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5−6. 副室制御弁の温度低減について
 これまでに副室制御弁のシール部分の温度を低下させる方策について検討した。この中では副室制御弁の受熱部の面積を小さくすること、シール部と受熱部を遠ざけることが良いとの考えを示し、伝熱計算を行った結果、約100℃の温度低減効果があることが判った。
 しかし、この部分の温度低減については従来からの懸案事項であり、このエンジンシステムでの最大の欠点であるので、より効果がある方法を考案することとし、検討を行った。
 
5−6−1. 副室制御弁の温度低減
 この副室式エンジンの構造上の特性は次の項目が上げられる。
(1) 副室に圧力の低い(最大0.6MPa)CNGを供給し、ディーゼル燃焼させる事が出来るので、CNGを従来方式の高い圧力(15MPa)に圧縮する必要が無い。
(2) エンジンの負荷変動に関わらず、濃混合気を持つ副室から確実に着火できるので燃焼が常に安定する。
(3) 主燃焼室で酸素濃度を低減させ、希薄、均一混合気を作成し、ディーゼル燃焼させる予混合圧縮着火エンジンの着火源となる安定火炎領域を準備できる。
(4) 天然ガスは自着火温度が高いので副室に封入し、制御弁の開放とともに空気と混合させる時、主室の希薄混合気が副室の奥に侵入する時間的余裕が存在する。
(5) 副室制御弁の開弁タイミングを変えることにより、始動性を高める事が出来る。
 
 以上の特典に対し、この副室制御弁の最大の欠点は温度が上昇しすぎ、軸部の摺動に問題が生ずる。
その対策としては摺動部分の温度を低減させる事に尽きる。
ステム部の温度低減の方法は以下の方法が考えられる。
a.熱伝導部の伝熱面積を減少させる。
b.熱伝導部の受熱部と放熱部の距離を大きくする。
c.熱伝導率の小さな部材を選択する。
d.伝熱経路に熱伝導率の小さな気体を挟む。
 
 先に副室制御弁の温度について計算検討したがその計算に基づいて設計検討を実施した。現在用いている副室制御弁では排気ガスの平均温度670℃、副室制御弁の摺動部の温度200℃とし、計算すると副室に隠れるステム部分の温度が600℃となる。この条件でシールリングが取付けられた部分の温度を計算すると267℃になる。
 
 副室制御弁のステム部の熱伝導率を従来材の1/5 まで小さくすると熱通過率は1/4 に減少し、上記副室に隠れる部分のステム部温度が650℃、シールリングの取り付く部分の温度が168℃となり、その温度低減効果が100℃になった。
 前記のように熱伝導率を小さくする為に図5−20に示す構造の組立て制御弁を考案した。
 
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図5−20 副室制御弁の構造
 
図5−21 組合せ構造により、熱伝導率性を小さくした副室制御弁
 
 図の組立て式副室制御弁の構造について説明する。(1)副室制御弁本体の軸径は燃焼室に露出している部分のステム径が11mm、副室の取り付け穴に隠れる部分の軸径はネジ加工され、谷底の直径が6.8mmであるので断面積は38%に減少されている。このネジ部は外形が7.7mmに加工され、嵌合されているがその嵌合部は1/5以下の接触面積で取付けられている。この嵌合部分は100mm以上繋がっていてその部分から設けられた締め付けネジ部で締結され、更に副室制御バルブのステム端部に設けられたインロー部で初めて密着嵌合されている。(2)制御弁のステム外筒は上記ネジ部の加工山に密着嵌合され、制御弁とは耐熱鋼鈑を6枚積層させた遮熱層によって熱流を減少させる。薄板6枚の積層によって熱伝導率は0.26倍に減少するので断面積の減少分とあわせると見掛けの熱伝導率の減少は0.15倍となる。以上の(1)(2)を合算した熱伝導率は元の無垢材の副室制御弁と比較し、1/5程となり、この形状を持つ副室制御弁の摺動部温度は計算により求めた100℃の低減が図れた。図5−21には副室制御弁の温度低減効果を示した。
 一方、この構造を採用するため燃焼室に晒されている部分の温度は約50℃上昇する。そのため、制御バルブの材質は耐熱性の優れたインコロイを用いることにした。
 また、本遮熱形バルブをエンジンに取り付け、試験したところ、ステム部の磨耗、スティックが激減し、その効果が確認された。







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