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1−2 京都議定書と米国の対応策
(温室効果ガス排出抑制の必要性)
 世界の人口は60億人を超え1994年1人平均8トン、全体で440億トンの鉱物資源を消費している。1世紀前には人口は1/4、1人平均2トンつまり1/16の消費量であった。経済成長はほぼ原材料とエネルギーの使用量に比例すると言われているが、日本、米国、ヨーロッパ諸国等OECD加盟国の人口1人当たりのGDPは低所得の開発途上国のそれの10倍であり、また原材料やエネルギーの使用量も10倍である。しかし人口の多い発展途上国の1人当たりのGDPは急速に増加しており、OECD諸国と肩を並べるのもそう遠い将来ではない。
 発展途上国の産業開発とそれに伴うエネルギー消費の増大は、それらの国々の地域問題の域を超えて全地球の気候変動に影響を与えるまでになっているが、その原因は大部分化石燃料の消費の増大である。炭素の排出について言えば、OECD諸国全体の排出量は1980年に4ギガ・トンで頭打ちとなり、その後は年1%或いはそれ以下の増加に留まっている。一方、開発途上国は年率4%或いはそれ以上の増加を示しており、この状況が継続した場合、開発途上国全体の炭素排出量は、2010年にはOECD諸国のそれを上回るようになる。(第1−2図)。これを避けるためには技術革新により化石燃料の使用効率を高め、炭素を排出しないエネルギーへの移行を早める必要がある。
 
(気候変動に関する国際連合枠組み条約)
 地球温暖化の影響は、1988年に設置された気候変動に関する政府間パネルIPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)で検討され、数々の報告書が出されている。IPCCの報告書は、過去100年間に地球表面の平均気温は0.3−0.6℃上昇し、海水面は10−25cm上昇しているが、この全てを自然変動だけでは説明できないとし、この変化の多くの部分が地球の平均気温の上昇と関連があると述べている。また、IPCC報告書は、中程度に見積っても2100年には1990年に比較して平均気温は2℃上昇し、海水面は約50cm上昇するとしている(2100年のCO2排出量を1990年の3倍弱、大気中濃度を2倍と仮定)。地球温暖化が将来に及ぼす悪影響が懸念されたことから、1992年にリオデジャネイロで行なわれた地球サミットにおいて、先進国のCO2その他の温室効果ガス排出量を、2000年までに1990年のレベルに引き下げることを定めた「気候変動に関する国際連合枠組み条約」UNFCCC(United Nations Framework Convention on Climate Change)が採択された。しかし、UNFCCCは強制力を持たないため、その後UNFCCCの締約国会議COP(Conference of the Parties)が招集され、徐々に強制法規化することが決定された。
(注)温室効果ガスのうち、CFCについては1987年のモントリオール議定書及び1990年の改正を受けて、1995年末を以ってその生産が禁止されている。CFCは温室効果ガスであると共に、成層圏オゾンを破壊して地表に達する紫外線量を増し、人類を含む地上生物の生存を危うくする危険物質であることがその理由である。)
 
 UNFCCCの発効は1994年3月であるが、これにより締約国は以下の実施が義務づけられた。
■温室効果ガスの排出量、吸収量の目録の作成
■温暖化対策の国別計画の策定、実施
■先進国に対しては、CO2等の温室効果ガスの排出量を2000年までに1990年の水準に戻すことの有用性を認識して、政策、措置を講ずること。さらに、その詳細及び将来の排出量、吸収量の予測をCOPに通報すること。
 更にCOP1(ベルリン1995年4月)において、1997年12月京都で行われるCOP3迄の2年半の間に各国が協議し、先進国の対策の強化を盛り込んだ強制法規を作ることが決定された。
 
 COP3で京都議定書に盛り込まれた主要点は下記5点である。
■先進国(UNFCCC付属書1)は2008年から2012年までの5年間に1990年の温室効果ガス排出レベルより5.2%減少させることを目標とする。
■温室効果ガスは二酸化炭素(CO2)、メタン(CH4)、亜酸化窒素(N2O)、HFCS、PFCS、SF6の6種とする。
■1990年以降の森林の増減による温室効果ガスの吸収量を加味する。
■先進国(UNFCCC付属書1)は先進国間の排出量取引が可能。
■第12条に定められたクリーン開発メカニズムCDM(Clean Development Mechanism)により、先進国が非先進国(付属書1以外のUNFCCC参加国)の持続可能な開発とUNFCCCの目標達成を支援した場合、その先進国は「承認された削減量」を自国の数量目標達成のために使用できる。
 
 京都議定書の発効要件は、議定書を批准した先進国の排出量が1990年をベースとしたCO2の合計排出量の55%以上を占め、且つ55ヶ国以上の国が批准後90日後に発効することになっている。2002年9月4日現在の批准国数は87ヶ国であり、55ヶ国を超えている。また、ヨハネスブルクで行われた世界環境サミットでロシアが2003年前半中の批准を表明、また、カナダが2002年12月に受諾したことから、55%要件も満たされ発効が確実視されている。
 
(京都議定書に対する米国の対応)
 米国は京都議定書に署名はしたが、クリントン政権は発展途上国の意味ある参加がなければ上院に付議しないことにした。議会筋でも多くの議員が京都議定書に反対している。理由としては、本議定書を適用するとこの条約の適用を受けない発展途上国(中国等)に比較して米国の経済成長が阻害されること、また、地球温暖化と温室効果ガスの排出量の因果関係が不明確である点が指摘されている。
 エネルギー省DOE(Department of Energy)の統計では、1997年米国全体で1,480(百万)トンの炭素が大気中に排出されたが、その内訳は、交通部門32%、産業部門33%、住宅部門19%、商業部門16%であり、CO2以外の5種の温室効果ガスの総量は300百万トン(炭素相当量)以下と考えられている。何れにせよ、京都議定書に定められた6種のガスの排出量の26%は交通部門によるものである。もし米国が京都議定書を批准すると、米国の削減目標は全ガスに対して7%減と定められているので、2008年から2012年の間にこの削減量を達成しなければならないことになる。実際の削減目標は、下記3つの要因が存在するので困難な作業となる。(更に、DOEの予測によれば、米国では交通部門からの温室効果ガスの排出量が今後とも大幅に増加するものと見られている。)
 
■京都議定書は、森林の吸収量に関係無く削減量を設定している。吸収量を加味して削減量を決定すべきである。米国では農地がどんどん森林化されており、温室効果ガスの排出量は多くなってもネットの必要削減量は減る関係にある。
■京都議定書は他国の削減クレジットを買うことを認めているが、買えるクレジットの総量を示していない。極端な場合、買ったクレジットだけで削減量を達成し削減努力をしない国が出てくる。
■京都議定書は6種のガスの総合的削減量を定めている。CO2が最も大切であり、他のガスの中にはコントロールが難しいものがある。CO2の削減目標が、他ガスの削減可能量により常時定まらない結果となる。
 
 DOEは、上記の如き不確定要素をなくすための現実的な削減量として、例えば1990年の炭素排出量1,346百万トンと1997年の炭素排出量1,480百万トンの差134百万トンを削減量とすべきであるとしている。
 
(米国による温室効果ガス排出量削減の取組)
 1997年12月京都議定書調印後、クリントン政権は研究開発を含む気候変動技術イニシアティブ(Climate Change Technology Initiative)(付録3)として、5年間に$6.3十億の税制優遇を提案し、ブッシュ政権もこれを踏襲している。クリントンのイニシアティブには以下のものが含まれている。これ等はDOEによって具体的実行案が詳細に定められ、第1−2表に示すように5つの戦略ゴールとして示された。第1−2表には現れていないが、船舶部門についてもDOTがエネルギー効率の向上と排ガスの浄化をテーマとしたイニシアティブを発足すべきことが記述されている。
■エネルギー効率の良い新製品及び再生可能エネルギー(Renewable Energy)に対する$3.6十億の税制優遇(効率の良い自動車1台当たり$3,000−4,000、屋上太陽熱装置15%(上限$2,000)、エネルギー効率の良い住宅$2,000、コジェネレーション10%、その他風力発電バイオ燃料税制優遇措置の延長)。
■研究開発に対する$2.7十億の追加研究費(クリントン政権発足時からの新世代自動車開発プロジェクトへの追加、再生可能エネルギー風力、太陽電池、地熱等)。
 
 米国環境庁EPA(Environmental Protection Agency)は、京都議定書を批准した場合の経済効果に関する報告書を出している。この報告書では、何の手も打たれなかった場合、米国の炭素排出量は2010年には1,791百万トンになり、その内617百万トンは交通部門より排出されると述べている。また、EPAの研究では、炭素排出総量が何等かの手段で規制されたとしても、交通部門からの排出比率は大幅な上昇傾向となるので、何等かの対策が必要であると述べている。
 このような状況に鑑み、DOTでは京都議定書に関係なく種々の対策プロジェクトを進めている。交通部門ではCO2の排出の減少は「石油の節約」と同義語と考えてよい。交通部門で最大のCO2を排出するのは自動車部門であるが、船舶の場合もクリーンで効率の良いエンジンの使用、非化石燃料の使用(バイオディーゼル、燃料電池等)、大量輸送機関の使用(フェリー)等が海事局MARAD(Maritime Administration)のイニシアティブの中に取込まれている。
 
第1−2表 DOEのエネルギ効率向上及び排ガスの浄化具体策一覧表(出典:参考資料4
 
ゴール1 エネルギーシステムの効率改善−環境を保護し、国家の安全保障を改善しつつ、全体の経済実績を高めるためにエネルギー資源をより生産的に使用する。
目標1 競争力ある効率の良い電力システムへの援助。電力業界再編成法の制定。石炭/ガス発電プラントの開発。原子力発電所の改良。
目標2 2010年までに交通、産業、建築部門でエネルギー効率を格段に改善する、より効率の良い交通、産業、建築部門の技術開発。
目標3 連邦政府内のエネルギー使用効率の向上。
ゴール2 エネルギー崩壊に対する保証−供給の中断或いはインフラストラクチャーの破壊というような外部からの脅威に対する経済の防衛。 
目標1 供給中断の可能性ある外国からの石油依存度減少。国内石油生産の安定。戦略石油備蓄の即応性維持。石油輸入国の変更。石油消費の減少。
目標2 エネルギーシステムの信頼性、フレキシビリティ、非常時即応能力の保証。
ゴール3 エネルギー生産の増大と健康と環境に優しい使用の促進−健康と環境(ローカル、地域及び地球規模)の質の改善。 
目標1 環境に責任ある方法で国内のエネルギー生産を増大する。国内ガス生産の増大。環境に影響が少ない方法での石油生産。再生可能エネルギー技術の開発。存立可能な原子力エネルギーの維持。
目標2 環境に優しい技術の開発とマーケット参入の加速化。期近技術の増加。自発的努力の拡大。国内温室効果ガス・トレーディング・プログラムの作成。開発途上国との共同作業。国際的なトレーディング/クレジット・システムの作成。
ゴール4 将来のエネルギー選択の拡大−将来世代にクリーンで手頃な価格のエネルギー資源のポートフォリオを示すために科学・技術を継続的に発展させる。 
目標1 エネルギー事項の決定、新しいエネルギーシステム、将来可能な技術等のための国家知識ベースの設立と維持。炭素と天候、エネルギー科学支援を含む基礎研究実施。
目標2 長期エネルギー資源に関する技術開発。核融合、水素システム、メタン・ハイドレート等大きな影響を及ぼす事項の長期技術の開発。
ゴール5 地球温暖化問題に関する国際協力−地球規模の経済、安全保障、環境問題の解決手段の開発。 
目標1 オープンで競合的な国際マーケットの発展促進。クリーンで安全且つ効率的なエネルギーシステムの採用促進。外国に好ましい規則・政策フレームワーク作りを促すための援助及びクリーンで効率的なエネルギーシステムと科学・技術協力の促進。
目標2 米国の安全保障に関係ある地域ではエネルギー関係の環境リスクを減らしその地域の安定を促進する。優先順位を定めてコスト効果の高い解決法を開発する。
 
第1-2図 OECD諸国と開発途上国の炭素排出量の年次比較
出典:参考資料5
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