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4.5 貨物輸送に対する保安措置の影響
 同時多発テロ発生直後に、ニューヨーク港は緊急対応船舶を除いて閉鎖され、2日以上にわたって船舶は出入港ができなかった。ルイジアナ・オフショア石油港、アラスカ横断パイプラインのバルデズ・ターミナルも閉鎖された。その他の港湾は厳重な警戒態勢で運営された。これらの閉鎖はすぐに解かれ、保安監視が強化されたことを除いては、ほとんど平常運営に戻っている。
 
顧客の流出
 しかしながら、一部の地域ではテロ発生の数ヶ月後も運行制限の影響が続いた。例えば、USCGによるロング・アイランド・サウンド夜間航行禁止令は他の場所で夜間航行が解禁された後も継続されたため、コネチカット州の港湾はフィラデルフィア、カムデン、その他の近隣の港湾に相当数のビジネスを奪われたと主張している。コネチカット州マリンパイロット協会によれば、他の全ての海域で夜間航行禁止が解かれたのにもかかわらず、ロング・アイランド・サウンドでは継続されたために、「コネチカット寄港は経済的に不適となり、これらの禁令のおかげで州海域でのタンカー航行は何千ドルも損失を出し、コネチカットに出入りするために貨物船も時間をロスした」のである。これらの禁令は解除されたが、他港に流れたビジネスの一部は、ブリッジポート港には戻ってこないだろう。
 
船舶保険
 テロ攻撃により、海運業界の保険料が値上がりしたと報じられている。保険アナリストのウィリス・グループ・ホールディングス社によれば、年間船体戦争リスク料率は9月11日以前には0.01−0.02%であったのが、テロ発生後には0.04−0.05%に上昇したという。さらに、貿易保証(trading warranty)から多くの目的地が外された。海洋部門に再保険を提供するTTクラブは、テロ攻撃後、Handling and Property保険の戦争リスク及びテロリスクの補償を中止することを通告した。1月末に補償範囲はもとに戻されたが、保険料は幾分値上げされた。これらのコストは海運業者が負担することになる。
 
輸送の柔軟性
 到着の事前通報要件が強化されたことで、問題が発生していることは確実であり、それは結果的にコスト増につながる。特に、危険物貨物積載船舶の運航者は、入港24時間前のUSCG通告要件により影響を受けている。世界最大のパーセル・ケミカル・タンカー(貨物タンクが細分化されているケミカル・タンカー)の運航者であるStolt Parcel Tankers社は相当数の米国港発着運航を行っている。この航路は、航海の途中で数多くの寄港を必要とし、ショート・ノーティスで少量の液体貨物をピックアップまたは配達することが頻繁にある。USCG宛の書簡で、Stolt Parcel Tankers社の担当者は、一回の航海で複数港に寄港する船舶に厳しい出入港許可及び検査手順を課すことの影響に対する配慮を求めた。
 
 外国港から到着する船舶に一旦入港許可が出されれば、その船舶はその後の内航航海中を通じて入港を許可されるべきである。例を挙げれば、「Stolt Innovation」号はニューヨークへの入港を認められ、荷役作業を終えてサバナ港に向けて出航する。その日遅くなって、我々のブローカーがフィラデルフィアで貨物を積み込む手配をしたとする。船がCape Henlopenに翌日到着して、入港許可の審査を受ける間6時間も8時間もそこでじっとしていなければならないという状態は避けたい。もっと直接的な例をあげれば、私がニューヨークからサバナに向かったとして、到着時には乗船検査も審査もなく港に入ることを許されて当然である。
 米国メキシコ湾岸で多数の港湾に寄港することは、ケミカル・タンカーではよくあることである。貨物があるかどうか、バースの混み具合、追加の貨物の積み込みにより、柔軟性とローテーションが必要となる。寄港ローテーションの変更は、瀬戸際になって起こることも有りえるし、実際にそういうことが多い。船舶があらかじめ、「健康証明書」を所有していれば、24時間前の通告なしに寄港ローテーションの変更を可能にしていただきたい。例えば「Stolt Innovation」号がテキサス・シティ入港中に、次の寄港地をヒューストンと通告していても、ぎりぎりになって変更し、必要ならばボーモントへ入港できる必要がある。
 これらの考慮を受けるためには、船主は一流であり、十分に審査を受けなければならないことは十分承知している。船舶が最初の寄港地に到着した際に不都合があってはならない。港湾で乗員の交替が行われる場合は、上記のプロセスの合理化の妨げにならないように、交替要員は船舶が次の港湾に向けて出航する前に審査をクリアしていなければならない。
 
コンテナ検査
 9月11日を境とした、コンテナ検査件数の変化については情報は公表されていない。年間600万個の載貨コンテナが米国に入り、税関は最近まで米国に到着する貨物の2%を物理的に検査していた。統計は全く公表されていないが、テロ攻撃の結果、要検査とされるコンテナの割合は増加したように思われる。その結果、検査コストは上昇し、コンテナ配達が遅れ、ターミナルの平均ドエル時間が上昇したはずである。
 
港湾及びターミナル保安の増強
 港湾産業を代表するAAPAは、メンバーが11月のテロ事件以来、保安強化に5,000万ドル以上を費やしたとしている。最終的にこれらのコストは、港湾使用料に上乗せされ、港湾ユーザーが負担することになる。
 
4.6 保安措置が旅客輸送会社に与える影響
 乗客と荷物のスクリーニング要件はクルーズ船にとって、余分のコストとなっており、要件の実施は、特にフェリーについて、難しい問題を引き起こしている。
 
クルーズ産業
 クルーズ産業はテロ事件により大きな被害を受け、二重の影響を被った。テロ事件により旅客が怯え、多数のキャンセルが出、旅客数が減る結果となった。カーニバル・ラインズ社は、2002年の第一四半期の売上げは2001年同期の10%減であったと報告している。同社はこの減収の原因は9月11日の同時多発テロの影響にあると考えている。海上テロの懸念のみならず、飛行機に乗ることが敬遠され、クルーズ旅行需要が減退し、占有率が下がり、平均クルーズ運賃が低下した。同じ時期に、レベルIIIの警戒態勢を維持することは重いコスト負担であった。クルーズ船社の保安予算が倍増したケースもあった。
 
フェリー運航者
 クロス・サウンド・フェリー・サービスはコネチカット州ニューロンドンとニューヨーク州ロングアイランド間を運航する民間の旅客/車両フェリーサービスである。同サービスは年間120万人の乗客と、40万台の車両を輸送する。テロ事件の直後、同社はCOTP(USCG港長)に、各種の保安措置の導入を検討するように要請された。これには、乗船前の全車両の検査、乗客にバックパック、クーラーボックス、ブリーフケース、バッグその他の荷物を開けさせ、乗船前に検査することが含まれていた。同社からUSCGに宛てた書簡で提示された問題は、このような保安措置を実施しようとした場合にフェリー運航者が直面する問題をよく説明している。
 
 乗船前に車両と乗客の手荷物検査を実施という提案は、広範な法律上、安全上の疑問を引き起こす。これには次の点が含まれる。
a)フェリー運航者が政府に代って検査を実施するというコンテクストにおいて、USCGの責任(responsibility/liability)は何か
b)クロス・サウンド社が政府に代って検査を実施する以上、COTPが検査の範囲と目的を決定するのか。
c)COTPは、検査の実施手法を明示するガイドラインを出すのか
d)クロス・サウンド社が検査を実施するとして、クロス・サウンド社が実施した検査についてUSCGが賠償責任を負うのか
e)USCGは、検査を拒否した乗客の乗船を拒否するという要件を課す予定があるのか
 これらの疑問とは別に、我々は、このような検査には正当性がないと考える。さらに、USCGの要請で検査を実施する我々の能力に関しても疑問がある。職員の安全と賠償責任に基づいて、検査を行わなければならないとすれば、それがいかなる種類のものであっても、このような検査は武器を携帯した法執行機関職員が行うべきであると確信している。







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