5−2−3. 損傷状態の詳細
#3気筒
(1)シリンダーライナーが無くなっている状態で、ピストンのみ存在している。(図5−9)
図5−9 シリンダーとピストンの損傷
(2)シリンダーライナー上部のシール用つば部が、ヘッドライナーに密着してしまっている(図5−10)。
本来は、図5−11の#4気筒のように段差がある。
この部分の温度上昇が相当高いことが推定される。
図5−10 ヘッドライナーの損傷
図5−11 ヘッドライナーの損傷
(3)シリンダーライナーは、オイルパン内に図5−12のような形で散乱していた。シリンダーライナー材質は粒状黒鉛鋳鉄であるので、スティックが局部的に発生すると亀裂が拡大し全体が破損する。
図5−12 シリンダーライナーの損傷
(4)シリンダーライナーの上端は図5−13の様にヘッドライナー内に切り取られていた。
図5−13 シリンダーライナー上部の損傷
(5)ピストンヘッドには、ピストンリングの破片と思われる無数の打痕があった。(図5−14)またピストン締め付けナットがゆるんでいた。
ピストンヘッド材質はNi・Cr系のヘインズアロイ材で粘り気があるので破損にいたらなかった。
図5−14 ピストン上部の損傷
5−2−4. 観察結果のまとめ
(1) |
#3気筒は#4気筒より損傷が激しいため、熱負荷が高い状況にあったことが推測される。 |
(2) |
ピストンクラウンのスラスト側に強い当りが生じていた。 |
(3) |
エンジン運転時#4気筒は#3気筒に比べ吸気温度が約10℃高くなっていた。 |
(4) |
EGRガスは#4気筒のほうが入りやすい構造であった。 |
(5) |
エンジン冷却温度設定が高かった。 |
(6) |
燃焼圧波形は#4で測定していた。 |
以上のことを考慮すると以下の原因が考えられる。
シリンダーライナーの損傷はピストン・シリンダー間の温度異常上昇によりピストンスティックが発生し、シリンダーの損傷に至った。本エンジンではシリンダーライナーは粒状黒鉛鋳鉄で、その耐熱性は250℃である。温度上昇の原因はEGRガスが偏っていることである。
・#3気筒のほうがEGRが入りやすいのに測定ツールを#4気筒につけていたため、運転状況は正常と判断した。
・#3気筒は高温EGRガスが導入されたまま運転を続けていたのでノッキングが起こりやすい状況であった。
・燃料流量を増した為筒内温度がさらに上昇し、シリンダーライナー温度が上昇し、ピストンのスラスト方向でのオイル温度が上昇し、油膜が切れ、シリンダーライナーにスティックし、破損に到った。シリンダーライナーが破損したため、ピストンリングも折損してしまったものと考える。
原因
(1)EGR の分配性が悪いので吸気温度差が生じていた。
(2)シリンダーライナー冷却油温度測定が不十分だった。
対策
(1) |
シリンダーライナー外側の温度管理を十分実施し、温度上昇時にはオイル流量を増加させるシステム変更を実施する。 |
(2) |
EGR ガスが加わった後の吸気管内の混合気温度を170℃以下に抑制し、ノッキングの発生を防止する。 |
(3) |
EGR ガスと吸入混合気の攪拌を十分に実行できる装置を作製する。 |
5−3. EGR系の改良について
5−3−1. EGRダクトの改良と均一流量化
従来方式ではEGR投入口は#3・4気筒中央部であるが、吸気入口が#3気筒側に偏っており、またEGRガスと吸気との攪拌が十分できていなかった。
新方式では#3・4気筒分岐上流にEGR投入口を設け、さらにEGRガスと吸気との攪拌性を良くするため、パンチングメタルを追加した。
改良型ダクト
#3・4気筒分岐上流にEGRガスを投入し、攪拌混合されたガスを#3・4気筒に分配する。(図5−15)
図5−15 EGR配管の外観
改良型EGR投入部
吸入空気と攪拌され易いようにパンチングメタル構造を採用した。(図5−16)
図5−16 EGRを均一分配する内部配管
従来型ダクト
#3・4 気筒中央部からEGRガスが入るが、吸気が#4気筒側から入るためEGRガスが#3気筒側に多く流れるため分配性が悪い。
また吸気とEGRガスの攪拌性も悪い。(図5−17)
図5−17 従来方式のEGRダクト
5−3−2. EGR 冷却装置
天然ガスは着火し難いが、一旦着火すると燃焼速度が速くノッキングが起きやすい為、低温に管理されたEGRを増す必要がある。EGRガス温度を下げ、量を多くするためには通路の断面積増大と送風装置の設置、ガスクーラーが必要である。よって新たにEGR配管大型化とEGRクーラーを設置した。
EGRクーラーの妥当性について、熱流について検討した。現在取り付けているEGRクーラーはベースエンジンに付属していたもので6気筒に2ヶ使用されているものである。また本試験ではクーラー用冷却水温を常温まで設定できる用にしたのでEGRガス温度を十分に下げることができた。
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