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3. 第75回海上安全委員会(2002年5月)
 
 2002年2月に開催されたIMO海上テロ対策中間作業部会における審議結果を踏まえて、2002年5月15〜23日の第75回海上安全委員会(MSC)において、海上テロ対策を規定した条約改正案を作成すべく、審議が行われた。MSCにおいては、多くの議題の中で、海上テロ対策は最重要案件とされ、会期中の週末、深夜を徹しての検討作業により海上テロ対策を強制化するSOLAS条約改正案及び関連文書がドラフトされた。
 意見が分かれたまま両論併記とされている部分も散見されるが、2002年末の条約採択会議で採択される海上テロ対策の骨格は固まったものと見てよいと考えられる。
 なお、時間的制約により十分な審議がつくせなかった「入港国による監督」については、条約不適合の嫌疑のみで入港拒否等の強い措置がとられ得る点について懸念を表明する国も多く、条約上残されている唯一の大きな検討課題となっている。また、海上テロ対策の具体的な実施のガイドラインについても、審議に入れず、今後の作業として残された。
 このため、2002年9月9〜13日に中間作業部会を開催することとなり、残された作業の実施及び12月の外交会議における条約改正案採択のための意見調整が行われる見通しである。
 以下に、MSCにおける審議結果を示す。また、MSCの審議結果報告を巻末に資料5として添付した。
 
3.1 海上テロ対策に関する規定の枠組み
 
 以下の枠組みで海上テロ対策を規定することが合意され、今次会合においては、このうち、SOLAS条約改正案及びISPSコードPart A案並びに関連の勧告案が作成された。
 
・現行のSOLAS条約を改正し、海上テロ対策の諸基本規定を置く。
−SOLAS条約第V章の改正(船舶自動識別装置設置前倒し)
−SOLAS条約第 章の改正
第−1章「海上における安全の強化のための特別措置」への新規則の追加(船舶識別番号の表示、船舶履歴情報、船舶運航関係者情報)
第−2章「海上における保安の強化のための特別措置」への新規則の追加(船舶・港湾施設の保安措置)
・決議として「国際船舶・港湾施設保安(ISPS)コード」(International Ship and Port Facility Security Code)を策定し、Part Aとして条約で規定する諸対策の基本要件(強制)を、Part Bとしてその具体的な実施に関するガイドライン(非強制)を規定する。
・関連事項について勧告を行う決議を作成する。
 
3.2 SOLAS条約改正により強制化される海上テロ対策
 
 SOLAS条約の改正により、各国に義務付けられる海上テロ対策は、以下のとおり。2000年9月の海上テロ対策中間作業部会並びに2002年12月の第76回MSCでの検討を経て、第76回MSCと併催される条約採択外交会議で採択の予定となっている。
 
(1)SOLAS条約第V章及び第 −1章により義務付けられる海上テロ対策
 
船舶自動識別装置(AIS)の搭載前倒し
 搭載期限が2005年7月1日〜2007年7月1日(船舶の大きさによって期限が異なる)とされているタンカー及び旅客船以外の船舶について、AISの搭載期限を前倒しする。(SOLAS条約第V章19規則2.4の改正)
 前倒し期日は以下の4案で意見が割れており、各提案を併記のまま残し、次回中間作業部会又は2002年12月の会合で最終決定となる見通し。
 
・300総トン以上5万総トン未満の船舶について、2004年7月1日後の最初の安全設備検査又は2004年12月31日のいずれかの早い期日まで
・300総トン以上5万総トン未満の船舶について、2004年7月1日まで
・300総トン以上1万総トン未満は、2004年12月31日以降の最初の安全設備検査まで、1万総トン以上5万総トン未満は、2004年7月1日以降の最初の安全設備検査又は2005年7月1日のいずれかの早い期日まで
・300総トン以上1万総トン未満の船舶について、2006年7月1日まで
 
船舶の履歴情報の保持
 船舶の実質的なコントロールを行っている者の透明性を高めることが、テロ対策やサブスタンダード船の排除に重要であることから以下の規則をSOLAS条約第 −1章に追加。
 
・主官庁が発行する船舶の船籍、所有者、検査機関の履歴を記載した記録簿(Continuous Synopsis Record:CSR)の備付けを義務付け。
・CRSを補完するため、船員の配乗、船舶の用途の決定及び用船契約の締結を行う者を示した情報の船舶への備え付けを義務付け。
 
船舶識別番号の表示
 船舶識別番号の船尾及び両舷並びに船内における恒久的表示を義務付け。(SOLAS条約第 −1章に新規則を追加)







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