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9−2−3. 水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)の吸着性について
 現在までに判ってきた内容を下記する。
 水酸化カルシウム(Ca(OH)2)は、カルシウム系の物質でCO2を吸収する物質の代表例である。
 その反応は、前記のリチウム複合酸化物とは異なり、可逆反応では無い。その反応式を下記する。
 
Ca(OH)2+CO2⇒CaCO3+2H2O+27.0kcal
CaCO3⇒CaO+CO2−39.6kcal
CaO+H2O⇒Ca(OH)2+15.3kcal
 
 炭酸カルシウム(CaCO3)は石灰石の成分でもあり、900℃に加熱すると酸化カルシウム(CaO)とCO2に分解する。分解した酸化カルシウムは水と反応し、出発原料の水酸化カルシウムを生成する。
 炭酸カルシウム(CaCO3)自体には、水の存在下でCO2の吸収放出の可逆反応が存在する。
 
CaCO3+H2O+CO2⇔Ca(HCO3)2
 
 上記反応の可逆平衡は、二酸化炭素の分圧により大きく移動する。自然界における石灰石の沈降、溶出(鍾乳洞の生成)は、この反応に支配される。
 収率や反応温度に関しては現在調査中であるが、自然界に存在していることから収率は低い可能性がある。
 
出典「化学大辞典」
 
9−2−4. まとめ
 CO2の吸収、放出の可逆反応で、工業的に二酸化炭素(CO2)の捕集、精製に利用されている反応式を下記に示す。
 
2HOC2H4NH2+H2O+CO2⇔(HOC2H4NH3)2CO3
β−アミノエチルアルコール 炭酸β−オキシエチルアンモニウム
 
 この反応は、リチウム複合酸化物と同様に低温では右辺へ、高温では左辺へ反応が進行する。この反応は現在一番効率が良いとされている方法である。
 前記のリチウムシリケートの文献には、ジルコニウム酸リチウムとリチウムオルトシリケートとβ−アミノエチルアルコールの比較が掲載されており、内容を整理すると、下表9−3のようになる。
 
表9−3 CO2吸収量の比較
物質名 重量増加割合 吸収温度 放出温度
ジルコニウム酸リチウム 23% 300℃以上 700℃以上
リチウムオルトシリケート 35% 700℃以下 720℃以上
β−アミノエチルアルコール 10% 不明
 
 表9−3に示すように、リチウムオルトシリケートのCO2吸収量が一番多いことが判る。水酸化カルシウム(Ca(OH)2)、炭酸カルシウム(CaCO3)の吸収量は、不明であるが、工業的に利用されているβ−アミノエチルアルコールよりも低いと予想される。したがって、現段階では、本研究に用いるCO2の吸収、放出材としては、リチウムオルトシリケート(Li4SiO4)が良いと判断する。また、システムとしてCO2の吸着、脱離させるためには、300℃吸収、700℃離脱のジルコニウム酸リチウムが良い。
 
9−2−5. 二酸化炭素吸収材の入手性に関して
 文献情報により収率が高いと言われているジルコニウム酸リチウムとリチウムオルトシリケートの入手性について調査を行った。
 
1)ジルコニウム酸リチウム(Li2ZrO3)
 化学大辞典等に掲載されていない物質ではあるが、薬品会社等の販売リストに掲載されており、国内外も含め、下記3社が取り扱っている。
 
A. ミック社(ドイツ)製:在庫のみ販売中(原料が無く製造できないとのこと)
B. 高純度化学研究所製:7〜10日納期にて対応可能
C. アルドリッチ社(USA)製:2週間で輸入可能
 
 但し、文献情報に記載されていた炭酸カリウム等を添加する方法について調査を進める必要がある。
 
2)リチウムオルトシリケート(Li4SiO4
 この物質に関しては、薬品会社等の販売リストにも掲載されていない物質であった。リチウムメタシリケート(Li2SiO3)は、一般的なリチウムシリケートとして高強度ガラス等に添加されている物質である。身近な例としては、結晶化ガラスの成分として、「コレール」という商品名で落としても割れない食器として販売されている。
 リチウムオルトシリケート(Li4SiO4)に関しては、薬品会社では無く「芦屋リチウムコーポレーション」で扱っているという情報も有り、現在確認をしている段階である。
 
9−3. CO2の吸着、離脱反応について
9−3−1. 経緯
 CO2吸着・離脱装置の製作方針とその実験の経過、及び今後の進め方について述べる。基本的な工程を下図9−6のフローチャートに示す。
 
図9−6. CO2吸着、離脱剤開発のフローチャート
 
1)ジルコニウム酸リチウム(Li2ZrO3)の製法
 ジルコニウム酸リチウムは、薬品会社で市販されているが、その吸収性能は不明である。
 また、市販品は粉体で供試されているが、文献情報から作製することも可能である。
 粉体として作製することは安易であるが、膜等の固まりを作製するにはさらに工夫が必要となる。したがって、粉体を用いて実機品を作製することを考慮する必要がある。粉体を用いる場合には、その粉体の粒径(表面積)が吸着性能に及ぼすと考えられる。したがって、粉体の粒径による影響を調べる必要がある。
 また、文献情報によるとCO2の吸着量を大きくするためには、炭酸カリウム(K2CO3)の添加が必要であるとされており、その効果も検証する必要がある。
 
2)多孔質体へのジルコニウム酸リチウムの接着
 CO2の吸着、離脱反応に用いるジルコニウム酸リチウムは、吸着・離脱が吸熱反応であるため、開発中の多孔質体を用いた高効率熱交換器と合わせて使用することが必要である。
 高効率熱交換器の多孔質体の表面上に、ジルコニウム酸リチウムを何らかの形で接着する必要がある。接着方法としては、ジルコニウム酸リチウム粉体をスラリー状にして多孔質体にコーティングするコーティング法と、バインダーを用いて粉体を多孔質体に接着させる接着法と、多孔質表面に膜として形成させる製膜法が考えられる。接着法や製膜法では焼結が必要であり、その時の焼結温度は1200℃という場合もあり、多孔質体の接合温度の1000℃を超えてしまうため、当面はコーティング法を用い接着することとした。







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