが使用されている。
 
 MSRでは、海洋鉱物資源採取に関して、以下の項目が取り上げられ、解説されている。
 
●環境保護のための規制の枠組み
●政府による研究助成
 
 また、UK政府の具体的な行動計画として、以下が挙げられている。
 
●「採取ライセンス」交付前に政府が環境への影響を検討する、現行の「政府見解」手続きに替わるものとして、「環境インパクトアセスメント及び生息地(浚渫による鉱物資源採取)規制法」を導入し、手続きを法制化する。この規制法はEUの「環境インクロ外アセスメント指令」と「生息地指令」で要求される事項を「国内法」に反映するものである。手続きの法制化により、規定違反者の訴追が可能となる。
 
●スコットランドにおいても同様の規制法を導入する。
 
●イングランド海域における海洋鉱物資源の採取に関して「政策ガイダンス」を作成する。ガイダンス草案に対する公聴は既に2001年2月に実施されている。
 
●「採取ライセンス」交付の対象となる海域の削減可能性を検討する。1997年初めから2000年終わりまでに、総計317平方キロメートルの海底が浚渫禁止になった。ゾーン制により、現在行われている浚渫活動をより狭い範囲に限定させる。







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