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はじめに
 
 本報告書は、「海洋ビジョンに関する調査研究」の成果を取りまとめたものです。
 
 山地が国土の7割を占め、平地の少ない我が国では、河口域や浅場を埋立て、工業用地や商業用地、住宅地、農地などとして利用するとともに、沿岸域に漁港や港湾を建設し、漁業や海上交通・交易の拠点として利用してきました。また、沿岸海域は、余暇の多様化に伴って、旧来の海水浴や潮干狩りのほか、サーフィン、海上バイク、遊漁の場としても利用されています。一方、沿岸海域の埋立てによる漁場の喪失や、工場排水・生活排水等の海洋への流入と浄化能力の高い干潟の喪失が相俟って海洋環境が悪化し、漁業資源の減少や生態系の破壊など様々な問題を引き起こしています。
 このように多目的に利用され、利害が複雑に交錯する沿岸域では、環境問題も含めてその利用について総合的に調整・管理することが極めて重要ですが、我が国の海洋行政は多数の省庁に細分化されており、総合的な管理が行なわれていないのが現状であります。
 沿岸域を持続可能な形で利用するためには、沿岸域の利用と資源の管理、環境の保護について総合的に取り組む体制を整備し、広い視野から海洋政策に携わる人材を育成することが必要です。それと同時に、海洋の持続的な利用については国民の理解と参加が必要ですが、海洋に対する国民の関心は総じて低く、海洋に関する教育も十分とはいえないといわれています。したがって、国民の海洋に対する理解の向上を図り、国民が海洋との共生について積極的に関心を持つように、海洋に関する教育・啓発、特に青少年に対する海洋教育の拡充を図ることが重要です。
 
 また、我が国は、国土面積38万km2の約12倍にあたる450万km2の排他的経済水域を有し、海岸線の長さも35,000kmに及び、世界有数の海洋国ですが、近年、その長い海岸線では、不審船事件や工作員の侵入、拉致、武器や麻薬の密輸、密入国の問題など、我が国の安全保障を脅かすような問題が多発しています。我が国の安全を確保するためには、海上における警察機能を果たす海上保安庁の役割は極めて重要ですが、近年の不審船の性能の高度化、重装備化や守備範囲の広さなどもあって海上自衛隊との連携の重要性が指摘されています。
 
 以上の観点から、本年度は、沿岸域総合管理、海洋教育および海上安全保障の3つのテーマについて取り組みました。本報告書は、そのうちの「海上保安庁の武力紛争上の地位」について取りまとめたものです。
 本事業の実施にあたって、ご支援いただいた日本財団並びに本報告書の取りまとめにご尽力いただいた、横浜国立大学来生新教授を委員長とする「海洋ビジョンに関する検討委員会」の委員の方々に厚くお礼申し上げます。
 
平成15年3月
SOF海洋政策研究所
所長 寺島紘士







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