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討議概要
Session 4 総合検討会
海賊問題取組みの展開
4-1. 海賊は海洋法条約ではどこの国でも鎮圧できるようになっているが、それぞれの国が処罰できるように国内法でフォローされていない。日本もそうである。だから訴追ができない。海賊の旗国のほうでも海賊を処罰するような法律がないという国がまだある。
 ローマ条約の話だが、日本の場合、日本人が関わっていないと適用できない。国外犯処罰の規定を刑法できちんとフォローしていないと、条約に批准しても何もできないという結果になる。中国はローマ条約も批准し、海賊についても2、3件拿捕して処罰したと聞いている。その後、海賊は東のほうに行かず、全部西のほうに逃げるということで、アロンドラ・レインボー号なども結局インドの西岸で捕まっている。
 
4-2.多くの国で適切な国内法の整備ができていないので海賊の処罰ができない。中国も同様である。ただ一言付け加えると、随分前に政府、特に南部の州において腐敗が進んでいて、実際に海賊行為にかかわっていたというケースもあった。例えば海賊が実は税関の官吏であったとか。当局も問題の重要性を認識し、処罰の厳罰化が始まった。
 
4-3. 2年前に東京で会議を行った経験がある。その中で海賊対策法が日本にはないという話があった。2年たってもそのままのようである。インドネシア、フィリピンではどうなのか。
 
4-4. インドネシアの法的な議論では、武装強盗と海賊ははっきり区別すべきだという主張がある。つまり海賊というのは公海上における行為である。そして武装強盗というのは領海および群島水域内における行為である。海賊あるいは武装強盗を逮捕してインドネシアで裁くための法律はある。では問題は何かというと、実際に地元レベルで法が執行できるか、その能力があるかということである。能力がない、設備がない、予算がない、マンパワーも足りない。法的な基盤がないのが問題で逮捕できないということではない。
 
4-5. フィリピンには海に関する二つの刑法があるが、条件がそれぞれ違う。そしてそれが必ずしも海賊の条件に合わない。法律的には海賊行為であるのにこれを訴追することができない。例えば領海内で行われた行為に対しても、取り締まりができない問題がある。もちろん政治的なものもあるし、最終的には海賊のためになっているということである。非常に基本的な問題がまだ解決されていない。
 
4-6. 海賊行為はいずれかの国の領海内で起こっている。それぞれの領海の秩序維持ということで、沿岸国が取り締まるべき問題である。沿岸国に海賊を抑え込んでいくだけの十分な能力がない場合、どういう形で、沿岸国の領海を通航している船舶を保護し、海賊行為の抑圧に協力していくかである。
 
4-7. 日本では、海賊を処罰する必要があるのに、どうして対応策が採れないかということである。海賊を取り締まる法令が、かってあったかどうか分からないが、少なくとも明治憲法下の刑法では消極的個人主義であったので、日本の船舶が公海上で海賊の被害に遭った場合には、日本として日本国の刑法で処罰することができたと思う。いずれにしても海賊協力協定や、あるいは国際海峡の通航についても航行支援設備など安全航行確保のためのさまざまな協力を、インドネシアやフィリピンなどとさらに進めていく必要がある。
 
4-8. 海賊問題については二つの局面があると思う。一つは、いわゆる一国の管轄海域内での話である。これは一般的には武装強盗と言われている。それから公海上での海賊がある。武装強盗については、その国が何らかの理由で法執行がうまくできないという問題である。この問題にどう対処するかといえば、国際協力あるいは地域協力で法執行ができるように協力することだと思う。
 もう一つ指摘したいのは、海賊というのは実は今の新しい海洋秩序をよく知っている。私どもよりよく知っているかも知れない。それはどういうことかというと、一国の管轄海域から別の国の管轄海域に移ると、管轄海域の境目で追及の手が途切れるということである。我々は国連海洋法条約に縛られるが、海賊は縛られないでむしろそれを利用する。そこに大きな問題がある。特に管轄海域が非常に接している、複雑な地形のところ、マラッカ海峡もその一つである。そこでは海賊は必ずしも公海上に逃げていくわけではない。よその国の管轄海域に逃げ込んだり、よその国の管轄海域から出撃してきたり、別の国の管轄海域で商売して、また別のところへ逃げていくという仕組みである。特に国際シンジケートが関与している場合には、そういうことが非常に多い。
 したがって別な形での地域協力が必要である。特に海賊問題が起こっている海域では、現実にそれも行われている。要するにマラッカ海峡の周辺、海賊の多発海域ではかなりそういう協力が行われている。ただしまだ残念ながら十分でない。この場合には各国の主権を尊重した上でどうやって協力するかということで、単なるキャパシティ・ビルディングだけでないというところに非常に大きな問題がある。
 ただし東アジア海域では2000年から本格的な取り組みが行われている。2000年に東京会議を開いて、各国の海運政策当局と取り締まり当局のトップが集まり、対策を協議した。その後、取り締まり当局の専門家によるエキスパート・ミーティングが2回開かれている。それと並行して地域の海賊協定を作るということで、外交当局が中心になって今やっていると理解している。そういう状況なので何も行われていないわけではないが、基本的に先ほど言った一国の管内の問題と地域的な協力、この二つの面でまだ十分にそれを制圧するだけの効果を上げていないということで、引き続き努力する必要がある。
 もう一つ強調したいのは、国際協力はそれぞれの国の事情を抱えている。それを無視して無理にやるとうまくいかない問題がある。これはいろいろな面で言えるが、例えば日本と東南アジアのいずれかの国とやる場合には、日本の取り締まり当局とその国の取り締まり当局との協力はできるが、相手の取り締まり当局がミリタリー、あるいはネイビーの性格を持っていると、日本はそこでODA上の規制があり、それは憲法までさかのぼり、途端にブレーキが掛かる。その場合にはやり方を変えるか、それとも相手方の受け入れ先を変えるか、いずれかをしないとこの問題はうまくいかない。他の国では海軍かかなり取り締まりの主力になっているので、海軍同士の協力が行われている例も多い。一般的な問題と個別ケースとは区別して議論した方がよい。
 
各種イニシアチブとアピール
4-9. 科学調査の問題についても、日中間においてそれぞれの主張する水域の反対側で科学調査を行なう場合には通報する、同意を求めるという体制ができた。日中の大陸棚あるいは排他的経済水域の境界画定ができなくても、とりあえず科学調査について現に問題を処理するための合意ができた。それに従ってお互い事前に通報するという形で処理がなされていると思う。そういう形で、問題が発生したごとに一歩一歩進めていくことが非常に重要で、そういう積み重ねの中でむしろいろいろな大きな問題、あるいは島の領有権にかかわるような問題も解決されていくだろう。
 そういう解決をしていくためには、ある意味で明るい将来のプランも必要だろうとは思う。しかしそのプランがフィージビリティを持っているかどうかというのは気になるところである。コモン・ヘリテイジも一つ、そういう概念としてはあったらいい。しかしこのコモン・ヘリテイジを有効に管理するのは誰なのだろうか、ということを考えると、現在の国民国家体制、ネーション・ステイツ・システムの中でそういう能力を持つ国、何らかの機関を構成することは非常に難しい。
 海洋法条約もいってみれば国が実効的に、しかも国際社会で受け入れられる権限、管轄権を行使して、漁業資源の保護あるいは海洋環境の保護という目的を達成していくために足並みをそろえていこうということで、新たに沿岸国の管轄権のようなものを認めるようになってきている。そういう意味では国家がそれぞれ自国の利益を判断しながら、同時にそれが国際社会全体の利益につながっているようなオプションを選択していく。こういうことを進めていくのは、どうしてもやはり一歩一歩やっていくことしかないという気がしている。
 
4-10. MIMAがトラック2のイニシアチブをとって、マレーシアとインドネシアとの間で海上事故防止協定(INCSEA)について策定中である。まだ初期段階であるが、2カ国の海軍の人たちにも関与してもらい弾みをつけたところである。実際にうまくいきつつあり、昨年ジャカルタで合意を結ぶことができた。成功の一歩である。こういう方向でメカニズムを推進していくべきだと思う。
 
4-11.日本では、国民の多くが海洋に対してあまり関心がない。また有識者にしても、法律を作る人たちにしても、海のことをあまりよく知らない。啓蒙活動をするというようなことが必要ではないかと思う。
 
4-12. 国民が海のことを理解し、海洋の重要性をもっと分かってもらわなけれはならない。このようなメッセージをもっと発信をしていく必要があると思う。それからもう一つ、メディアをいかに関与させるかということである。やはりマスコミにも訴えていきたい。CBSなど、アメリカのニュースでも軍事的な活動について最近関心を持ってくれるようになった。しかし海軍ということで考えてみると、必ずしも皆が海軍の経験があるわけではない。海洋国家としての海軍があるにもかかわらず、海軍に対する国民の認識レベルは低い。メッセージを発信していかなければいけない。何かセンセーショナルなことでもない限り、なかなかニュースなどが流れない。やはりもっと努力する必要があると思う。







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