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2. 連邦政府、州政府、地方自治体機関による措置
 
 9月11日以降、特にUSCGと税関により、港湾、海上セキュリティ強化のために様々なイニシアティブが実施されてきた。港湾保安の問題は連邦政府の管轄である州際輸送、国際輸送と密接に結びついているため、州政府、地方自治体の役割は概して目立たないものとなっている。同時多発テロ以降に取られた主要な措置について、以下に概説する。
 
2.1 国土安全保障局(Office of Homeland Security)
 同時多発テロ発生後、ブッシュ大統領は10月に大統領命令により国土安全保障局(OHS)を開設した。OHSの使命は、連邦政府全体の米国内のテロ防止、防護活動を調整することである。
 
Sec.2 使命―国土安全保障局の使命は、米国をテロリストの脅威と攻撃から守るための包括的国内戦略を開発、調整することである。国土安全保障局は、この使命を実行するために必要な機能を果たす。これは、本大統領命令のセクション3に特定された機能を含むものとする。
Sec.3 機能―国土安全保障局の機能は、米国内のテロリスト攻撃を察知し、手配し、防止し、攻撃から守り、対処し、回復するための行政府の努力を調整することである。
a)国内戦略 国土安全保障局は行政官庁、州政府、地方自治体、民間と協同し、米国内のテロリスト攻撃を探知し、手配し、防止し、攻撃から守り、対処し、回復するための十分な国内戦略を確実にし、必要に応じて当該戦略を再検討し、改訂を調整するものである。
b)探知 国土安全保障局は、対米テロの脅威や、米国内のテロリストやテロリストグループの活動に関して米国内で情報を収集、分析するために、優先事項を特定し、調整を図る。国土安全保障局はまた、国家安全保障問題担当大統領補佐官とコーディネートして、米国内のテロの脅威に関する国外情報収集の優先事項を特定する。
c)即応準備 国土安全保障局は、米国内のテロの脅威または攻撃に備え、ダメージを軽減するための即応準備の国内作業を調整する。本機能を果たすにおいて、国土安全保障局は必要に応じて連邦、州政府、地方政府機関、民間と協力する。
d)防止 国土安全保障局は、米国内のテロ攻撃防止努力を調整する。本機能を果たすために、必要に応じて、国土安全保障局は連邦、州政府、地方政府機関、民間と協力する。
e)保護 国土安全保障局は、米国とその重要なインフラストラクチャーをテロ攻撃の結果から守る努力を調整する。この機能を果たすために、必要に応じて、同局は連邦、州政府、地方政府機関、民間と協力する。
f)対応と復興 国土安全保障局は米国内のテロの脅威または攻撃に対応し、復興を促進する努力を調整する。この機能を果たすために、必要に応じて同局は連邦、州政府、地方政府機関、民間と協力する。
g)危機管理 国土安全保障担当大統領補佐官は、差し迫ったテロの脅威の際、及び米国内におけるテロ攻撃の最中及び直後に、全ての行政官庁の国内対応行動を調整する主たる責任を負う人物であり、このような行動の調整に関して大統領との主たるコンタクト・ポイントとなる。国土安全保障担当大統領補佐官は必要に応じて、国家安全保障問題担当大統領補佐官と調整をはかる。
 
 ペンシルバニア州知事であったトム・リッジ氏が国土安全保障局長に指名された。同氏の正式役職名は、国土安全保障担当大統領補佐官である。閣僚或いは副閣僚としてではなく大統領顧問として指名されたため、上院の承認は必要とされなかった。
 国土安全保障局がどの程度まで、USCG、税関、移民局のような他の連邦機関の政策と行動を形づくるようになるのかは明らかではない。リッジ局長は閣僚級の局長ではなく、正式には大統領顧問である。そのため、同氏は実務上の命令系統の外に立つことになり、同氏がどの程度政策に影響を及ぼすことが出来るか、は他の官庁を説得する能力にかかっている。最近、5段階のテロ警告システムを設定する通達が出されたが、警告発令にあたっては、国土安全保障局長と相談し、調整を図ることになっている一方で、警告を発令するかどうかを決定する権限は司法長官にある。
 議会の様々な委員会がリッジ局長に証言を求めている。特に、国土安全保障局が行う業務を定義し、同局が他の連邦機関の安全保障活動を実際にどのように調整するかという問題に答えるよう強く要請している。しかしホワイトハウスは、リッジ局長が単なる大統領顧問であるという論法で議会での正式証言は行わないとしている。
 総体的に、国土安全保障局は、実質的な権限を持たないイメージに過ぎないという感が強い。リッジ局長は、国土安全保障強化の必要性があるというメッセージを一般国民に伝えるための焦点となり、その意味では非常に役立っている。しかし、実際に国土安全保障強化のための事業を計画し、実施するのは実務上の命令系統内にある他の機関である。FBI、CIA、海軍、NSA、FEMA等の既存の安全保障機関が、各機関の管轄内において安全保障の実務に対する実権を手放すとはとても考えられない。このため、USCGと税関、そしてある程度は移民局とMarAdが、港湾海上保安強化の基本方針を決定するという現行体制に変化はないと見てよいだろう。しかし、リッジ局長が、この分野でさらに重要なイニシアティブを発表する可能性があることがないとは言い切れない。
 
2.2 運輸省
 港湾・海上保安に対処する責任の大半は運輸長官にある。USCG、MarAd、運輸保安局(TSA)及びセントローレンス水路開発公社は、安全な港湾と水上航路を提供する責任があり、これらすべての機関は運輸長官の管轄下にある。運輸長官は、新たな港湾・海上保安措置を導入する上での原則を列挙した。
 
 我々は港湾施設と海上環境の両方のセキュリティを対象とする包括的アプローチを採用すべきである。物理的資産の安全保障と、船員、港湾職員及び乗客の安全保障の双方を対象とすべきである。
 米国の海事システムはきわめて多様であり、港湾についても、その運営方法は多岐にわたるため、地元の保安計画と、地元及び州政府と調整を図ることがきわめて重要である。
 他の運輸ネットワークと同様に、海上輸送システムは常に成長し、変化している。我々が構築するシステムは、時間の経過に伴って進化の余地があり、進化することが当然のこととされるものでなければならない。
 最後に、当該システムは海上輸送のインターモーダル(共同一貫輸送)性を完全に理解したものでなければならない。今日、港湾に陸揚げされた貨物は、即座に他の輸送モードヘと移動する。コンテナ輸送が最たる例である。コンテナ輸送は、本質的にインターモーダルであるからこそ成功した。今日、米国海港に到着したコンテナは、トラックや鉄道輸送により、翌日にはアメリカの内陸部のどこに到着してもおかしくない。したがって、海上保安対策は、他の運輸モードで導入される保安措置と一貫性を持ったものでなければならない。
 (2001年12月6日に開催された下院海運小委員会の公聴会における証言)
 
2.3 USCG
 同時多発テロ以来、USCGは米国港湾に入港する船舶に対する広範な保安措置を導入してきた。そして、長期的な保安措置のための一般意見を聴取するプログラムを開始している。
 
船舶到着事前通報
 USCGは米国港湾に入港する船舶について24時間前の事前通報義務を96時間前に変更した。新たな特別規則が危険物を積載した全船舶に適用され、入港事前通報において追加の情報が要求される。41ページの表に規則の詳細を記載した。通報には、乗員、乗客を問わず乗船者全員のリスト、各人の生年月日、国籍、パスポート及び船員書類番号が記載されなければならない。通報にはまた、船名、登録国、コールサイン、IMO番号、登録上の船主、運航者、船級協会名、貨物の概要、最後に出発した港の名前と出発日が記載されなければならない。この情報は、ウェストバージニア州マーティンスバーグのUSCGオフィス(National Vessel Movement Center:NVMC)に送られ、同オフィスがデータを分析する。
 しかし、入港事前通報には十分な効果がないとも考えられている。ひとつの大きな欠点は、多数の機関(移民局、FBI、税関、CIA等)の間で必要とされている調整が未了のため、潜在的テロリストを探知するために他の政府機関のデータベースを利用することができない点である。また、乗員情報(一日に数千の名前が提出される)の量が多すぎて、USCGは入港する船の乗員すべての身元を効果的に照会できていないようである。
 
船舶の種類と航海時間  NOA-Initial Report NOD-Initial Report NOA-Changes NOD-Changes
300GTを超える船舶、航海時間96時間以上 24時間 各目的港到着の少なくとも96時間前 無し 無し 無し 実行可能な限り早く、少なくとも入港24時間前 無し 無し
300GTを超える船舶、航海時間96時間未満 24時間 出航前、各目的港到着の少なくとも24時間前 無し 無し 無し 実行可能な限り早く、少なくとも入港24時間前 無し 無し
危険貨物を積載する全船舶(バージを除く)、航海時間96時間以上 24時間 各目的港到着の少なくとも96時間前 到着から2時間以内に通報が行われない限り、少なくとも24時間 同じ 無し 実行可能な限り早く、少なくとも入港24時間前 無し 出航前
危険貨物を積載する全船舶(バージを除く)、航海時間96時間未満 24時間 出航前、各目的港到着の少なくとも24時間前 到着から2時間以内に通報が行われない限り、少なくとも24時間 同じ 無し 実行可能な限り早く、少なくとも入港24時間前 無し 出航前
危険物を積載するバージ 4時間 各目的港到着の少なくとも12時間前 到着から2時間以内に通報が行われない限り、少なくとも4時間 同じ 無し 実行可能な限り早く、少なくとも入港12時間前 無し 出航前
 

注)
NOA-Initial Report: Notice of Arrival 米国へ到着する前の事前通報(初回)
NOD-Initial Report: Notice of Departure 出発事前通報(初回)
NOA-Changes、NOD-Changes: 到着事前通報又は出発事前通報の変更







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