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5−8. 天然ガス改質エンジンの制御系について
5−8−1. 目的
 初期では図5−25図5−26の様な制御系全体の構成を考案したが、具体的に制御装置を作製するためには、個々のエンジン制御用のセンサ及びアクチュエ−タについてその特性上のマッチングを図る必要がある。そこで今回は制御系部品の中でも、とりわけ高精度を要求される燃料噴射弁用の電磁ソレノイド式のアクチュエ−タの特性を明らかにすると同時に試作品の性能確認を行った。そのため図5−25の制御システムのブロックR〜W部及び図5−26の該当回路部分に基づいて回路製作を行ったが、回路定数の変更など実用に供試出来る修正を実施した。
 
5−8−2. 燃料噴射弁の構造と原理
 現状の本エンジンに設けられている主室燃料噴射弁、副室燃料噴射弁の駆動は、カム軸に設けられた位置センサの出力を基に図5−27の様な構造をもつソレノイドを励磁駆動することによって行われる。
 このソレノイドにおいてコイルに励磁通電されると、プランジャが図示のような向きに吸引され、その吸引力は磁束密度の二乗に比例して発生する。またスプリングによって吸引方向と逆方向に力が作用し、励磁コイルに電流が通電されていない状態では、シャフトが矢視と反対に動かされ燃料噴射弁は閉じる。
 
図5−27 燃料噴射弁用ソレノイドの構造(主燃料室弁用ソレノイド)
 
5−8−3. 燃料噴射量の制御方法
 燃料の供給量は燃料噴射弁が開いている時間と面積によって決まるので、燃料の供給量を制御するためには、エンジンの運転条件に応じて変化する通電時間をその要求量に応じて調整しなければならない。また通電されてから実際に開弁するまでのむだ時間である無効時間と、通電が遮断されてから余分に開弁されている時間が存在することから、制御装置が出力すべき通電時間としては、初期遅れ時間を考慮し、且つ過剰開弁時間を少なくする為、その制御系について下式により予測制御を行わなければならない。
TINJ=TP+TS−TO
 ここでTINJ(ms)は燃料噴射開始時期から通電を終えるまでの正味噴射通電パルス幅、TP(ms)はアクセラレ−タからの要求に応じて演算し、決定される基本燃料噴射パルス幅、TS(ms)は初期遅れパルス幅、TO(ms)は過剰噴射パルス幅をそれぞれ示す。なおこれらTS、TOについてはソレノイドの吸引力や通電遮断後の磁力の減衰特性に大きく依存するため、ソノレイドの励磁駆動を行う駆動電圧に応じた補正量の付加を、考慮しなければならない。図5−28にこれらのタイミングチャ−トを示す。
 
図5−28 燃料噴射弁の開閉タイミング
 
5−8−4. 燃料噴射弁の応答性についての確認結果
(主室燃料噴射弁)
 今回の試験においては、燃料噴射弁単体での特性評価を十分に行う為、エンジンを停止した状態で、制御装置からの出力パルスに相当するパルス状の擬似信号を外部より与え、更に機械的な変位量を電気信号に変換し、これらのタイミングを観察する方法により動作確認試験を行った。
 ソレノイドの駆動電圧を24Vとした時の代表的な応答波形を図5−29−1、5−29−2に示す。この図からも判るように、初期遅れパルス幅TSが43ms、過剰噴射パルス幅TOが32msと共に大きく、例えば本エンジンを500rpm相当の低回転で運転するときは吸気工程時間が60msであり、定常運転ならば追従できるが、1500rpm相当の高回転での運転においては吸気工程時間が20msであるので、初期遅れ時間、過剰時間を補正し追従させることは殆どできない。
 先にも説明したように、初期遅れパルス幅と過剰噴射パルス幅については、ソレノイドの励磁駆動を行う駆動電圧の影響を受けることから、駆動電圧を48V、60Vと変化させてその変化を検証した。このときの応答性の変化を図5−30に示す。この図から判るように48V、60Vと駆動電圧を上昇させれば、励磁電流が大きくなることによって電磁吸引力が増し、無効噴射パルス幅が短縮化できる反面、励磁電流が大きくなったことによりインダクタンスに蓄えられる磁気エネルギ−が増し、励磁電流を遮断した後、電磁吸引力が残留し、ばねの復元力が打ち勝って弁体が閉じるまでのタイミングが遅れる現象が発生する。この駆動電圧の高電圧化に伴う過剰噴射パルス幅の増加を減少させるため残留磁力の影響を空気の減磁性を用いて消去するために、ソレノイドのプランジャ部とベ−ス部との間に設けてあるエアギャップスペ−サの肉厚を厚くすることによって、その影響を緩和することが可能だと考えられる。(図5−27参照)従って当面のエンジンの運転評価にあたっては、駆動電圧の高電圧化とエアギャップスペ−サの肉厚の見直しをセットで行う方向で進める。
 
(副室燃料噴射弁)
 主室燃料噴射弁と同様の方法によって、応答性の評価を行った。ソレノイドの駆動電圧を28Vとした時の代表的な駆動波形を図5−29−2に示す。この波形からも判るように初期遅れパルス幅TSが11ms、過剰噴射パルス幅TOが18msと主室燃料噴射弁に対して約1/3と小さく。開閉のタイミングをエンジン運転の予測制御によって最適に調整すれば、1500rpm相当の運転までは、良好な応答性を保つことができると考えられる。
 
5−8−5. 考察
 今回の評価確認により、本エンジンを1500rpmの高速で運転する為には、主燃料噴射弁用ソレノイドの改良を行う必要があることが判った。この様な初期遅れパルス幅分と過剰噴射パルス幅分を生じる根本の原因としては以下である。
1) バルブ駆動力を十分に大きくできるソレノイドでは、駆動シャフトと磁路吸着剤の体積が大きく、その質量が大きいので、十分に大きな加速度を得ることができない。
2) 吸引力を大きくするためには、ソレノイドの巻き線数を大きくしなければならず、巻き線数が大きいとリアクタンスが増し、残留磁界が大きくなる。
3) 主燃料供給バルブの大きさが大きいので、その駆動質量が大きく、この大質量を駆動させるため大型ソレノイドが必要とされる。
 
5−8−6. 対策
 以上を踏まえて、主燃料噴射噴射弁の駆動システムに関して、以下の様な対策を検討する。
1) ソレノイドバルブで使用している軟鉄製の吸着材は透磁性が低く、飽和磁束密度が極めて小さいので、大型にならざるを得ない。そこで、材質を飽和磁束密度の極めて大きいパ−マロイ材等へ変えることによって、小型で且つ大きな吸引力を得るソレノイドを作ることが出来る。
2) ソレノイドには、大きな巻き線数を持つものを用いず、巻き線径を大きくし、励磁電流を大きくする事によりリアクタンスを小さく出来る。また作動が終了後、逆電流を流す方法によって、残留磁界を消すことが出来る。
3) 主燃料弁の小型・軽量化を施し、加速度を大きくする。
 
図5−29−1 主室燃料噴射弁の駆動波形
 
図5−29−2 副室燃料噴射弁の駆動波形
 
図5−30 燃料噴射弁の応答性(主室燃料噴射弁)







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