7−2−4. 従来の方法を用いたガス間の熱移動の検討
本開発にて実施する燃料改質装置では、改質に用いる天然ガスを改質装置の入口から注入し、直ちに改質反応を行わせたい。その改質反応は吸熱なので効果的に改質させるようにするため熱的検討をすると、改質装置に天然ガスが入った時、既に改質ガスの温度が改質に必要な温度条件に到達していなければならない。
熱交換器の性能として良く知られている高温流体と低温流体の並流式と向流式では、向流式が性能として優れている。しかし、今回の燃料改質装置では、高温改質側に天然ガスと炭酸ガスが、低温側ではCNGと水蒸気を改質反応させる様になっているので段階的に反応が起こり、反応が終了した後の改質ガスが更に反応を進化させない様にしなくてはならない。
又、通常の熱交換器の様に高温ガスから低温ガスにエネルギーが伝導される構造と異なり、低温ガス側では燃料改質反応により温度が低下、又は一定に保たれ、高温排気ガス側では吸熱による熱伝導、伝達により温度が低下する。従って、向流方式の様に低温側の作動流体の温度が低温から徐々に高温になると、上流で加熱による温度上昇と改質反応に必要な熱エネルギーが多量に必要となり、伝熱量が不足し、改質量が十分に得られない。
本開発での改質装置では、改質ガスの温度を向流方式により、一旦上昇させ、その上昇した燃料ガスを並流式の改質装置に注入して改質反応を促進させる。
図7−1、7−2にその概念図を示す。
図7−1 向流式熱交換器を用いた場合の温度変化
図7−2 並流式熱交換器を用いた場合の温度変化
熱交換器では、伝熱側と受熱側の熱伝達率の大きさによってその交換効率が決まる。熱伝達率の計算は、(1)〜(3)式に示される様に流体のヌセルト数、レイノルズ数、プラントル数によって決まる。
多孔質材の熱伝達率の計算式
(1) |
式は、気体の熱伝導率、ヌセルト数によって示される熱伝達率である。 |
(2) |
式は、レイノルズ数、プラントル数、円柱群に衝突する流体のヌセルト数に及ぼす係数をパラメーターとして実験により求めた実験式であり、多くの実験により求められた相関データをベースに係数CHを求めると、CH=1.54となる。 |
(3) |
式は、レイノルズ数で速度、動粘性係数で示される値である。従って、この式を用いて順次計算すると、熱伝達率が求まる。 |
熱交換器の熱通過率は、伝熱側と受熱側の熱伝達率によって決まる。通常のフィン式熱交換器でも従来、多くの検討が成され、熱伝達面積の効果を組み込んで計算する方式が確立されている。即ち、熱通過率の計算では隔壁の伝熱面積を基準に熱通過率を求めるが、隔壁の熱伝導率の熱通過率に与える影響は余りに小さく、多くの例では、その値を省略する。
従って、熱交換器の熱通過率を増大させるために、フィン等を付設してその交換性能を向上させる例が発達して来たが、その場合、熱通過率と熱伝達率の修正を次式の様に行っている。
(機械学会編、伝熱工学資料 P246)
K |
:熱通過率 |
:W/m2・K |
h1 |
:内径側熱伝達率 |
:W/m2・K |
h0 |
:外径側熱伝達率 |
:W/m2・K |
λ |
:熱伝導率(管材) |
:W/m・K |
di |
:内径 |
:m |
do |
:外径 |
:m |
Af |
:フィン部表面積 |
:m2 |
Φf |
:フィン効率 |
:− |
Ab |
:フィン間谷底部面積 |
:m2 |
Ar |
:基準面積 |
:m2 |
上記式では基準面積Arに対し、熱伝達面積と効率を積算した表面積が熱伝達率を大きくする効果があることを示している。
コンパクト熱交換器は、伝熱面積をコア部体積で除した値が、700m2/m3以上ある場合を云い、本熱交換器の多孔質材はその値が、1500m2/m3以上ある極めて高性能な熱交換器と云える。
(機械学会編、伝熱工学資料P244)
さて、上記の結果に基づいて、改質装置の設計検討を実施する。
天然ガス側の物性値
・プラントル数 |
:0.8 |
・熱伝導率 |
:0.049W/m・K |
・動粘度 |
:40×10−6m2/S |
・比熱 |
:2.53kJ/kg・K |
・比重 |
:0.489kg/m3 |
・CH4ガス通路断面積 |
:0.0015m2 |
|
|
以上より、 |
Re数を計算すると |
Re=46500 |
|
Nu数は |
Nu=220 |
|
熱伝達率は |
αg1=36W/m2・K |
排気ガス側
・プラントル数 |
:0.71 |
・熱伝導率 |
:0.051W/m・K |
・動粘度 |
:60×10−6m2/S |
・比熱 |
:1.06kJ/kg・K |
・比重 |
:0.504kg/m3 |
・排気ガス通路断面積 |
:0.003m2 |
|
|
以上より、Re数を計算すると |
Re=66500 |
|
Nu=261 |
|
αg2=39.15 |
熱通過率を面積分で修正するとその修正値を5倍とし、計算する。
次に熱交換器の性能を評価すると、メタンの熱吸収について検討する。メタンガスを50℃から600℃まで上昇させるものとして必要な熱量は
550×23.7×0.9×2.29=26,865kJ
排ガスの熱放散量を同一とすると、排ガス温度750℃であるので、次式より出口温度を求める。
(図7−3)
26,865=120×1.018×(750−θ2)
θ2=530℃
ここで |
Q:交換熱量 |
:W |
|
K:熱通過率 |
:W/m2K |
|
ΔT:平均温度 |
:K |
|
A:熱交換器面積 |
:m2 とし、必要熱通過面積を計算する。 |
Q=7463W
=93.5×284×A
=0.28m2 の熱通過面積を必要とする。
図7−3 排気ガスとCNGの温度
以上の検討より、次の事が明らかとなった。
(1) |
熱交換機能を用いる燃料改質装置では、改質燃料を向流式熱交換器にて改質に必要な温度まで上昇させた後、並流式熱交換器兼改質装置で改質反応をさせる方式が良い。
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(2) |
多孔質金属材を高温側と低温側ガスの熱交換部に用いると、伝熱面密度(伝熱面積/体積)が、1500m2/m3
となり、コンパクト熱交換器の規定値(700)をはるかに超える。
|
(3) |
多孔質金属材をガス交換部に用いた熱交換器の熱通過率は、85〜100W/m・Kとなり、コンパクト熱交換器の基準量50W/m・Kを超えている。
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(4) |
改質ガス燃料であるCNGを50℃から600℃まで加熱し、改質装置に送り込むためには、排気ガス120kg/H、750℃(全量の約2割)が必要で、熱通過面積0.28m2以上が必要である。
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(5) |
コンパクト熱交換器の作製のためには、レイノルズ数を増大させ、熱伝達率を向上させるより、熱伝達面積を大きくし、熱交換部分の材料の熱伝導率を大きくする事が効果的である。
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(6) |
改質装置の熱交換部は、多孔質材の熱伝導率が大きな金属を被覆し、隔壁との距離を小さくし、熱交換効率と温度差を小さくする必要がある。低温度排気ガスと蒸気の熱交換器は銅製多孔質材を用いる検討を行う。
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(7) |
多孔質材は、高温ガスが接触して加熱された場合、輻射効果により、3〜4割伝熱量が増加する報告があるので、この効果について確かめる必要がある。 |
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