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第1章 米国における海事セキュリティ対策
1. 立法イニシアティブ
 
 9月11日の同時多発テロ発生を契機とし、港湾及び海上セキュリティに対する脅威に対処するための新たな立法の動きが活発化した。港湾及び海上セキュリティに関する包括的な新法案はすでに上院を通過しており、2002年の半ばに最終案を完成することを目処に、下院もこの議案を取り上げたところである。加えて、現在法案公聴会開催段階にある2003会計年度予算決議(authorization)案及び歳出予算(appropriation)法案のいくつかに、様々な港湾及び海上セキュリティ改善策についての予算要求が盛込まれている。本章では、公聴会における主要な証人の証言と共に、これらの立法イニシアティブを概説する。
 
1.1 2001年港湾海上保安法案(S.1214)
―Port and Maritime Security Act of 2001
 2001年12月20日に、上院は港湾・海上におけるテロ攻撃防止政策及び手順を大幅に変えることを義務づける法案(S.1214)を可決した。同法案は、新たな保安措置の導入資金として、2002会計年度予算に3億5,000万ドル強の直接追加予算、5億2,000万ドルの融資保証を認め、さらに2003〜2005会計年度に4億7,500万ドルの直接予算追加配算、21億ドルの融資保証枠を提供するものである。
 
背景
 S.1214は同時テロの発生以前に、既に上院で審議が行われていたものである。米国港湾における犯罪とセキュリティについての省際審議会の研究結果と勧告を受けて、通商、科学、運輸委員長であるホリングス上院議員が2001年7月20日に同法案を提案した。1999年に大統領によって設立されたこの省際審議会は、米国海港における犯罪防止とセキュリティ強化のために必要とされる措置についての報告書を提出した。S.1214は同審議会の所見に対する立法上の答えとして提出されたが、同時多発テロ発生後の状況の急変に対処すべく、原案に大幅な修正が加えられ、増補された。修正後のS.1214は、委員会案の原案条項をすべて盛り込んだ上で、テロ問題を扱った修正条項に関してのみ本会議審議を行った上で、上院を通過した。S.1214の全文を付録1に添付する。
 
上院法案の詳細
 S.1214は、原案の節(Section)と、本会議修正条項として付け加えられた節(Section)の合計 31節から成る。同法案は新たにシーマーシャル(海上連邦執行官)プログラムの導入、新たな貨物スクリーニング検査技術の導入、港湾職員の身元照会と資格証明、保安措置が不十分と見なされる港湾から到着する船舶の入港制限、米国港湾に入港する船舶の乗組員の身分証明要件を義務づけている。各節の概要を以下に挙げる。
 
 Sec.102―米国港湾のセキュリティ強化策についての提言、海上輸送保安計画の起案を行う21名からなる国家海事保安諮問委員会(National Maritime Security Advisory Committee)を運輸長官が指名する。諮問委員会の活動費として2002会計年度に100万ドル、その後3年間でさらに300万ドルの予算を認める。
 
 Sec.103―運輸長官は一貫した基準及び手順を用いて、全ての港湾及びウォーターフロント施設について脆弱性評価を実施しなければならない。この目的のために、2002会計年度に2,000万ドル、その後3年間で更に3,000万ドルの予算を認める。
 
 Sec.104―米国の各港湾に、地元港湾セキュリティ委員会を設立し、港湾保安活動の計画を助け、港湾脆弱性評価の検討を支援する。USCGのCaptain of the Portが各港湾保安委員会の議長をつとめ、少なくとも年4回の会議を開催する。各委員会は少なくとも3年毎に、保安訓練実地演習を実施する。2002会計年度に当該事業予算として500万ドルを認め、その後3年間にさらに1,100万ドルを認める。
 
 Sec.105―各港湾管理委員会、港湾ターミナル・オペレーター、または港湾の保安区域にアクセスを有する公共または商業施設のオペレーターは、港湾施設保安計画を提出し、運輸長官の審理、承認を受けなければならない。保安計画では、物理的セキュリティの維持、保安区域に立ち入る関係者の取扱手順及び資格証明要件についての規定、テロ攻撃の際の港湾区域の退避規定を扱うものとする。それぞれの保安計画は5年毎に再検討しなければならない。本事業予算として2002会計年度に350万ドル、その後3年間にさらに1,050万ドルを認める。
 
 Sec.106―管理区域または保安上機密性の高い情報にアクセスを有する港湾職員の身元照会及び雇用調査要件を規定する。運輸長官は港湾保安区域に出入りする人物の身体検査、保安検査、FBI犯罪データベースを用いた犯罪歴調査等の必要な規則を規定する。
 
 Sec.107―運輸長官は、米国における海上保安強化のための省庁間協力に必要とされる活動とリソースを特定するための研究を実施しなければならない。これには、複数の連邦機関にまたがる横断的分析能力のあるデータベースの開発が含まれる。当該研究用予算として2002会計年度に50万ドルを授権する。
 
 Sec.108―運輸長官は、米国籍船舶が入港する外国及び米国の港湾に入港する外国船舶において実施されている保安措置の有効性を評価しなければならない。有効な保安措置を講じていないと判断された外国港湾名を公表し、当該外国港湾を起点または積替地とする貨物を輸送する船舶の米国港湾への入港を拒否することができる。さらに、保安措置が不十分とされた港湾からの船舶が入港する港湾に寄港する米国籍または外国籍船舶が、米国航路における輸送サービスに従事することを禁じることができる。
 
 本セクションはまた、前年に米国港湾に入港した船舶の旗国すべてのリストを作成し、(1)USCGの乗船検査優先順位マトリックスで第III優先順位以上に入る船舶を有する国、(2)乗客または積荷目録、船員の身元または資格、船舶の登録または船級について米国に虚偽の報告を行ったことのある船舶が所属する国、(3)登録または格付けの手順がIMOの定める船級協会の要件に適合しない船級協会を承認している国、(4)法律または規則が、国籍登録された船舶の所有者または登録歴を追跡するのに不十分な国、を特定することを運輸長官に義務づけている。本法の成立から6ヵ月以内に、外国籍船舶の透明性と保安性を高めるために米国が講じるべき措置についての所見及び勧告を、報告書として議会に提出しなければならない。
 
 Sec.109―運輸長官とFBIは、少なくとも3年に1度、すべての地域の海上テロ対策及び緊急事態対処計画を再検討し、すべての対処計画について毎年模擬訓練を実施するよう取り計らわなければならない。この目的のために2002会計年度に100万ドル、その後3年間にさらに300万ドルの予算権限を認める。
 
 Sec.110―運輸長官は、海上保安の専門家の訓練及び資格認証の基準及びカリキュラムを開発しなければならない。運輸長官は、既存の連邦リソースまたは、民間委託を利用して、訓練機会を提供する。この目的のために2002会計年度に550万ドル、その後3年間にさらに850万ドルの予算権限を認める。
 
 Sec.111―新たにプログラム(タイトルXIV)を設立し、港湾保安インフラ整備について実費の87.5%の融資保証を提供する。インフラ整備には、港湾セキュリティ監視用機器及び施設、セキュリティ・ゲート、照明システム、遠隔監視システム、隠しカメラをはじめとする、旅客、貨物、船員のセキュリティ全般の向上に役立つ保安強化策が含まれる。さらに、資格を満たす港湾保安強化プロジェクトについては、連邦政府がコストの75%(またはそれ以上)の資金援助を行う。融資保証を行う上での連邦政府の信用リスクをカバーするために、2002会計年度に融資保証予算として2,600万ドルを認める。これにより、運輸長官は2002会計年度に総額5億2,000万ドルを上限とする融資保証を提供することが可能になる。その後3年間に、さらに1億500万ドルの融資保証予算を認め、これにより3年間で21億ドルの融資保証を可能とする。2002会計年度にさらに7,400万ドルを、資格を満たす港湾保安プロジェクトに対する補助金として給付し、その後3年間にわたり、2億5,500万ドルの補助金が給付される。
 
 Sec.112―税関に、非干渉型(non−intrusive)スクリーニング検査・探知機器の購入予算権限を認める。また、税関検査官を1,200人、税関捜査員を300人増員することを認める。非干渉型スクリーニング・探知機器の購入のため2002会計年度に2,000万ドル、さらに税関の増員費用として1億4,500万ドルの予算を認める。2003〜2005会計年度に、さらに6,000万ドルを非干渉型スクリーニング・探知機器の購入予算として認める。
 
 S.113―「港湾保安:国家計画ガイド」の改訂版を出版し、インターネット上で公開することを義務づける。
 
 S.114―港湾セキュリティに関与する複数の連邦機関、州政府機関は米国港湾において、合同ドックサイド検査施設を開設しなければならない。この目的のために、2002会計年度の100万ドルの予算権限を認める。その後3年間にさらに300万ドルを認める。
 
 S.115―米国港湾への入港または通関前に、電子的に積荷目録情報を提出することを義務づける。電子提出の方法、時期、様式については、財務長官が指定する。米国からの輸出貨物については、港湾ターミナル・オペレーターが貨物を受け取ってから24時間以内に、荷主は海運会社またはそのエージェントに完全な積荷書類を提出しなければならない。この要件に従わない荷主に対して、書類未提出のまま48時間以上港湾ターミナルに放置された貨物の差し押さえを含む罰則が課される。乗客及び乗員明細情報は、財務長官が定める方法、時期、様式で、船舶の入港または通関に先立って提出しなければならない。税関は、海運輸入貨物に関する事前通関のプログラムを複数の港湾で試行し、効果についての報告書を議会に提出する。
 
 Sec.116―船舶入港の事前通報は、実際の入港前に審査が完了するように、時間の余裕を見て提出しなければならず、このタイミングを守らない船舶の米国港湾への入港を拒否することができる。
 
 Sec.117―港湾内におけるテロ行為を防止し、犯罪行為・テロ行為に対処するために緊急配備することのできる専門の海上安全警備チームを結成する。
 
 Sec.118―米国港湾で利用する犯罪・テロ防止、検知技術の研究開発費用の75%を連邦政府が負担する。
 
 Sec.119―50 U.S.C.(United States Code Title 50、米国法典)195の領海(territorial waters)の定義を改め、1988年12月27日の大統領宣言5928に記された領海のすべての海域を含める。当該大統領宣言は、領海を米国本土の基準線から12海里に拡大し、プエルトリコ、グアム、米領サモア、米領バージン諸島、北マリアナ諸島を含むものである。タイトル50のセクション195は、12海里を特定していない。更に、50 U.S.C.192を修正し、米国領海内を航行する船舶に適用される法令や規則に適合しない船主、船長、船員に民事罰を科する。
 
 Sec.120―宣戦布告または、国家的危機に際しては、USCGの人員削減または、職種別定員制限の計画を延期する。
 
 Sec.121―次の報告書の議会への提出を義務づける。(1)港湾保安の現状と港湾保安措置の変更の勧告についての年次報告書、(2)海上保安とテロリズムに関する年次報告書、(3)海上保安専門家の訓練・資格認証プログラムの開発についての年次報告書、(4)2004会計年度予算案に添付する、沿岸海事施設に対するテロの脅威を緩和するための統合訓練施設の設置に関するUSCGの報告書
 
 Sec.122―船舶トン税の徴収について、4年間の延長(re−authorization)を認め、その税収を港湾及び海上保安強化事業の費用の相殺に用途指定する。
 
 Sec.123―本法案の用語定義
 
 Sec.201―1974年外洋港湾法の適用対象を拡大し、天然ガスを含める。
 
 Sec.202―港湾又は海上テロの防止、対応のために、船上及び、公共・商業構造物において、武器を携帯したUSCG職員をシーマーシャルとして任用する。この目的のために、今後5会計年度にわたり年間1,300万ドル、その後3年間に更に3,900万ドルの予算権限を認める。
 
 Sec.203―運輸長官に、海上犯罪とテロの防止及び対応のための国家海上輸送保安計画を作成、公表することを義務づける。当該保安計画には、連邦、州、地方自治体機関の間でどのように義務と責任を調整(コーディネート)するかを盛込み、それぞれの地域でコーディネーターとしての役割を果たす連邦政府担当者を指定し、使用する手順及び手法を定義しなければならない。
 
 Sec.204―地域海上保安委員会(Area Maritime Security Committees)を設立し、国家海上輸送保安計画に適合した地域海上保安計画を策定する。それぞれの地域計画は、運輸長官に提出され、承認を受けなければならない。
 
 Sec.205―運輸長官は、米国港湾に入港する船舶の保安計画及びプログラムの要件を制定する規則を発布することができる。Sec.205 は概括的なものであり、執行すべき具体的な要件の策定は運輸長官に任されている。この目的について年間200万ドルの予算権限が認められ、今後3年間に600万ドルの予算が認められる。
 
 Sec.206―港湾水路安全法に従い運輸長官が収集した保安関連情報については、国民への開示義務を課さない。
 
 Sec.207―財務長官、運輸長官は合同タスクフォースを設立し、次の目的のシステム開発を行うこととする。(1)貨物盗難、不正開封(tampering)を制限し、(2)GPSを利用して、特に保税貨物について重点的に、米国内における貨物の動きを追跡する。また、保税コンテナ封かん・施錠の性能基準を設定する。
 
 Sec.2080―運輸長官は、司法長官と相談の上、米国港湾に入港する船舶の乗員に、運輸長官が必要と認める身分証明書を携帯し、要請があればこれを提示することを義務づける。







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