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4. 民間部門の対策
 
 海事部門の多くの企業が、テロ事件の結果、何らかの保安強化策を取るか、または港湾・海上保安強化について提案されている措置についての見解を表明している。本章では、民間部門が取った措置のいくつかと、提案されている規則が彼らの事業に及ぼす影響についての見解を記載する。
 
4.1 海運会社の保安対策
 海運会社の対テロ保安対策の事例としてCSX社が取った措置があげられる。米国のコンテナ海運会社であるCSX社は、内航で16隻を運行し、また支配下外航船は香港、台湾にも寄港している。11月20日にCSX社は、テロ事件の結果の警戒厳重化に対処するため、同社の作業手順書の緊急対応セクションを増補した。手順追加の目的は、船舶、マリン倉庫、陸上作業員(shore gang)に厳重警戒体制下におけるガイドラインを提供することであった。ほとんどの手順は、無許可の人物の船舶や倉庫へのアクセスの禁止、または未検査のパッケージの受け取りに関するものである。作業手順書の追加部分の抜粋を以下にあげる。
 
・港湾に停泊中は、船長、一等航海士又は一等機関士による許可を受けたもの以外の何者も船舶への出入りを許されない。荷役作業員の職長は、舷門に立ち、船舶に乗船する全ての荷役作業員を適切に確認しなければならない。荷役作業員の職長は、各作業員を少なくとも3ケ月間個人的に知っていなければならない。船上に持ち込まれる全てのバッグは検査を受け、常に2名を舷門警備に立たせなければならない。上級船員により、デッキ上の巡回を行い、一回の巡回につき少なくとも船舶を4周回らなければならない。陸上側の作業員を必要とするが、緊急ではない修理は延期する。船舶に積み込まれるすべての備品、補給品、その他の品物は、船上への積み込み前に岸壁上で開封、検査を受けなければならない。
 
・制限海域内、陸から50マイル内、または停泊中は、船長は見張りを増やし、近辺の船舶を厳重に監視、追跡するよう取り計らわねばならない。どうしても必要ではない船上の作業は最小限に留め、緊急監視、対応のための人員を確保しなければならない。
 
・倉庫に対するアクセスを制御し、倉庫監督港湾エンジニア又は資材管理マネージャーにより許可を受け、適切な身分証明を提示した人物以外の出入りを認めてはならない。CSXラインの従業員ではない倉庫訪問者はすべて、訪問中を通して職員の随行を受けなければならない。倉庫に配達されるパッケージやその他の荷物は、身元のはっきりした定期的な発送者からのパレット積載または収縮包装されたものを除いて、すべて受け取り前に開封検査しなければならない。
 
4.2 旅客輸送会社による保安対策
 国際クルーズ船社協会(International Council of Cruise Lines:ICCL)によれば、9月11日の同時多発テロの結果、全ての米国港湾でレベルIIIの旅客船警戒態勢を取るようUSCGから指示があった。ICCLは保安対策と、クルーズ船オペレーターがどのようにこの保安措置を実施しているかについて、以下のように説明している。
 
・レベルIII警戒態勢は、USCG旅客船保安規則で定められた最も高いレベルの警戒態勢である。米国クルーズ・ターミナルにおける旅客船保安措置には空港で実施されているのと同様の乗客スクリーニング手順が含まれている。これには、全乗客の荷物、手荷物、倉庫及び貨物の100%スクリーニング、さらにより厳格な旅客の身分証明確認手順が含まれている。乗船を許される前に、公式乗客名簿の慎重な検討と、全員について適切なIDの照合が行われる。9月11日の同時多発テロ発生以前でさえ、移民局と税関がスクリーニングを行う場合は、全乗客名簿を提供していた。現在、乗客身元照会はより厳しくなっており、業界は移民局やその他の連邦政府機関と密接に協力して、移民局の「出国禁止」リストに載っていると疑われる乗客については連邦政府当局に報告し、さらなる措置の指示を仰ぐことになっている。
 
・レベルIII警戒態勢は、クルーズ客船のオペレーターに許可を受けた職員にのみアクセスを制限し、侵入警報、警備員、その他の無許可侵入防止措置のような積極的なアクセス制御を必要とする船上の立入制限区域を特定することを義務づけている。船上の立入制限区域には、ブリッジ、機関室、その他の船内で操作が行われている場所が含まれる。この他にも船上保安を最大限に高め、無許可の侵入や非合法の活動を防ぐために、保安措置が講じられているが、外部に知られると効果が失われるという明白な理由から、一般には論じられない。すべてのクルーズ客船には、乗客及び乗員の安全を危険に晒す可能性のある疑わしい活動を監視し、これに対応する責任を負った警備要員が配備されている。この警備要員は十分な訓練を受けている。
 
 具体的な例としては、ロイヤル・カリビアン社がテロ事件以来、自社の保安プログラムを強化した。船上の保安手順を執行する責任を担う警備チームは、訓練を受けており保安担当官により監督されるが、この保安担当官により構成される船上保安隊は増員された。ターミナルにおける港湾保安は、ロイヤル・カリビアン社によれば、空港でのスクリーニング手順と同様のものを含んでいる。金属探知器およびX線探査機が乗船する乗客に使用され、乗船するすべての乗客、乗員、訪問者に写真付きの身分証明書が要求される。同社は、A-PASS写真付きIDシステムの導入を促進した結果、現在同社のクルーズ客船の70%はシステムを搭載済みである。ダイバーが定期的に船舶の船体を検査し、ブリッジ見学や機関室見学はほとんど廃止された。
 他のクルーズ会社も様々な保安措置を導入している。P&O社は持ち船の警戒態勢を強化し、現在、荷物と配達物の100%スクリーニングを実施している。ノルウェジアン・クルーズ・ライン社は船上に持ち込まれた全ての補給品及び備品に対し、爆弾探知犬を使って検査している。ホーランド・アメリカ・ライン社は、当直要員を増員し、乗員あての郵便物を100%スクリーニングしている。ラディソン・セブン・シーズ社は、1隻につき、警備員を2〜3人増員した。
 5隻の旅客/車両フェリーをニュージャージーとデラウェア間で運行しているデラウェア・リバー・アンド・ベイ・オーソリティは、数多くの保安措置を導入した。オペレーターは、テロ事件の発生の可能性を反映して船舶及びターミナルの対応計画を改訂した。炭疽菌テロの疑いに対応するプロトコルが作成された。フェリー・オペレーターはUSCGの地方局と協力して、多数の死傷者が出た場合の計画を作成しており、また地元警察、EPA、その他の機関と協力して、テロの可能性への対処をはかっている。
 
4.3 貨物検査機関による保安対策
 ナショナル・カーゴ・ビューロー(全米貨物協会)は、米国の主要港の全てに代表を駐在させている民間組織であり、危険物貨物の検査実施権限を与えられている。同局が発行した証書は自動的にUSCGに認証される。保安強化措置の一環として、同協会はニューヨーク港のUSCGポート・キャプテンと合同プログラムを導入し、NCBの検査官が、船主がNCBの顧客であるかどうかにかかわらず、危険物貨物を輸送する船舶を無作為に選んで乗船検査を行っている。乗船検査の際には、国内及び国際規則への適合性について危険物貨物目録を点検し、その結果をUSCGに通報している。NCBによれば、このプロセスは、さらに詳しい調査、あるいはペナルティを課すことが必要な船舶または海運会社について、USCGの注意を喚起することを目的としている。
 
4.4 輸入業者の保安対策
 ホーム・デポ社は米国内に1,278店舗を展開し、40カ国以上から商品を調達している大型小売業者である。同社は、サプライ・チェーンを通じて、輸送中のコンテナ封かんの保全性を確保するための手順を作成した。同社は、これが、他の輪出・輸入出業者がコンテナ保安を導入する際のモデルになり得ると考えている。ホーム・デポ社の国際ロジスティクス担当副社長は、その手順を次のように説明している。
 
 適切に管理されたサプライ・チェーンにおけるコンテナ・セキュリティは、工場から始まり、最終配達地まで続く。わが社のコンテナの99%は工場側により現場で荷積みされる。残りの1%の製品は、工場からわが社が契約している第三者ロジスティクス代理店に送られる。わが社のエージェントがパッケージを検査し、コンテナに積み込み、封かんする。
 これまでも、荷主は内容物の窃盗を防ぐために、コンテナを「封かん(シール)」してきた。コンテナの封かんは、金属製であり、識別番号が刻印されている。識別番号は(続き番号ではなく)ランダムなものとなっている。積み込み地でコンテナが封かんされると、封かん番号が貨物の出荷書類に記録される。積み込み地から最終目的地までのコンテナ輸送のサイクルのどの時点においても、権限を持った政府機関が権限を行使するに際して封かんを破ることがあれば、出荷書類にその事実が記載され、新たな封かんが施され、同じ書類に記録される。
 コンテナ封かんの保全性(インテグリティ)は、貨物の移動過程で終始維持されなければならない。コンテナが(トラックまたは鉄道により)港湾に配達された際に、港湾職員は港湾ゲートで封かんを確認する。この時点で、コンテナは海運会社の手に委ねられる。海運会社は、荷主に「received for shipment」船荷証券(海運会社が受け取った日)、または「on board」船荷証券(コンテナが船舶に積み込まれた日)を発行する。船荷証券は、荷主、受取人、原産国、海運会社による受け取り地、積み込み港、最終目的港、最終目的地を明らかにするものである。船荷証券にはまた、荷物の種類と数、全荷物の容積と重量が記載される。船荷証券には、コンテナの識別番号と封かん番号も記載される。船荷証券はコンテナ内の商品の所有権が誰にあるかを確認するものである。船舶が陸揚げ港に到着すると、コンテナは米国税関、農務省の検査を受けた後、海運会社により引き渡される。ホーム・デポ社はコンテナの受け取りに、契約陸運会社(専属ドライバー)を送り、自社配送センターに運ばせる。わが社は各輸入品配送センターで専属の陸運会社をかかえている。陸運会社と港湾職員が港湾ターミナルでコンテナの封かんが破られていないことを確認する。わが社の輸入品配送センターがコンテナを受け取ると、我々はコンテナの封かんと船荷証券記載の封かん番号とを、照合し確認する。







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