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1.4 港湾海上保安法案起草における主要な証言
 HR.3983の起草にあたって、下院USCG海運小委員会は4回にわたり公聴会を開催した。これらの公聴会の証言から、新保安イニシアティブ提案に関して業界が表明した問題点と懸念を概観することができる。上院法案の公聴会は、同時多発テロ前に開催されているため、さほど重要ではない。下院公聴会における重要な証言のいくつかの抜粋を以下に挙げる。
 
港湾海上保安戦略全般
 この論題に関する公聴会は2001年12月6日に開催された。運輸長官及びUSCG長官が証言台に立った。
 
 運輸長官は、運輸省が即刻に講じた港湾保安強化措置を次のように説明した。
 
 USCGは、重要橋梁、港湾施設、その他のインフラをはじめとし、重大な被害を及ぼす危険性の高い水上施設の保護に業務の重点を移した。
 運輸省は、米国港湾に入港する船舶に96時間前の事前通報を義務づける緊急規則を発布し、2003年夏にはこれを恒久的規則とするつもりである。
 USCG情報調整センター(Coast Guard Intelligence Coordination Center)3は、海軍情報局(ONI)と協力して、米国に入る重点警備対象船舶(HIV)4を追跡し、作戦司令官(Operational Commanders)と関係政府機関に情報を提供している。
 重点警備対象貨物を積載した船舶及び保安上配慮を要する区域において、USCGは職員をシーマーシャルとして配備し、確実に、認められた作業員だけが船舶の制御を行うように監視している。
 MarAdは、保安事案について検討、対処し、法律上及び政策上の改変に関する提言を行うために海事産業関係者とのミーティングを実施している。
 MarAdは、アフガン作戦支援に配備された一隻はもちろん、RRF(即応予備船隊)の係留地における警戒体制を強化している。
 セントローレンス水路開発公社は、カナダ側と密接に連絡を取り合い、セントローレンス河の警備を強化し、海洋から五大湖への確実なアクセスを確保している。
 
運輸長官は次に、長期的な港湾海上保安戦略の基盤とすべきだと考える基本理念を明らかにした。
 
 我々は港湾施設と海上環境の両方のセキュリティを対象とする包括的アプローチを採用すべきである。物理的資産の安全保障と、船員、港湾職員及び乗客の安全保障の双方を対象とすべきである。
 米国の海事システムはきわめて多様であり、港湾についても、その運営方法は多岐にわたるため、地元の保安計画と、地元及び州政府と調整を図ることがきわめて重要である。他の運輸ネットワークと同様に、海上輸送システムは常に成長し、変化している。我々が構築するシステムは、時間の経過に伴って進化の余地があり、進化することが当然のこととされるものでなければならない。
 最後に、当該システムは海上輸送のインターモーダル(共同一貫輸送)性を完全に理解したものでなけばならない。今日、港湾に陸揚げされた貨物は、即座に他の輸送モードへと移動する。コンテナ輸送が最たる例である。コンテナ輸送は、本質的にインターモーダルであるからこそ成功した。今日、米国海港に到着したコンテナは、トラックや鉄道輸送により、翌日にはアメリカの内陸部のどこに到着してもおかしくない。したがって、海上保安対策は、他の運輸モードで導入される保安措置と一貫性を持ったものでなければならない。
 
 同長官はまた、保安強化措置を導入する上で、国際協調と、港湾活動の域を越えた包括的アプローチが必要であると論じた。
 
 海上輸送システムは、我が国の国際貿易に非常に重要な役割を果たしているため、新たな保安措置を我が国一国だけで採用することはできず、我が国の貿易相手国、そしてIMOとの国際協力によって施行されて初めて効果を発揮するのである。
 海事関係者以外には理解し難いかもしれないが、港湾保安にのみ焦点を当てるのでは十分ではない。港湾施設の保安強化と保安協調体制の改善は重要ではあるが、我々が必要とする包括的アプローチは、港湾と港湾施設だけではなく、海上輸送システム全体を包含するものでなければならない。
 
 USCG長官は、公聴会で、全ての関係政府機関、国際機関、民間部門が関与する協調的努力の必要性を強調した。
 
 海上輸送システムのインターモーダル性を鑑み、運輸省と省外の海上輸送関連局は、全国規摸で多角的保安要件に対処するうえで、統一的アプローチを取る必要がある。協調努力の重要牲はいくら強調しても強調しすぎることはなく、同時多発テロ発生以来、全ての運輸保安の焦点となっている。この省際協力と官、民、国内外の機関との広範な連携を通して、我が国の港湾と水路の保護における現状と、そのあるべき姿との間の戦略上のギャップについて、これに対処するための大きな進歩が選られた。一貫し、整合性のある保安姿勢を取るために、港湾警戒強化において、ウォーターフロント施設及び船舶の保安(セキュリティ)と安全(セイフティ)に第一責任のある民間部門と継続的に連絡を取り合っている。同じく重要なのは、国際社会との連携努力である。最近IMO会議で、USCGは世界の海上セキュリティを強化し、それにより国境を越えた視野で、米国本土に達する前に脅威を阻止する具体的活動の策定を提案した。
 
港湾保安のための資格証明書
 この論題に関する公聴会は2002年2月13日に開催され、運輸省、業界、港湾労組代表が証言を行った。当該公聴会の焦点は、運輸労働者にセキュリティ保護用身分証明カードの携帯を義務づける全米保安システムを施行する最善の方法を調査することであった。
 公聴会の開催に先立って、小委員会委員長は、実用的資格証明システムの構築に関する問題を要約した。
 
・立ち入りを認められる港湾区域によって、「セキュリティ・クリアランス」のレベルを変える必要があるか。
・全ての港湾、すべてのターミナルに保安区域を設ける必要があるのか。たとえば、小規模な町村向けの食品雑貨の陸揚げ行う穀物エレベーターやターミナルが、石油ターミナルと同じレベルの保安措置を必要とするのか。
・港湾セキュリティ保護カードを必要とするのは誰か。トラックの運転手、ターミナル作業員、鉄道作業員、港湾で働く機器修理作業員がすべてセキュリティ保護カードを携帯する必要があるのか。穀物エレベーター・ターミナルのみで作業する職員にセキュリティ保護カードは必要か。
・個人の身元照会はどの程度まで実施するのか。犯罪歴照会、飲酒運転歴の調査、麻薬検査、また、テロ組織の一員であったり、それを支援していたりしないことを確実にするための「諜報」調査を行うのか。
・セキュリティ保護カードの発行を拒否する要素は何か。どのような犯罪歴が保安上のリスクとなるのか。
 
 運輸省内の情報保安局長(Office of Intelligence and Security)は、実用に適する資格証明システムの確立が困難であることを説明した。
 
 概念的に、これまでに直面した最も困難な問題は、広範な運輸施設及びオペレーションに適切な保安水準を定義し、これをいかにして適用するかという点である。我々は保護すべき運輸機関や施設に多くの差異が存在することを十分認識している。
 最近、業界関係者と二度にわたって意見交換の機会を持ったが、それにより、我々(行政、民間の双方)は、実行可能な解決法を採用しようとするならば、両者が納得する方法で対処しなければならない膨大な問題に直面していることがはっきりした。
 運輸労働者の資格証明(credentialing)についての提言を作成する上で、毎年、大量の外国人船員及び外国人トラック運転手が米国に入国していることを考慮しなければならない。資格証明というコンテクストでこの問題に対処するために、資格証明ダイレクト・アクション・グループ(Credentialing Direct Action Group)は移民局の助言を受けている。
 港湾職員向けセキュリティ資格証明は、海港内の保安システムの重要な要素である。これが効果を発揮するためには、すべてのアクセス・ポイントにおいて、防護柵、監視、持ち込み取締プログラム、その他の制御手法を用いた物理的制御が行われなければならない。施設内の全ての区域について、無許可の人物の立ち入りは制御されなければならない。同時に、重点保安区域内でセキュリティ・レベル・アクセスを確実に施行するための十分なリソースが必要である。
 
 米国トラック輸送協会の代表は、運輸サプライ・チェーンの現実を考慮した資格証明手順を実施する必要性について警告し、最近成立したフロリダ州港湾保安法(Florida Seaport Security Act)の資格証明要件により発生している煩雑さとコストについて注意を促した。
 
 同時多発テロのような事件の不幸な結果のひとつは、時に行き過ぎた、または手間のかかる方法で目的を達そうとする法律や規制が地方自治体、州政府そして連邦レベルで施行されることである。フロリダ港湾に関するフロリダ州議会のやり方(9/11以前に可決したのだが)を見習い、多くの郡や州政府はサプライ・チェーン内−港湾の内も外も−の運輸労働者に犯罪歴照会や資格証明要件を課そうと考えている。サウスカロライナ州とジョージア州の議会が、港湾に対して犯罪歴照会と資格証明要件を義務づける立法を検討中であると理解している。私の会社はフィラデルフィアではビジネスを行っていないが、フィラデルフィア港は4種類の身分証明書を要求していると聞いている。また、ニューヨーク/ニュージャージー港も資格証明要件を検討中であるという。西海岸の港湾も同様の措置を検討中である。
 問題は地方自治体、州政府の法令・規則に留まらない。2001年末、上院はS.1214(2001年港湾海上保安法案)を可決したが、これには保安上配慮を要するポジションに対する雇用調査や採用制限要件が盛込まれている。しかし、複数の港湾でビジネスを行う事業者のために、基準及び資格証明に整合性を持たせるためのガイダンスは何も提供されていない。
 2001年、フロリダ議会はフロリダ港湾保安法を可決した。これによれば、フロリダ州の14の港湾において、港湾、またはそれぞれの保安計画によりアクセス制限区域に指定された港湾内の特定の区域への立ち入りを認められるのは、指紋による犯罪歴照会を受け、アクセスを認める基準に適合した人物だけに制限される。例を挙げると、ジャクソンビル港は、Blount Island マリン・ターミナルとTalleyrand マリン・ターミナルの両方の全施設を「アクセス制限」区域に指定している。アクセスを許可する基準は、各港湾の保安計画により設定される。各港湾の保安計画に従ったアクセス基準に適合した人物は、バッジを支給される。フロリダ州の14港すべてで事業を行っているトラック輸送会社にとっては、所属するドライバー全員が14の個別の身分証明バッジを受け取ることができるかどうかを判断するために、ばらばらの基準による指紋ベースの犯罪歴照会を14回も受けなけばならないことを意味する。ジャクソンビル港では犯罪歴照会とバッジの支給にはドライバー1人につき74ドルかかり、そのバッジも有効期限は1年でしかない。その後毎年、ドライバーはバッジの発行を受ける前にフロリダ法執行局で氏名による照会を受けなければならない。この調査コストは25ドルである。
 これは単なる抽象的なコストではない。わが社は創業35年であり、サウスカロライナ州のチャールストン港で操業する最大のインターモーダル輸送業者である。わが社は自社トラックを利用し、200人のドライバーを社員として抱えている。わが社は、マイアミ、タンパ、ジャクソンビルといったフロリダ州の港で長年事業を行ってきた。わが社は今日、これらの港でビジネスを行う金銭的余裕がない。特定の荷をどのドライバーがピックアップし配達するかを予測するのは不可能であり、ドライバー200人全員が3回にわたり犯罪歴チェックを受けるコストを負担しなければいけない。もし港湾のアクセス基準が著しく異なるとすれば、我々はどのドライバーがどの港湾に入る許可を持っているかを追跡するという複雑な作業を強いられる。そのうえ、3回にわたる身元審査を通過したドライバーを、4つめの港、例えばエバーグレード港に荷物のピックアップのために送ろうとすれば、その港の身元審査を受けていないドライバーは入ることができないのだ。はっきり言って、この状況は不条理である。わが社はもうフロリダの港ではビジネスを行っていない。残念なことに、この問題は広がりつつある。
 
 西海岸の港湾施設オペレーターを代表する太平洋海事協会(Pacific Maritime Association)の代表は、港湾及び海事職員の資格証明の制定には慎重を要するとし、新たな規則を施行する前に、十分な技術を確保する必要がある点を強調した。
 
 誰もが、港湾施設の保安強化のために「何かしなければ」気持ちにかられている。しかし、あらゆるステップは、暫定措置であっても、長い目で見て調整すべきである。人力で身分証明チェックや貨物保安チェックを実施すれば、実質的な保安強化効果はほとんどないのに、港湾の貨物の流れをスローダウンさせることになる。我々は、初動段階から膨大な情報を接続し、処理するテクノロジーを利用する必要がある。これは、特に我が国最大級の港湾では、保安施策のための最も意義ある手法である。効果のないマニュアル・コントロールを実施するよりも、初動段階から適切なテクノロジーを用いた適切なシステムが利用できるようになるまで、導入を延期した方がよい。相互運用性を持たせるために、技術プロトコルは均一でなければならない。システムが、取り締まり機関はもちろんのこと、施設オペレーターとも適切にリンクするよう技術プロトコルを設計しなければならない。技術プロトコルは、我々のコンピューター・ネットワークのセキュリティ保護を含むものでなければならない。最後に、十分な高速コンテナ審査機器を購入し、設置することにより、通商をはなはだしくスローダウンさせないように配慮しなければならない。この点で、上院のホリングス法案はインフラストラクチャー構築を支援する予算を含んでいた。私は、本小委員会もこの財政支援について対処すると確信している。
 

3
The Intelligence Coordination Center(ICC)は1984年に設立されたUSCGの全国レベルの諜報センター。同センターの任務は、USCGのオペレーションを強化し、米国の政策作成者を支援するために、USCGの観点からあらゆるソースの諜報活動を実施することにある。ICCは主に、USCGの麻薬取締まり、密航取締まり、海洋環境保護、漁業規制執行、軍事防衛活動といったUSCGの仕事を支援する。
4
High−Interest Vessel:大型の旅客船、油タンカー、ケミカルタンカー、LPG船、LNG船、塩素や無水アンモニアをばら積みする船舶、その他COTP(Captain of the Port:USCG港長)がHigh−Interestと認める船舶







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