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9. CO2の吸着、離脱装置の検討と実験
9−1. 目的
 排気ガスからCO2を回収するためにはゼオライト、または活性炭素の気孔部分にCO2を吸着させ、この吸着材を加熱し、CO2を離脱させる事が考えられた。この方法では吸着時に排気ガスの圧力を増加させる事、排気ガス温度を100℃以下にする必要がある。排気ガス温度は熱交換器などを用い下げることが出来るがガス圧を上昇させるためには加圧ポンプ等のエネルギーが必要なので、そのエネルギー消費を少なくする工夫が必要であり、困難な方法である。また、吸着方法ではなく、ジルコニウム酸リチウムとCO2を化学反応させ、ジルコニアと炭酸リチウムに変化させる方法がある。ジルコニウム酸リチウムは300℃でCO2と反応し、炭酸リチウム、ジルコニアに変化し、700℃でCO2を開放する性質が知られている。この材料の特性を調査すると共に、この材料を用いて温度制御だけでCO2の吸着、離脱を行わせる事を試みる。
 
9−2. 吸着、離脱剤の選定
 文献調査を行っていくと、現在、CO2の吸着、脱離の可逆反応を行う代表的な物質としては、下表9−1の3種を挙げることができる。
 
表9−1 CO2の吸着、脱離の可逆反応を行う代表的物質
物質名   重量増加割合 吸着温度 脱離温度
(1)ジルコニウム酸リチウム Li2ZrO3 固体 23% 300℃以上 700℃以上
(2)リチウムオルトシリケート Li4SiO4 固体 35% 700℃以下 720℃以上
(3)β−アミノエチルアルコール HOC2H4NH2 液体 10% 不明 
 
 (1)、(2)は本改質装置の開発のため、文献より探し出した物質であり、(3)は工業的に二酸化炭素(CO2)の捕集、精製に利用されている物質である。
 
 各々の可逆反応の化学式を下記する。
 
(1)Li2ZrO3+CO2⇔ZrO2+LiCO3
(2)Li4SiO4+CO2⇔Li2CO3+Li2SiO3
(3)2HOC2H4NH2+H2O+CO2⇔(HOC2H4NH32CO3
β−アミノエチルアルコール 炭酸β−オキシエチルアンモニウム
 
 CO2吸着による重量増加割合を比較すると、(1)、(2)のリチウム複合酸化物は、吸収力に優れていることが解る。さらに、(1)と(2)を比較すると、(2)のリチウムオルトシリケートの方が吸着力に優れているが、脱離はより高温側へ移動している。
 従って、本改質装置に用いる場合、吸着、脱離を確実に実行させるため、脱離温度に差があるほうが望ましい。また、リチウムオルトシリケートは製造業者が存在せず、ジルコニウム酸リチウムは薬品会社から入手可能でもある。したがって、ジルコニウム酸リチウムを選択し、開発を進めることとする。
 
9−2−1. ジルコニウム酸リチウム(Li2ZrO3)の吸着性について
 ジルコニウム酸リチウムの吸収反応は、上記(1)に示す反応式で表される。この反応は可逆反応であり、700℃付近を境に低温側ではCO2と反応して酸化ジルコニウム(ZrO2)になり、高温側ではCO2を放出してジルコニウム酸リチウムに戻る。
 この反応は、リチウム複合酸化物とCO2が反応して酸化物と炭酸リチウムが生成するが、本システムに要求される十分な反応速度、可逆反応の継続性、耐被毒性が得られるリチウム複合酸化物は現在のところ、ジルコニウム酸リチウムだけと考えられる。
 ジルコニウム酸リチウムは、酸化リチウムと酸化ジルコニウムを複合した粉末状の物質で、図9−1に示すように酸化リチウムが酸化ジルコニウムの粒子から出入りすることでCO2の吸収と放出が繰り返し進行する。
 この物質を用いて多孔質体を形成して、CO2と500℃付近を接触させると内部の酸化リチウムがCO2と反応を起こし、炭酸リチウムの形態で多孔質体の微細孔に貯えられる。温度を700℃以上にすると、可逆反応により炭酸リチウムが分解し、CO2を放出して元に戻る。
 
図9−1. 反応モデル図
 
図9−2. 炭酸カリウムの添加効果
(LZ:ジルコニウム酸リチウム)
 
 但し、この可逆反応には、工夫がされている。図9−2に示すように、純粋なジルコニウム酸リチウムでは、炭酸リチウムの融点が約730℃であるため、500℃ではCO2と反応し生成した炭酸リチウムの表面が固相となるので、内部のジルコニウム酸リチウム分子はCO2と反応し難くなる。
 そこで、炭酸カリウム等を添加しておくことで、この融点を下げ、500℃付近で炭酸リチウムを液相にしておくことにより、内外の拡散反応が起き、すべてのジルコニウム酸リチウムを反応に参加させることが可能となる。この手法により、CO2との反応性が飛躍的に向上した。
 
図9−3 吸収反応の温度依存性(CO220%)
 
図9−4 吸収反応の分圧依存性
 
 図9−3は最初の180分をCO2の吸収温度、その後の180分を放出温度に保持しようとした時での熱重量分析装置(TG)の重量変化を示す。CO2吸収に相当する重量増とCO2放出に相当する重量減が確認できる。この傾きは反応速度に依存しており、温度のみならず、CO2分圧、素材の組成、多孔質体形状等の条件に依存している。
 図9−4に示すように、吸収温度を500℃一定として、TGに流すCO2分圧変えると分圧と共に反応速度が大きくなり、高圧条件での吸収反応がより有利であることを示している。
 
9−2−2. リチウムシリケート(Li4SiO4)の吸着性について
 前記の開発を行っている(株)東芝の研究の続きで、ジルコニウム酸リチウムよりも収率が良いリチウムシリケート(Li2SiO4)について報告がなされている。
 ジルコニウム酸リチウムのCO2吸収、放出の可逆反応は、リチウム複合酸化物とCO2が反応して酸化物と炭酸リチウムが生成すると一般化して考えられる。
 そこで、いくつかの酸化物との組合せについて、反応式の自由エネルギー変化ΔGの計算を行い、表9−2に示す7つの候補材を選択した。
 その中から、吸収量とコストの観点からリチウムシリケートに着目し、試験を行った。
 
Absorbent Formula weight
(normalized)
Oxide Equilibrium
temp./℃
Li2ZrO3 153.1 (1.00) ZrO2 715
2LiFeO2 189.6 (1.24) Fe2O3 510
2LiNiO2 195.3 (1.28) Ni2O3 No data
2LiAlO2 131.8 (0.86) Al2O3 348
Li2TiO3 109.8 (0.72) TiO2 315
Li2SiO3 90.0 (0.59) SiO2 243
Li4SiO4 119.8 (0.78) SiO2 445
 
 熱重量分析装置(TG)を用い、重量変化を観察した結果を図9−5に示す。100%CO2を300ml/minで装置内に導入し、900℃まで5℃/minで昇温した結果である。
 
図9−5 TG曲線(100% CO25℃/min)
 
 リチウムシリケートの2種の化合物のうち、リチウムメタシリケート(Li2SiO3)は重量変化を示さないが、リチウムオルトシリケート(Li4SiO4)は、700℃までに35%の重量増加を示し、約720℃で重量減少が開始され、元の状態に戻っている。
 どのような反応が生じたかを明らかにするために、X線回折により、吸収前、吸収後、放出後の構成相を同定した。その結果、下式が起こったものと判断した。
 
Li4SiO4+CO2⇔Li2CO3+Li2SiO3
 
 ジルコニウム酸リチウムとリチウムオルトシリケートのCO2吸収特性の比較を行った。20%CO2ガスを300ml/minで導入し、500℃で3時間保持した。
 その結果、ジルコニウム酸リチウムは約20%の重量増加を示したのに対し、リチウムオルトシリケートは約30%の重量増加を示した。吸収初期におけるTG曲線の傾きを比較したところ、吸収材1g当たり、ジルコニウム酸リチウムで約1.8mg/minのCO2を吸収するのに対し、リチウムオルトシリケートでは、62mg/minであることが確認された。
 すなわち、ジルコニウム酸リチウムに比べてリチウムオルトシリケートは、約30倍の速度でCO2を吸収できることになる。さらに、リチウムオルトシリケートはジルコニウム酸リチウムが対応できなかった低濃度域でのCO2吸収が可能である。リチウムオルトシリケートは、室温・大気中でもCO2吸収による重量増加を確認している。
 
出典:「新しい炭酸ガス吸収材:リチウムシリケート」
日本エネルギー学会誌、80(8)、p781〜783、2001







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