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1.2 2002年海上運輸テロ対策法案(H.R.3983)
―Maritime Transportation Antiterrorism Act of 2002
 港湾海上保安立法の舞台は、2002年海上輸送テロ対策法が運輸・社会資本委員会により起草された下院に移った。同法案は、ドン・ヤング下院議員(運輸・社会資本委員会委員長)を提案者とし、他3名の下院議員が共同提出者となっている。同委員会は2001年12月に同法案についての公聴会の開催を始め、3月20日に草案を完成した。
 
下院法案の詳細
 H.R.3983は、8節から成り、上院法案に比べて、港湾における犯罪防止よりも海上テロ問題に重点を置いたものとなっている。下院法案の各節の概要を以下に挙げる。
 
 Sec.2―46U.S.C.(United States Code Title 46)に新たにサブタイトルVIを設け、テロ対策保安強化の包括的な国内制度を確立する。
 
・USCGは、テロ攻撃を受けた場合に壊滅的危機を引き起こす危険性のある港湾における各施設の脆弱性評価をはじめとした、米国港湾の脆弱性評価を実施する。当該脆弱性評価の結果を利用し、全米計画、地域計画、船舶、施設、港湾ターミナル計画からなる全米海上輸送テロ対策計画システムを策定し、実行可能な限り最大限に壊滅的危機を回避する。
 
・船舶及び施設の対テロ計画は、USCGの承認を受けなければならない。USCGはテロ対策計画が承認されるまで、船舶または施設の各オペレーターに暫定的保安措置の実施を義務づけることができる。USCGは地元の港湾安全委員会の助言を受け、地元の船舶及び施設テロ対策計画を、地域及び国家計画に組み入れなければならない。
 
・USCGは、連邦緊急事態対処局長1と協力し、海上対テロ活動の調整にあたらなければならない。本節では、USCGは船舶テロ対応体制の開発も義務づけられている。
 
・運輸セキュリティ・カードを携帯しない、または運輸セキュリティ・カードを携帯する者が同伴していない人物が、運輸長官が承認した対テロ計画において保安区域と指定された船舶または施設内の区域に入ることを禁じる。
 
・USCGは、米国領海内の、船舶、港湾、施設、貨物を守るための海上対テロ・チームを結成する。
 
・USCGが承認した海上テロ対策または、USCGが義務づけた暫定措置を実施するための施設保安強化に対し、保安担当運輸次官が財政支援を提供することを認める。2003、2004、2005会計年度にそれぞれ7,500万ドルを補助金として認める。このうち、750万ドルは、早期試験導入プログラム(Proof of Concept)技術補助金に充てることとする。
 
・USCGは米国向け船舶の起点となる外国港湾、または対米テロのリスクが高い外国港湾において実施されているテロ対策措置の効果を評価しなければならない。外国港湾が効果的なテロ対策措置を実施していない場合、USCGは当該港湾から到着する船舶、または当該港湾で揚荷、積み替えが行われた貨物を積載する船舶の米国への入港に条件を課すか、もしくは入港を拒否することができる。
 
・保安担当運輸次官は、2003年6月30日までに、運輸保安監視評議委員会(Transportation Security Oversight Board)と協議の上、直接または外国港湾を経由して、米国から輸出または米国に輸入されるコンテナ貨物のテロ対策貨物特定及びスクリーニング手法を開発、保持しなければならない。また、保安担当運輸次官は、封かん(シール)及び施錠基準を含む輸送コンテナの物理的保安強化のための性能基準を制定しなければならない。
 
・外国港湾から米国に入港する商船の運航者は、保安担当運輸次官に乗客・乗員名簿を提出しなければならない。当該名簿には、乗客・乗員各人の氏名、生年月日、国籍、性別、旅券及び査証番号、出生国(Country of Origin)を記載しなければならない。
 
 Sec.3―港湾水路安全法を修正し、米国領海12海里内に入るすべての船舶に対し、領海に入る96時間前までにUSCGに通報することを義務づける。通報がなかった場合、USCGは、領海内航行を拒否することができる。本節はまた、パイロットが乗船していない場合のような一定の状況において、USCGには、米国領海または米国の航行可能水域におけるすべての船舶の安全な航行を指示する権限があることを明確にしている。
 
 Sec.4―USCGの管轄を沿岸3マイルから12マイルに拡大する。本節はまた、本権限に基づ
いたUSCG命令違反事案一件につき、25,000ドルを上限とする罰金を制定している。
 
 Sec.5―戦争または有事の際に、USCGの定数制限を一時保留する。
 
 Sec.6―外洋港法(Deepwater Port Act)を天然ガスにも適用する。
 
 Sec.7―港湾水路安全法を修正し、テロ行為を防止、対応するために、適切な訓練を受け、資格を有した、武器を携帯するUSCG職員を、施設及び船舶上でシーマーシャルとして任用することを認める。運輸長官は、USCG職員を補充するために、米国の船員資格保有者をシーマーシャルに起用する可能性を評価し、この機能を果たすための訓練の提供に米国商船大学及び州立商船学校を利用することを検討することとする。
 
 Sec.8―米国の航行可能水域で運航する、またはVTS(船舶管制システム)の地理的有効範囲内で運航する2002年12月31日以降に建造される船舶すべてに船舶自動識別システム(AIS)2の搭載を義務づける。2003年7月1日以降、本要件は全ての旅客船、タンカー、またはタンク・バージを曳航する曳船に適用される。2004年12月31日以降、米国の航行可能海域で運航するすべての船舶に、当該システムの搭載が義務づけられる。
 
1.3 港湾海上保安法案の今後の展開
 まず、下院案の地方公聴会が予定されており、その後、下院本会議に上程され、審議、採決となる。本会議では確実に法案が修正されると思われる。その後、採決が行われ、H.R.3983は修正案付きで、大差で通過する公算が強い。下院案と上院案は同一ではないため、下院と上院から協議委員が指名され、文言の擦りあわせが行われる。下院本会議審議と、上下両院協議の過程で、業界は法案文言または予算に関して、具体的な変更のロビー活動を行う。協議委員は、両院統一版の港湾海上保安法案を作成し、上下両院の本会議に送付し、最終的な採決、採用となる。上下両院が合意した最終法案は、その後大統領の署名を得て施行されることとなる。
 

1
Federal Emergency Management Agency(FEMA):1979年設立。アメリカ大統領直属の緊急事態に対応するための政府機関。局長は閣僚級で、大規模災害(またはその予防)に関して対処する。
2
Automatic Identification System:AIS







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