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5−4. 副室燃料弁作動について
 エンジンの運転において極めて重要な要素は燃料の供給を、量的・時間的に確実に実行することである。また本システムの様に予混合圧縮着火を実行させる場合、その混合比の設定・温度管理が重要である。
 本エンジンの高負荷運転時の燃焼を評価する運転を実施した。その時突然ノッキングが発生することがあった。燃料は副室のみから供給した。このノッキングは約5秒続きまた正常に戻るので、燃料流量を調査すると目標の約2倍流れ、筒内圧波形・熱発生率波形も鋭く立ち上がった。この現象を解明するため副室燃料弁の作動を確認した。
 
5−4−1. 燃料弁の駆動についての検討
 副室燃料弁作動の不具合原因について検討すると次の項目が考えられる。
(1) 燃料弁駆動系の質量とソレノイドの駆動力がマッチングしておらず、異常動作が起きる。
(2) ソレノイドとバネ系がマッチングされていない。
(3) 燃料弁にスティック等の異常が発生する。
 そこで上記不具合を調査するため燃料弁系について順次調査を行った。
(1) 燃料弁駆動系質量m=260g、ソレノイド駆動力F=150Nである。
 この時の加速度αはF=mαより
α=58.8m/s2(=6.0G)となる。
 よって十分な駆動が可能である。
(2) バネ定数k= 0.5kg/mmであるので、固有振動数f=は
f=1/2π・(k/m)0.5
=21.9Hz(=2620rpm相当)
 よって定格回転速度1500rpmでは共振は発生せず十分作動可能である。
(3) ソレノイド動作試験
・ソレノイド単体試験
 試験はソレノイド上部に直動式ポテンショメーターをセットし、ソレノイド駆動電圧とポテンショメーター出力をオシロスコープでモニターする方法をとった。
 但しポテンショメーターを付けるとカバーと干渉しエンジン運転時は試験できないため、任意波形発振器(パルスジェネレーター)を使用しエンジン運転相当の駆動電圧を、ソレノイドに印加して試験した。その結果燃料弁は1800rpm相当まで正常に作動し不具合は発見されなかった。(図5−18)
 下記に駆動電圧とポテンショメーター出力の特性を示す。
 
(拡大画面:57KB)
図5−18 ソレノイドバルブの駆動波形について
 
5−4−2.エンジンでのソレノイド動作試験
 今度は駆動回路側の誤信号有無を確認するため、ポテンショメーターを取り外し、エンジンをモータリングし、信号取り込み用近接センサ出力波形と駆動回路で増幅された駆動電圧波形を、オシロスコープでモニタした。この状態でモータリングを続け不具合状況を再現させた。しかし不具合発生時、近接センサ出力波形及び駆動電圧波形に異常はみられず、正常時と同様の形状であった。
 近接センサ出力とソレノイド駆動電圧波形を示す。(図5−19)
 
(拡大画面:64KB)
図5−19 ソレノイド動作試験
 
 これらの結果により、常温での燃料弁作動追従性は良好、ソレノイド駆動回路にも異常がないことが分かったので、残る不具合要因は高温時の燃料弁の動作不良である。そこで燃料弁付近の温度を再度測定し、摺動部の高温・高負荷時クリアランスを再検討する。
 
5−5.エンジン振動と脈動について
5−5−1.エンジン振動について
 6気筒エンジンの3、4番気筒を用いて試験しているがテストベンチの共振があるため、振動が発生し運転が出来なかったので以前に対策したが、回転を増加させると振動レベルは大きくなり対策が不十分であることが判明した。
 前回の対策ではバランス調整に量産ピストンを使用したのでそのアンバランス量による遠心力を計算した。今回はあらたに重量を試験気筒である#3・4にあわせるべく2ピース構造のピストンを試作し他の4気筒に装着する。下記に各ピストンの重量を示す。
 
ピストン型式 重量
量産型 2.1
#3・4試験品 8.1
新規品 7.0kg
 
 ここでクランクシャフトに加わる力Pを計算する。エンジン回転速度は定格の1500rpmとする。#3・4気筒を基準にすると#1・6気筒、#2・5気筒はそれぞれ120°(2/3π)・−120°(2/3π)の位相ずれがあるので、それぞれの加速度は
α34=aω2sinωt
α16=aω2sin(ωt+2/3π)
α25=aω2sin(ωt−2/3π) となる。
 よって従来のピストン使用時及び新規ピストン使用時のPはそれぞれ
P従=8.1×α34+2.1×α16+2.1×α25
P新=8.1×α34+7×α16+7×α25
 ここでa=145/2mm(ピストンストロークの1/2)、ω=157rad/sec(=1500rpm)を上式に代入しその最大値を求めると
P従max=2188.2kg
P新max=401.2kgと約18%に低減できた。
 新規品は製作都合上1kgほどのずれがあるが、これにより1500rpmまでの運転が可能になった。
 
5−5−2.エンジン吸気脈動
 現在、ラミナーフローメーターを用い、吸気量を計測しているが、低回転時に吸気脈動が発生する。本エンジンは2気筒のみ動かしているため、間欠流による脈動が生じていると考えられる。
 また、高EGR率運転時は吸入空気流量の絶対値が少なくばらつきの影響はさらに大きくなってしまう。この間欠流による脈動対策として、現在使用している200Lのサージタンク内にφ3のパンチングメタル挿入を行った。これにより低回転・高EGR率での空気流量時での安定した測定が可能となった。







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