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1. 米国の政策動向
1−1 ブッシュ政権のエネルギー政策
(エネルギー効率向上の必要性の増加)
 1973年及び79年の石油危機に伴い石油価格が高騰したことは、化石燃料に依存した産業発展政策と過度に助成されたエネルギー価格に対する最初の警鐘であった。勿論外国エネルギーへの依存度が異なることから、国によってその対応は様々であったが、ブラジルがこれを契機に大規模なバイオ燃料の開発に乗り出したことは良く知られている。米国では、「規制された燃料経済」の時代に入ったことが認識され代替燃料の開発に若干の関心が示されたが、エネルギー効率の向上や排ガスの浄化による持続的な発展を目指す努力は乏しかったといえる。これは、米国の国内産エネルギー源がまだ豊富であったこと、さらに米国ではエネルギーの価格設定は多分に政治的要素が強く、エネルギー価格が上昇することは反対党からの批判に曝され易かったため、低エネルギー価格を背景にエネルギー効率の向上に係るインセンティブが働かなかったことによる。
 
 このような動きが徐々に崩れてきたのは1990年代に入ってからである。1998年1月、カリフォルニア州では住宅及び企業に対する電力自由化が許可され、よりクリーンな発電法に対する選択権とエネルギー価格低下への途を開いた。1999年11月、現ブッシュ大統領が知事であったテキサス州では電力産業再編成法が発効し、テキサス州の電力消費者は自分達で発電することによって環境親和性の高い電力を安価に手に入れることが可能となった。勿論ブッシュ大統領と大統領のポストを争った民主党のゴア候補も燃料電池の開発には熱心であり、環境問題についても京都議定書の調印等で活躍しており、近年エネルギーと環境が重要な政策課題となっていたことが理解される。参考資料1によれば、ブッシュ大統領がテキサス州知事に成立させた電力再編成法(主要な骨子は下記5原則からなる)は具体的であるとして、高い評価が与えられている。また、この5原則の精神がブッシュ政権のエネルギー政策に受け継がれており、米国がやっと本報告書の主題であるエネルギー効率と排ガスの浄化の時代に入ったことを示している。
■再生可能エネルギー・プロジェクトの構築を奨励する。
■石油・石炭等の化石燃料発電による大気汚染を減少させる。
■クリーン・エネルギーに対し高い対価を支払うべきとするテキサス州民の要望に応える。
■テキサス州内での再生可能エネルギーの供給量を増加する。
■テキサス州民のコスト負担が少なくなるようにこれらの目的を達成する。
 
(国家エネルギー政策プラン)
 ブッシュ大統領は、2001年1月の政権発足と同時にチェイニー副大統領を長とする国家エネルギー検討グループを作り、今後の米国のエネルギー政策を検討させた。同年5月、検討グループは包括的且つ現実的な国家エネルギー政策プランNEPP(National Energy Policy Plan)を纏めブッシュ大統領に報告した(付録1)。これに伴い2001年にはエネルギー関係の3つの法案が議会に提出されている。
■HR.4-2001年米国エネルギー将来保障法(Securing America's Energy Future Act of 2001)
■S.388-2001年国家エネルギー保障法(National Energy Security Act of 2001)
■S.597-2001年包括・均衡エネルギー政策法(Comprehensive and Balanced Energy Policy Act of 2001)
 
 NEPPはブッシュ政権のエネルギー政策の基本となるものであり、大統領の承認後議会に提出され下院の承認を得たが上院でストップしたままである。HR.4とS.388は与党・共和党の提出した法案であり、内容的にはNEPPとほぼ同じであり、エネルギー政策の最大の争点である北極国立野生生物保護区ANWR(Arctic National Wild Refuge)における石油及び天然ガスの採掘を許可する内容となっている。HR.4は2001年8月1日下院を通過し、新聞はブッシュ大統領の勝利と報じた。S.388はS.389と共に上院エネルギー及び自然資源委員長(当時)であったFrank MurkowskiがNEPP以前に米国のエネルギー自立を目指して導入した法案でありもしこれ等の法案が成立していればブッシュ政権のエネルギー政策の大部分は達成されることが期待されていた。ちなみにS.388/389は成立しなかったが、これらの法案の中には下記の如く米国造船業を益する事項が多く含まれていた。
■ANWRの開発に伴うジョーンズ・アクト・タンカーの需要増大。
■米国造船所建造の10,000GTを超える掘削船及びリグの7年償却と10%の税クレジット。
■乗客や貨物を輸送しないという理由で現在資本建造基金CCF(Capital Construction Fund)の対象から外されている掘削船をCCFの対象船に加える。(CCFは税引き前の資金で新船を建造できる制度であり本措置がエネルギー開発に与える影響は大きい。)
■深海鉱区の開発促進によりシャトル・タンカーやFPSOの建造を助長する。
 
 2001年9月11日のテロの影響で、米国のエネルギー法案の審議は大幅に遅れた。その理由は、米国が一致団結しなければいけない時期に団結よりは不和を生む可能性の高いエネルギー法案の審議を避けたい、特に不和を生む最大の争点であるANWRでの石油開発を、テロ問題のどさくさに紛れて許可したくないという思惑が最大の理由であったようである。S.388が廃案となり、代わってS.597が提出されたのはテロ後であり、上院を通過したのは2002年4月25日であった。S.597はANWRでの石油や天然ガスの採掘は禁止しているが、資源保護と生産のために数十億ドルの税制優遇を含んでいる(第1−1表)。この民主党主導のS.597に対し、共和党は最終的に大統領が署名する段階でANWRでの採掘が認められるようにする旨表明しているが環境団体の反対で困難も予想される。
 上記の如く法制面の整備は遅々として進まないが、ブッシュ政権はエネルギー効率の向上と排ガスの浄化その他エネルギー政策の基本に関する事項を大統領令等により着実に実施している。その基本的考え方は下記3点に絞られる。
■米国はエネルギーに関しより自己調達的でなければならない。
■米国内のエネルギー資源の開発を進めなければならない。
■エネルギー資源の無駄使いを避け、エネルギー効率を増加させ、エネルギー・インフラストラクチャーの近代化を急がねばならない。
 
(再生可能エネルギー及び深海等のエネルギー開発の促進)
 2002年2月、ホワイト・ハウスはクリアー・スカイ・イニシアティブの発足を公表した。ブッシュ政権によれば、このイニシアティブは、発電所からの有害廃気物を減らすために米国史上最も能動的に取り組むイニシアティブであり、これによる地球温暖化防止の効果は大きいという。更に2003年度予算教書の中で再生可能エネルギーが脚光をあびている。即ち化石燃料への依存度を減らすイニシアティブの一部として、再生可能エネルギーに対する税クレジットと研究開発助成金に対する大幅な予算措置が講じられている。今までも石油価格が高騰する度に話題となってきたANWRでの石油開発とメキシコ湾岸深海鉱区のリースであるが、ANWRの問題は前述の如く一朝一夕には解決が困難であるが、メキシコ湾岸深海鉱区のリースに関しNEPPは以下の如く述べている。
資格石油・ガス鉱区の連邦リース契約の障害を調査し、採掘機会が存在する場所を再検討する。
■現在実施中の連邦の石油・ガス探査及び開発方針に対する障害に関し、エネルギー方針及び保存法(Energy Policy and Conservation Act)で定められた研究を早める。
■民間特にその土地の人々と充分に話し合い、公共所有地の取り消し或いは必要ならばリース契約の改良を検討する。
 
 これに対しブッシュ政権は内務長官に対し下記を指示している。
■環境上問題がない沖合のオイル・ガスの開発にインセンティブを与える。
■石油・ガスの開発に際して充分なリターンが見込めない下記の場合にはロイヤリティの減額に関する検討を行う。1)フロンティア地区或いは大水深鉱区において開発リスクを減らす必要がある、2)ロイヤリティの減額が無ければ開発が経済的でない鉱区の開発を促進する。
 
 2001年3月、ブッシュ政権は新オフショア採掘インセンティブを発表し、地盤中のサブ・ソルト・フォーメーション(第1−1図)から石油・ガスを生産する場合のインセンティブを明らかにし、同時に800m以上の水深の鉱区に対するロイヤリティを減額することを発表した。2001年3月に入札されたメキシコ湾岸のOCS鉱区178は天然ガスを深海から生産する最初のハイ・コスト/ハイ・リスク・プロジェクトである。178鉱区の場合は、連邦政府にロイヤリティを支払う前に、ロイヤリティの支払い無しで生産できる量が定められている。その量は水深800−1,599mで$9百万BOE(石油換算バレル)、水深1,600m以上で$12百万BOEとなっている。
 
第1−1表 上院エネルギー法案(2002年4月25日可決)
出典:Star Ledger4/26/02
・ANWR採掘 条項無し。
・税パッケージ $14十億(10年間) 化石燃料助成、保存、再生可能エネルギーに均等配分
・自動車燃料経済 燃料経済の研究を要求。
・エタノールの使用 次の10年間でガソリン添加剤としてのエタノールの使用を現在の3倍の5十億ガロンとする。
・MTBEガソリン添加剤 4年以内にMTBEの使用禁止。
・電力 新消費者保護法案と規制者に対する権限付与。
・再生可能エネルギー 2019年までに風力、太陽発電等の再生可能エネルギーが10%となるよう電力会社に要求。
・天然ガス・パイプ・ライン アラスカのノースポールからの天然ガス・パイプライン導設に対するインセンティブ
 
第1−1図 サブ・ソールト・フォーメーション
 出典:Marine Log
 







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