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1−2. UKの政策実施メカニズム
 前節1−1で概説した、UKにおける中央政府政策の地方レベルにおける施策への反映プロセス(トップダウンの方向性)の概略について解説する。
 
1−2−1. UKの地方分権化政策
 UKにおいては、現労働党政権政府が1990年代にDevolution(権限委譲)と呼ばれる、「地方分権化促進政策」を開始した。UKは、その「連合王国(United Kingdom)」という呼称が示すとおり、歴史的には個別の国家であった「イングランド」、「スコットランド」、「ウェールズ」、「アイルランドの一部である北アイルランド」が一つの国家として統合されて成立した国家である。従って、これらの四地方の地方独自性は高い。1990年代後半になり、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドに各々の「地方議会と地方政府(devolved administrations)」が設立され「地方分権化」が進んだ。
 
 各地方議会・行政府の権限は、国防や外交政策といったUK中央政府の「直轄管理下」にある国家的な問題を除いて、幅の広いものとなっている。厳密に言うと、各地方に委譲されている権限範囲は一定ではなく格差があるが、その内容については本報告書では省略する。
 
 「海洋管理政策」についても、この権限委譲の動きは組織や活動管理上の影響を及ぼしている。海洋環境に関わる行政責任が地方政府に分割委譲されたために、UK国内において「地方政府」という新たな「管理レベル」がひとつ追加されたことになる。
 
 「行政レベル数の増加」と「地方自治権の拡大」は、すなわち国家レベルでの政策コーディネーションとUK全体政府としての「管理行政の複雑化」をもたらした反面、「地方特性に合わせた柔軟な施策とより迅速な実行が可能」になり、「政策決定や政治的プロセスヘの地方の関与が高まる」というメリットも生んだ。
 
 「イングランド」においては「地方政府」は存在せず、イングランドはUK中央政府の「直接行政下」にある。1990年代に政府の権限委譲政策の一環として、イングランド内の「各地域(region)」レベルの「自治権拡大」が行われた。地方政府が存在する場合とは異なり、政策策定・実施における中央政府と自治体間のインタラクティブな情報交換、相互活動プロセスの整備が行政組織上でより具体的に考慮されている様に見受けられる。
 
 次ぺージの下記の図1−2にUKの「地理的行政単位」の模式図を示す。図中、行政単位の包含関係はあくまでも地理的なものであり、行政機関としての階層構造を示すものではない。また、さらに細かい行政単位として「Electoral Ward/Division(選挙区にあたる)」と、イングランドの「Parish」、スコットランドとウェールズの「Community」があるが、ここでは省略した。
 
 イングランドの地方自治体は、2階層になっている場合と1階層のみの場合がある。イングランドの各地域(Region)に含まれる地方自治体の種類と数は地域毎に異なる。
 
図1−2:地理的UK行政単位
(拡大画面:13KB)
注1:
イングランドには大ロンドンも含めて9つのRegionがある。
注2:
大ロンドンには直接選挙によって選出される市長が存在するなど、他のRegionとは若干性格が異なるため別枠に示してある。
 
1−2−2. 中央政府政策反映メカニズム
 
1−2−2−1. 現在の状況とその問題点
 従来のUKにおける海洋環境保護政策の実施は、UK政府全体としての「統合的フレームワーク」が欠如した状態で「特定エリア」または「特定項目別(サブジェクト)」に限定された「プロジェクト毎」で個々に推進されており、その結果UK全体としての「整合性」に欠け、「進展度にも地域格差」が見られる結果となっている。
 
 「地域レベル」または「プロジェクト毎」の実施計画が策定される場合、「実施前の計画段階での妥当性評価」及び「UK全体政策の中での位置付け」が明確化されていない場合もあった。その結果として「各施策・研究調査の重複が発生する場合や、「整合性の問題」が生じている。例えば、「地域イニシアティブ」として推進されていた環境モニタリングにおいて、「統一された環境指標や測定方法の品質管理基準が計画段階で存在しなかったために、観測データの相互比較ができないケース」などが例として挙げられる。
 
 また、計画が実施された場合、その結果を逆に「ボトムアップ」で還元して中央政府レベルで「分析・検討・再調整・方向修正」を行い、その後の政策策定により具体化して反映させる「循環的プロセス」がうまく機能していなかったため、「活動の継続性・有効性に問題が生じているケース」も見られる。この例としては、イングランドとウェールズの「沿岸フォーラム」を挙げることができるであろう。
 
 以下、各地方政府、イングランド内各地域の順に中央政策反映メカニズムについて概説を行う。下図1−3にUK行政組織間の政策策定・施策コーディネーションの仕組みの模式図を示す。後続の概説と併せて参照されたい。
 
図1−3:UK行政組織間の政策策定・施策コーディネーションの仕組み
(拡大画面:67KB)
 
1−2−2−2. 各地方政府の中央政策反映メカニズム
 中央政府とスコットランド・ウェールズ・北アイルランドの各地方政府間においては、政策の統合性と整合性の保持のために、「項目毎に(例えば環境政策、海洋研究政策など)政府内委員会などの組織横断的な機関・組織を通じた調整」が行われている。
 
 中央政府の政策・方針は、一般的な形の諮問文書・ガイドラインの形で示される場合もある。その枠組みの中で、各地方政府は地方特性に合わせた「独自の計画政策ガイダンス(Planning Policy Guidance。PPG」と略記)」を作成し、政策実施に必要な実行計画の具体化を進める。
 
1−2−2−3. イングランドにおける中央政策反映メカニズム
 「イングランド」には地方政府が存在しないため、上記の地方政府のケースとは政策実施の仕組みが異なる。
 
 イングランドは、9つの地域に分かれている。政府政策とイングランド内地域レベルでの施策の整合性は、以下の3組織間の協同によって図られている(図1-3参照)。
 
●Government Office(以下、GOと略記)
●地域開発局(Regional Development Agency。RDAと略記)
●地域会議(Regional Chamber)
 
 地域における運輸などを含む開発計画の方向性を決める地域的戦略、中長期的な開発戦略大綱、その他各種政策やプログラムに対するフレームワークを設定するための「地域計画ガイダンス(Regional Palming Guidance。RPGと略記)」がイングランド地域レベルの政策実施の枠組みである。
 
 RPGは、地元の計画組織(地域会議)が草案を作成し、閣僚が指名する専門家や関係者から組織された検討委員会の諮問を経て、副首相府が制定する。RPGには、「国家政策の実施に向けて地域レベルで取られるべき活動に関するガイダンス」が盛り込まれ、それを受けて各地域では、「地域特性を考慮した具体的な計画策定に政府政策」を反映させていくことになる。
 
 しかしながら、RPGに記述される「ガイダンス」はハイレベルなものであるため、「ガイダンスで示される目標の実施方法の検討・計画は各地域毎に独自のもの」となっている。その結果、「例えば沿岸管理に関する各地域の具体的計画・施策にはかなりのばらつきが見られ、UK全体として統一性を欠いたものとなっており、UK中央政府の政策を十分に反映させたものとならていない」こともあるのが実情である。
 
◆Government Office(GO)
 イングランドでは、1994年に各地域毎に対応するGovernment Officeが設立された。GOは、中央政府の副首相府(Office of Deputy Prime Minister)の一部である。GOの目的は、中央政府における政策の策定と評価に地域の視点を反映させることである。GOは、地方当局(local authority)、地域開発局(Regional Development Agencies)、その他の関連機関と協同し、中央政府政策の地域レベルでの実施における調整にも関与している。GO経由で集められた各地域からの意見・情報は、地域コーディネーションユニット(Regional Coordination Unit)と呼ばれる中央行政組織内の部門を通じて中央政府の政策策定プロセスに還元されるシステムとなっている。
  
 
◆地域開発局:Regional Development Agencies(RDA)
 イングランド内地域レベルでの経済開発促進を目的とする地域開発局は1999年に設立された。RDAは、イングランド内9地域毎に設立され、各地域内における経済開発促進義務を負うが、その目的の一つに「持続可能な開発への貢献」が挙げられている。RDAは特定の省に属さない公共団体である。
  
 
◆地域会議:Regional Chamber
 大ロンドン市議会が設立され警察・運輸など広い範囲に大幅な自治権が認められている大ロンドン地域を除き、他の8つのイングランド内地域には地域会議が存在し、地方当局、商工会議所、その他の関係者から成るメンバーで構成されている。地域会議は、RDAの活動に対し地元の利権を代表する役割を担っている。
  
 
1−2−3. 政策実施組織
 UKでは、各省の下に政策実施のための官僚機関として「エージェンシー(Agency)」と呼ばれる組織が編成されている。各エージェンシーは運営に関してある程度の独立性を有するが、基本政策、予算などはそのエージェンシーが属する省によって管轄されている。各省に帰属するエージェンシーの数と規模は省によって異なり、再編も比較的柔軟に行われている様である。また、経済的独立性の高いエージェンシーの中には、支出に関する独自決定権を拡大された「トレーディングファンド(Trading Fund)」に変更される組織もある。
 
 政策実施機関として、エージェンシーの他に特定の省に属さない「公共団体(Non-Departmental Public Body。NDPBと略称)」が存在する。NDPBは単一もしくは複数の省からの財政的なスポンサーシップを受けているが、特定の省の利害に偏らず中立的立場で運営される。
 
 地方分権化政策の結果、中央政府エージェンシーに対応する「各地方政府下エージェンシー」が設立されているケースもある。







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