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5−1−4. 熱発生率とシリンダー内圧力について
 HCCIエンジンでは安定した燃焼の出来る領域が、負荷の増減した場合でも安定して確保される事である。そのためには部分負荷での燃焼が着実に進行し、終了する事、負荷が高くなった場合でもノッキング等が無く、安定して燃焼が持続される事である。そこでターボ過給での条件を想定して、シリンダー内圧力を徐々に上昇させて燃料をその空気量に見合った量を投入し、シリンダー内の圧力変化、熱発生率を調べた。
 図5−6 にその結果を示す。EGR率は30%とし、ブースト圧力を0.013〜0.036MPaと増加させた。
 副室連絡弁はBTDC15度に開弁し、開弁と同時に主燃焼室の圧縮空気が副室に流れ込む。
 副室では燃料弁から供給されたCNGガスが充満しているので、圧縮空気の導入と共に着火し、主燃焼室にその火炎が流れ込む。主燃焼室には吸気管に供給された天然ガスが希薄混合気として存在するので副室の火炎の伝播により、着火し、燃焼を完結する。ブースト圧力が0MPa(NA)では熱発生のピークが低いがブースト圧力の上昇と共に熱発生のピークが大きくなり、ブースト圧力0.036MPaではそのピークが500J/度ほどになるがノッキングは発生しない。
 
図5−6 ブースト圧を変化させた時の熱発生率
 
 次いで、ブースト圧力を0.03MPaとし、燃料を当量比0.7ほどにし、EGR率を変化させた場合、圧力上昇率の変化を観察した(図5−7参照)。EGR量を18%にした場合、熱発生率は極めてシャープに立ち上がり、燃焼期間も短いがEGR量を増加させると熱発生のピーク量は減少し、燃焼期間が長くなる。この場合、副室の開弁タイミングは同じであるがEGR量が多い場合のほうが燃焼の立ち上がりも悪くなり、結果的に良好な熱発生形状になる。以上の試験結果からこのエンジンの燃焼特性が理解された。
 
図5−7 EGR率を変化させた時の熱発生率
 
5−1−5. まとめ
(エンジン出力についてと今後の対応)
 
 遮熱型エンジンを用いて種々の性能調査を実施した。エンジンの燃焼を正常に保ち、エンジン各部の温度上昇を押え、かつ目標とする性能であるPmi=1.54MPaを得るためエンジンの各部のスペックを変更した。主な変更点は副燃焼室の開弁タイミングで、そのタイミングをBTDC15度以内にセットすると熱発生率の立ち上がりをTDC付近に置く事が出来るのでエンジンの性能が良くなり、開弁タイミングをTDC付近に置くと着火点がTDC後に移動し、急激に性能が低下する。図5−8にはEGR率を30%、50%に変え、ブースト圧力を0.2MPaとし、副室バルブのタイミングを変化させて試験した性能結果を示す。図示有効圧1.54MPaでの全燃料流量は、190Ncm3(副室燃料は10〜15%)であるので熱効率は37%と計算され、ほぼ目標値に達成する事が出来た。
 
図5−8 副室開弁角度と平均有効圧
 
 しかし、エンジン試験の途中で種々のトラブルが発生し、本格的開発に際しては構造の改良を要する。以下がその項目である。
 
(1) 副室制御弁は熱伝導性を小さくした複合弁の採用によって大幅な耐久性の向上を実現したが、副室本体の温度が350℃と高いのでオイルによる冷却を行う必要がある。
(2) 燃料弁の磨耗が激しいので調査した結果、水素によるコロージョンが発生した。水素コロージョンに強いのはアルミナイズコーティングであるのでその処理を行う事にする。
(3) 負荷の上昇に従って副室そのものの温度上昇が激しいので、オイルにて冷却を十分に行うと同時に副室燃料を最小に絞る必要がある。
(4) シール性については各部のガスケットをセルフシールとする改良を行い、ほぼ十分なシール性となった。
(5) 潤滑油は入り口部では65℃〜85℃とし、潤滑各部を通過した後、シリンダーなどの冷却に使用するので出口温度は150℃以上に上昇する。従って、冷却通路を出た後、熱交換器にて冷却する必要がある。
 
5−2. 遮熱型天然ガス改質エンジンの試験(不具合と改良)
5−2−1. 不具合部分の改良について
(1) エンジン負荷を定格(1200rpm)まで上げ、その途中でのエンジン内部の問題点を明確にする。
(2) 主室・副室に燃料を供給し、EGRを実施した時の熱発生率を観察し、ノッキング限界を評価する。
特に遮熱エンジンでは主燃焼室・副燃焼室の温度上昇に注意を払う。
シール部材の安定性を評価する。
摺動部材の温度管理を行う。
副室制御弁のスティック・摩耗に注意する。
また熱発生率の平滑化・持続期間の延長を図る条件出しを行う。
(3) ガス燃料投入のタイミング・量を自由にコントロールできる制御系の確立を行う。
 以上を目標として試験を実施した。
 
5−2−2. エンジンを高負荷運転するための試験
 エンジン運転では初期慣らし運転を実施後、除除に負荷・回転を上昇させた。運転条件は以下の通りである。
 
  試験1 試験2 試験3
負荷 1/4 1/2 3/4
回転速度 500
750
1000
1200rpm
時間 30分
燃料条件 副室:10%
主室:残
EGR:15%・30%
 
 上表試験1、試験2終了後、試験3に入り、回転速度を徐々に増加させ1200rpm・3/4負荷で運転後4/4負荷運転に入ったところ、異音が発生したのでエンジンを停止させた。分解調査したところ、#3のシリンダーライナーが粉々に破損しており、ピストンとヘッドライナーにも損傷を受けていた。その状況を以下に示す。
 
損傷状況:#3気筒のシリンダーライナー全損、シリンダーボディに傷、ピストンに無数の傷あり







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