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 東海岸、メキシコ湾岸、五大湖の港湾職員を代表する国際港湾労働者組合(International Longshoremen's Association)は、港湾職員に資格証明を義務づける際に、作業の種類を区別する必要がある点を小委員会に指摘した。
 
 いわゆる「管理区域」、「保安上配慮を必要とする情報」にアクセスを持つ職員の雇用、身元照会を義務づける上院コンパニオン法案の条項を念頭に置き、その理由が、無関係な前科にせよ、作業の場所または内容にせよ、港湾施設で働く我々の組合員やその他の人々が、通常の日々の業務を遂行するのを不必要に妨げられてはならない。下院にはまず、外洋港のオペレーションの現実を理解していただきたい。保安という見地から、海外で積み込まれた、または船舶から陸揚げされるコンテナと、同じターミナルの別の区域でコンテナに貨物をつめ、コンテナから貨物を出す作業との間には大きな違いがある。靴の荷を扱うのと、危険物質コンテナを扱うのは、大きな違いがあるのと同様である。最終分析においては、密輸であれ、妨害目的であれ、テロ行為の手段であれ、保安上配慮を要する情報へのアクセスとアクセス管理区域を指定するための尺度であるべきなのは、情報の脆弱性であり、それぞれの作業の不正利用を受ける危険度である。
 
 西海岸の港湾労働者をメンバーとする国際港湾倉庫労動者組合(International Longshore and Warehouse Union)代表は、港湾労働者の身元照会導入に反対した。
 
 組合の方針上、ILWUはあらゆる労働者の身元照会に反対である。港湾保安に関する省際委員会(グラハム委員会)の調査時に、ILWUは委員会に対して、我が国の港湾の多くで内部陰謀が問題となっているという委員会の主張を証明するよう求めた。我々は、ILWU港湾作業員がかかわっている犯罪の謀議の一例を挙げるように委員会に求めたのである。委員会は、ILWU組合員が米国港湾で犯罪的陰謀行為に関係しているという例を一件も提示することはできなかった。ただの一件も、である。実際、組合員が重大な犯罪行為にかかわった唯一の事例は、不審な活動と貨物について、警察機関に通報したことであった。上院通商科学運輸委員会における証言で、我々はタコマ港の港湾労働者の働きにより、同港湾で最大のコカインの押収が実現したことを指摘した。
 それゆえに、ILWUとその組合員は、生産的な労働者としての信頼性を実証してきた現職港湾労働者の身元照会は誤りだと確信している。港湾雇用の資格はく奪や雇用拒否は、海事産業で働き、米国港湾をテロが襲った揚合に、身体的、金銭的に最も多大なリスクを被ることになるまさにその人々に、不当なペナルティを科することになるのは自明の理である。加えて、現職労働者が、すでに法的に適切な刑罰を受けた過去の犯罪歴に基づいて、今まで十分な安全性、保安性を持って成し遂げてきた職を奪われるとすれば、一事不再理の原則及び遡及法を含む、憲法上の人権保護に違反するものである。
 
 ILWU代表は上院法案(S.1214)は、港湾労働者の資格証明に不当に焦点を当て、港湾保安の根底に広がるより大きな問題を無視していると付け加えた。
 
 S.1214の根本的な問題点は、犯罪歴照会―この犯罪歴照会というものは、正当な法の手続きも十分でなく、また十分な秘密保護もされていないのだ―を義務づけることにより、米国港湾労働者を不当に疑い、重荷を負わせる一方で外国船、外国船員、外国貨物の検査とスクリーニング対策については、全く不十分なことである。誰もが身を持って体験したことのある航空機保安にたとえると、S.1214が提供しているのは、審査を通過した労働者が航空機を取り扱い運航するが、未検査の荷物が積み込まれることは放置している状況と同程度の安全とセキュリティである。現行のS.1214は、港湾にこの種の名ばかりの「セキュリティ」を提供するものである。同法案は、真の港湾保安ではなく、まがい物をつかませようとしている。そして、その犠牲になるのが、米国労働者なのだ。
 
コンテナ・セキュリティ
 コンテナ・セキュリティについての公聴会は2002年3月13日に開催され、USCG、世界海運会議(World Shipping Council)、ニューヨーク/ニュージャージー港湾管理委員会、港湾労働者代表、その他の証人が証言した。
 
 USCGの港湾保安部長(The Chief of Port Security)が、米国港湾におけるコンテナ保安強化措置を説明した。
 
 コンテナ保安の最前線に立つのは、米国税関をはじめとする行政機関であり、コンテナ・ワーキング・グループは、税関をはじめとする行政機関が確実にハイリスク・コンテナが米国に入るのを防止する、また、米国に危険を及ぼす前に適切な検査を行えるようにするための技術及びビジネス・プラクティスを検討している。税関は、慎重なリスク・ベースの選別手法を使用してはいるが、コンテナの武器としての使用を防止するには、さらに複雑な戦略が必要であり、非介入型(non−intrusive)検査技術、及び選別(スクリーニング)に使用される情報の拡充が必要である。我々は、新しい税関コンテナ保安イニシアティブ(CSI)を強く支援している。なぜならば、CSIは、我々が貿易相手国と協力して、世界のグローバル・サプライ・チェーンを通してコンテナの保安性を強化するために行ってきたこれまでの作業を基盤としたものであるからである。
 同様に、運輸省は、新設の運輸保安局(TSA)を通して、貨物−コンテナ貨物を含む−が、米国のインターモーダル輸送システムを移動する過程で、その保安性の確保に最善を尽くす意志である。議会により期限が定められていたために、TSAは今まで専ら航空関連のセキュリティ問題に焦点をあててきた。しかし、これから、同局は水・陸上輸送関連のセキュリティ問題に相当な関心を向ける所存である。
 USCGもまた、9月のテロ攻撃後に、海上安全、保安、環境保護局(Office of Marine Safety,Security and Environmental Protection)中に散在していた保安プログラムを再編成し、新たに設置した港湾保安部の下に統合した。コンテナの構造的な健全性と、危険物質の適切な積載に焦点をあてたUSCGのささやかなコンテナ検査プログラム(Container Inspection Program:CIP)も、港湾保安部に移管された。この移管には、USCGの安全(セイフティ)検査に保安(セキュリティ)検査の要素を加えるという意味がある。USCGのコンテナ検査訓練支援チーム(CITAT)は、テロ後にニューヨーク市に派遣され、米国陸軍から「ジャスト・イン・タイム」訓練を受けた後、無数のコンテナ検査を支援した。
 港湾保安強化に同様に重要なのは、国際社会との連携の努力である。最近のIMO総会とセッション間のワーキング・グループ会議において、USCGは、米国代表団の主導官庁として、多数の保安対策提案を行った。これには、船舶、施設、海洋プラットフォーム保安計画、特定の国際船舶へのAISの早期導入、船舶、企業、施設保安担当官の任命と訓練が含まれている。米国政府もまた、予備的なコンテナ保安対策を提案し、2002年5月のIMO海上安全委員会には、省際コンテナ・ワーキング・グループの提言と税関のコンテナ・イニシアティブに基づいた、さらに詳細なペーパーを提出することを約束している。
 
 世界海運会議(World Shipping Council)代表の証言は特に思慮に富んだものであった。同代表は、海上保安措置の導入と、コンテナ輸送システムの効率維持の必要性との間でバランスを取る必要がある、と指摘した。世界海運会議の会員はコンテナ海運会社の紳士録のようなものである。
 
 第一に、コンテナ保安問題に対処するためには、統一的で調整の取れた戦略がなければならない。現行のガバナンス構造は不十分である。USCG長官と、税関長は、望まれる結果を生むための健全なビジョンを表明した。そのビジョンとは、貨物コンテナが米国港湾に向かう船舶に積み込まれる前に、政府がそれを審査することを可能にするシステムを導入することである。これには、積み込まれる前に積荷情報の分析を行い、政府が要検査と判断した全コンテナを検査する能力を有することが必要である。しかし、政府はコンテナ貨物保安に誰が責在を持つかを明確に定めることに及び腰であり、これが厄介な問題になりつつある。
 USCGには明確な使命があり、船舶保安問題、港湾保安問題にきわめて優秀に対処してきた。これはUSCGの管轄であり、これからもそうあるべきである。しかし、ことコンテナ貨物の荷動きになると、混乱が見られ、税関と運輸省との間のつばぜり合いのため、我々が直面している問題に対処するためのガバナンス構造が不明確になっている。例えば、税関は、これらの国際貨物の荷動きについて「貿易」の側面から、税関長はコンテナ保安イニシアティブ(CSI)とテロ対策のための税関貿易パートナーシップ(C−TPAT)の開発に積極的に着手した。海運会社はこれらの事業に関して税関と協同して作業にあたっている。しかし、万一事件が発生した場合、貿易に及ぼす影響に対応する責任は誰が負うのか。そして、万一コンテナがテロ手段として使用された場合、国際貿易の流れを中断させないために何をするべきか、を決定する責任は誰が負うのか。ボナー税関長は、USCG当局と同様に、米国政府としては、おそらくUSCG主導で港を閉鎖することになるだろう、と示唆した。再開には何が要求されるのか、そしてその決定は誰が下すのか。海運会社、荷主、港湾オペレーター、そして港湾は、米国の貿易の流れを中断させないために何をすればいいのか。米国は、外国の港湾が何をすることを期待するのか、そして外国港湾にどのような能力を期待するのか。それらの期待と要件はいつ関係外国政府に伝達されるのか。これらの疑問に対する回答は全く出されていない。
 第二に、運輸の流れにおいて、各責任者に何が要求されているかを伝える明確な、強制力のある規則が存在するべきである。政府は、適切な者に明確な責任(アカウンタビリティ)を割り当て、明確な最小限の要件を設定すべきであり、それらの要件を一律に執行すべきである。委員会は、何をすべきかについて、あまりに詳細にわたる立法を行うのは不適切と考えるかもしれないが、法は明確で実質的な手続上のガイダンスを実施官庁に与えるべきである。
 第三に、保安体制は、自由で効率的な貿易の流れを阻害しないものでなければならない。定期海運産業は、一ヶ月当たり、米国で輸出入される100万個以上の貨物コンテナを取り扱っている。この貿易に適用されているサプライ・チェーン管理手法は、丈字通り米国の企業及び消費者にとって・何十億ドルもの節約を可能にすると何時に、米国経済を世界の全ての市場につないできた。効率よい輸送と、安全な輸送は相いれないものではない。立法、規制措置は、効率的で信頼性のある輸送システムの恩恵が維持されるよう最善をつくすべきである。
 第四に、保安強化を効果的かつ包括的に国際サプライ・チェーンに敷衍するためには、国際協力が必要である。米国は世界最大の貿易国であるから、これには米国のリーダーシップが欠かせない。しかしながら、米国政府は、諸外国の関与と合意なくして外国の港湾及び場所に保安措置を拡大することはできない。USCGが、関係する多くの問題、特に、船舶と陸側ターミナルとの間のインターフェースに関する問題について、IMOを巻き込んだのはきわめて賢明であった。コンテナが船舶に積み込まれる前に事前選別し、必要であれば検査する効果的なシステムを確立するために、我々はさらに貿易相手国に対して同様のイニシアティブを取っていく必要がある。







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