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1−3. 国際社会との関連から見たUK政策と国内法
 「UKの海洋環境政策とそれを反映した国内法」は、「全世界レベル」、「地域国際レベル」での海洋環境問題に関する取り組みを反映し、制定・改正が行われている。
 
 「海洋環境問題に対する取り組み」の分類法として、本報告書1−1節で概説した様に、特定の地理的範囲において捉える見方がある。
 
1−3−1. 全世界レベル
 範囲が最も広い「全世界レベルでの海洋環境問題に対する取り組み」とは、具体的には「国際条約や協定として存在する基本条約群とそれらの実施」のための活動である。海洋環境問題に関わる全世界レベルの条約には大きく分けて、「海洋に関する国際法」の流れを汲むものと、「環境及び生物多様牲保護に関する一連の条約」の流れを汲むものがある。
 
 この両者は問題に対する「アプローチ方法」が異なり、前者は「海洋」に主眼を置き、その中の一項目として「環境」を捉えるのに対し、後者は「環境・生物多様性」に主眼を置き、その中の地理的特定区域として「海洋」を捉える見方である。「アプローチ方法」は異なっても、その取り組み対象となる「海洋環境・海洋生物多様性保護」はえる見方である。「アプローチ方法」は異なっても、その取り組み対象となる「海洋環境・海洋生物多様性保護」は共通した課題であり、各条約間においてもその内容は相互に関連したものとなっている。
 
 「海洋に関する国際法」の流れを汲むものとしては、1982年採択、1994年発効の「国連海洋法条約(United Nations Convention on the Law of the Seas。UNCLOSと略記)」が挙げられる。UNCLOSは、「航海」、「海事境界」、「漁業」、「海洋環境」、「海洋科学調査研究」など広範囲をカバーする、海洋に関する包括的な基本国際条約である。2002年現在、UKを含む138ヶ国がメンバーとなっている。UNCLOSの海洋汚染に対する総合的アプローチでは、海洋汚染の定義として環境問題に関する国際社会の取り組みの嚆矢とも言える、1972年の「ストックホルム国連人間環境会議(UN Conference on the Human Environment)」で採択された人間環境宣言第7原則が引き継がれている。
 
 また、国連の専門機関である「国際海事機関(International Maritime Organization。IMOと略記)」による「海洋汚染防止条約」など、海洋汚染防止のための一連の条約がある。
 
一方、環境に関する国連会議としては、1972年の「ストックホルム国連人間環境会議(UN Conference on the Human Environment)」、1992年の「リオデジャネイロ国連環境開発会議(UN Conference on Environment and Development)」、2002年の「ヨハネスブルグ地球サミット(World Summit on Sustainable Development)」がある。特に、通称「地球サミット」と呼ばれる1992年の「リオデジャネイロ国連環境開発会議」においては、環境と開発に関するリオ宣言を実施するための行動計画である、「アジェンダ21(Agenda21)」が採択されている。
 
 「アジェンダ21」の第17章「Protection of the oceans, all kinds of seas, including enclosed and semi−enclosed seas, and coastal areas and the protection, rational use and development of their living resources」は、MSRで示された「UK政府の海洋管理理念・戦略・原則の原型」となっている。
 
 また、「リオ地球サミット」では、UK海洋環境政策の柱となっている原則の一つである「生物多様性の保護」のベースとも言える、「生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)。CBDと略記」も採択されている。CBDは1993年に発効し、「生物多様性保護・生物多様性構成要素の持続可能な利用の促進・遺伝子資源活用から得られる利益の公平配分の奨励」を自的としている。
 
 生物多様性に関係するその他の主な国際条約としては、以下が挙げられる。
 
●「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(Convention on International Trade in Endangered Species of Wild Fauna and Flora。CITESと略記。通称、ワシントン条約)」
 
●「移動性野性動物種の保全に関する条約(Convention on the Conservation of Migratory Species of Wild Animals。CMSと略記。通称、ボン条約)」
 
●「特に水鳥の生息地として国際的に重要な湿地に関する条約(Convention on Wetlands of International Importance especially as Waterfowl Habitat。イランのRamseurで採択されたことから、Ramseurと略記。通称、ラムサール条約)」
 
●「世界の文化遺産及び自然遺産保護条約(Convention Concerning the Protection of the World Cultural and Natural Heritage。WHCと略記。通称、世界遺産条約)」
 
1−3−2. 地域国際レベル
 欧州及びUKが直接関わる特定海域に関する「多国間条約」、「協定」、「会議」など、「地域国際レベル」での海洋問題に対する取り組みが行われている。
 
 欧州では、「比較的狭い地域内に多数の国が存在しており、大気、河川及びそれに繋がる地域・海域の環境問題が一国内問題にとどまらず、周辺国への影響が比較的短期に具現しやすいという地理的特色」がある。そのため、「地域国際レベル」での海洋環境問題に対する取り組みも早くから為されてきた歴史がある。
 
(1)OSPAR条約
 
 海洋汚染問題では、「北東大西洋海洋環境保護条約(Convention for the Protection of the Marine Environment of the North−East Atlantic)。通称、OSPAR条約」が主要条約の一つである。OSPAR条約は、「船舶と航空機からの投棄による海洋汚染防止条約(Convention for the Prevention of Marine Pollution by Dumping from Ship and Aircraft)。通称、オスロ条約」と、「陸地汚染源による海洋汚染防止条約(Convention for the Prevention of Marine Pollution from Land−based Sources)。通称、パリ条約」の後継として作成され、1998年に発効した。2002年12月現在の加盟国は以下のとおり。
 
(国名はアルファベット順)
ベルギー、デンマーク、EU、フィンランド、フランス、ドイツ、アイスランド、アイルランド、ルクセンブルグ、オランダ、ノルウェー、ポルトガル、スペイン、スイス、UK
  
 
 1992年の採択時から含まれている付属書(Annex)は以下の4項である。
 
●Annex I「陸地汚染源からの汚染の防止と根絶」
●Annex II「投棄と焼却による汚染の防止と根絶」
●Annex III「オフショア起源の汚染の防止と根絶」
●Annex IV「海洋環境の品質アセスメント」
 
 その後、1998年にポルトガルのSinatraで開催されたOSPAR委員会閣僚会議において、Annex Vとして、「海事領域における生態系と生物多様性の保護と保全」項目が追加採択された。また、同じく1998年OSPAR委員会閣僚会議では、以下の4項目に関する戦略が採択されている。
 
●「生態系と生物多様性の保護と保全」
●「有害物質」
●「放射性物質」
●「富栄養化」
 
さらに1999年には「オフショア活動の環境目標と管理メカニズム」に関する戦略が策定されている。
 
(2)北海会議
 
 「北海の保護に関する国際会議(International Conference on the Protection of the North Sea)、通称、北海会議」は、北海の環境保護に関する地域的国際会議で、各国の閣僚(Minister)レベルの代表者が出席する。1984年に最初の会合が開かれており、2002年3月には第5回会議がスウェーデンで開催された。第5回会議に代表者が出席した国は以下のとおり。
 
(国名はアルファベット順)
ベルギー、デンマーク、EC、フランス、ドイツ、オランダ、ノルウェー、スコットランド、スウェーデン、スイス、UK
  
 
 北海は、比較的浅く閉域性の高い大陸棚の上に位置する。狭い海域ではあるが、北海沿岸国にとって重要な漁場であり、年間水揚げ高は約2百50万トンにのぼる。また、欧州の人口密集地帯と隣接しているため、河川を通じての市街地・工業地帯からの廃棄物流入による汚染が問題となっている。1960年代後半からは、北海オフショア油田開発が進んだ。北海はまた、主要な船舶航路も含む。
 
 これらの汚染源から北海の海洋環境を保護することの必要性に関する認識が1980年代始めから高まってきた。全世界レベルの国際条約及びそれに関係する国際機関を通じての海洋環境保護活動は、さらに広範な海域を対象としており、北海に焦点を絞った取り組みに十分対応しきれなかったということも北海地域国際レベルでの取り組みが開始されたことの背景にある。
 
 「北海会議」で議論される主要項目は以下のとおりである。
 
●「生物種と生息地の保護」
●「漁業」
●「有害物質」
●「富栄養化」
●「船舶からの汚染」
●「オフショア設備からの汚染」
●「放射性物質」
●「海洋への廃棄物投棄」
●「産業廃棄物の海洋での焼却」
 
 「北海会議」は政治的イベントである。「閣僚宣言(Ministerial Declaration)」として記録される参加閣僚による決議は「政治的コミットメントであり法的拘束力を持たない」が、各国国内または国際機関における法的拘束力を持つ政策策定に対する影響力を持っている。
 
(3)欧州連合(European Union)
 
 UKを含む欧州においては「欧州連合(European Union)。EUと略記」の下、環境政策を一本化し、欧州の長期的繁栄を持続的可能な開発を通して実現していく方針が打ち出されている。そのためには、全ての政策策定プロセスにおいて環境目標が考慮されるべきであるとされている。この方針は「アムステルダム条約」において明確にされている。
 
 EUの環境政策目標は、「行動計画(Action Plan)」の形で1970年代から発表されている。直近の行動計画は、2001年から2010年までの行動計画である「EU第6次環境行動計画(6th EU Environment Action Programme)」である。「EU第6次環境行動計画」では、下記の4項目が優先的に取り組むべき分野として挙げられている。
 
●「気候変動への対処」
●「自然と野生生物保護」
●「環境と健康問題への取り組み」
●「自然資源の保護と廃棄物管理」
 
 「環境行動計画」はEU域内の統一環境政策の「ガイドライン」であり、行動計画に基づき、広範な環境問題に関する各種の「欧州法(European Legislation)」が策定されることになる。「欧州法」にも複数の異なった種類があるが、環境に関する法律は主に「指令(Directive)」の形で作成されている。「指令」は、達成すべき結果については法的拘束力を持つが、結果達成の方法については「メンバー国の裁量」に任されている。







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