EEZにおける航行の自由と資源に関連する沿岸国の権利
国連海洋法条約(UNCLOS)は、初めて海洋に関連する総括的な法的フレームワークを提供し、海洋秩序のために大きく貢献した。しかしそれと当時に、特にEEZとの関連で、地域に新しい不安定要因を持ちこんだことも事実である。UNCLOSは主に海洋大国と沿岸国間の妥協であり、EEZ内での航行の自由と資源に関連する沿岸国の権利など多くの問題が未解決のままである。この地域では、認識と実践の相違が特に際立っている。
2001年4月に発生した米中間の飛行機衝突事故、東シナ海での不審船(工作船)沈没事故、東シナ海での中国の調査活動をめぐる日中間の論争など、全てはEEZの問題と絡んでいる。EEZの問題には、自由航行の範囲、EEZ内での軍事活動の合法性、沿岸国の管轄権問題、EEZ内での他国の権利などがある。
UNCLOSでは、沿岸国がEEZで海洋資源を探査し開発する主権的権利を所有し、海洋の科学調査、人工島や施設、構築物の設置および利用、海洋環境を保護保全する管轄権を有していると明記されている(第56条)。UNCLOSはまた、EEZ内では全ての国の航行の自由と上空飛行の自由を認めているが、その権利の行使にあたっては、「いずれの国も沿岸国の権利及び義務に妥当な考慮を払うものとし、また、この部の規定に反しない限り、この条約及び国際法の他の規則に従って沿岸国が制定する法令を遵守する。(第58条)」こととなっている。明らかに、UNCLOSは一般的ルールや原則を定めているに過ぎない。
EEZの本質については現在2通りの傾向がある。1つは、海洋大国によるEEZの「国際化」で、EEZを公海と同じように扱い、資源に対する沿岸諸国の主権をあまり認めない傾向である。もう1つは、沿岸国によるEEZの「領海化」であり、そこでは沿岸国のEEZにおける利益が優先されていて、航行の自由を二次的に取り扱っている。多くの周辺国での安全保障に対する関心度によって、EEZでの航行の自由と沿岸国の権利との間で摩擦を起こしかねない。
我々が直面している問題は、この問題に関連する主要な利害関係をどのように調整していき均衡を図るかである。信頼構築と紛争解決のため、関連する基準や許容できる基準についての議論が必要となる。UNCLOSを地域的に適用した制度を構築できるかもしれない。その制度には、あいまいさや摩擦を軽減するため、UNCLOSを統一的に理解し、UNCLOSの修正や追加をする必要があるであろう。黄海の中国沖50海里で2002年7月に6回にわたりUS偵察艇Bowditchと中国海軍艦艇および飛行機が遭遇し、膠着状態が発生した[7]。この事件からも制度を早急に構築する必要がある。
海上安全保障に関する国際協力
海上安全保障に関して国際協力は不可欠である。海上安全保障の問題の多くは、その性質上国際的要素を含んでいるため、海洋における平和と秩序の維持には国際協力が必要である。地域にあるEEZ内での海賊行為や不法行為には、各国が協力して監視にあたり、また情報を共有することで対処していくことができる。
この地域では政治的、経済的、軍事的な依存関係か深まっているため、国際協力を行うにはよい機会である。しかし東アジアでは、現在まで安全保障機構も明確に規定された規則も確立していないのが現状である。しかしながら、経済発展が東アジア諸国にとって第1目的となっていて、しかも海上安全保障の中心に海洋問題がある以上、周辺国による海洋協力は盛んになっていくことが予想される。
この地域による海上安全保障は段階的に発展していき、信頼醸成措置(CBM)、予防外交機構、紛争解決機構の3つのステージを経ていくことが予想される。地域各国は現在、海洋でのCBMを構築することに焦点を当てている。これは海洋紛争や海洋活動を誤解してしまうリスクを軽減する有効なステップである。相互信頼を強化することで次の予防外交の基礎が構築される。
現状から言えば、海洋協力の長期プロセスの始めに、次の4つの制度をまず確立するべきである。
1つは、地域の対海賊政策とSLOCの安全保障制度であり、地域において国際テロリズムに対処していく制度を確立する必要がある。
2つめは、地域における海上事故防止協定(INCSEA)である。公海上での事故を回避するためのアメリカとソビエト連邦による1972年の協定は、実践的なCBMの好例である。数年前、ロシアは、地域INCSEAの条件を提案し、日本および韓国とINCSEAに署名した。中国とアメリカについては、1998年に2国間で合意された軍事海洋諮問協定(MMCA)に基づくのが望ましい。
3つめは、地域海上通航と安全保障制度である。これは航行規約と似ている。EEZ内における沿岸国の海洋資源および海洋科学調査に関する管轄権の範囲については明確に定義されている。それに対して、EEZにおける自由航行の原則の適用については明確に定義されていない。また、航空機同士または航空機と船舶の遭遇を管理する規則も作成すべきである。
4つめは、地域の環境安全保障制度である。信頼構築や協力関係構築の一環として、環境問題に焦点が当てられる可能性は高い。特に、船舶による汚染を管理、監視していく上で、油による汚染の防止や緊急対応で地域協力する機会がある。
中国は海洋に重要な利害を持っている。海岸線の長さは18,400kmに及び、6,500もの島があり、その管理水域は300万km2もある。中国の海洋管理水域には、200億トンの石油資源、2.9兆m3の天然ガス、4.4億トンの鉱物資源、年間5百万トンの漁獲高があると予想されている。中国は、その焦点を陸地から海洋へ動かしつつある。現在の中国は海洋国ではないが、これからの数十年で海洋国になるであろう。数世紀に渡って、中国は陸上と海洋の間で重点移動を繰り返している。
中国はアジア太平洋地域で多国間対話や二国間対話で重要な役割を演じていて、政府や非政府のチャンネルを通じて相互理解と相互信頼を築いている。中国のアジア太平洋安全保障戦略には、3つの目的がある。つまり、中国の安定と繁栄、周辺地域での平和と安定、そしてアジア太平洋地域の全ての国との対話と協力関係の構築である[8]。第57回国連総会で行われた最近のスピーチで、中国外務大臣唐家  は「中国は、相互信頼と相互利益と平等と協調に基づく新しい安全保障の概念を提案する」と言及している。「安全保障は、もはやゼロサムゲームではなくなっている。安全性の普遍性は増大していて、あらゆる国で安全保障の必要性は高まり、相互依存関係は深まっている」[9]。
海洋管理と海上安全保障について他国と協力することは、中国の利益と一致する。そして中国は地域における海上安全保障制度の確立をサポートする。中国の代表は、ARFフレームワーク内で、公式、非公式の会議に出席している。「中国はARF海洋情報データセンターを設置することを提案していて、高いレベルでの軍事関係者の訪問、海軍船舶の寄港を提案している。また、軍事関係者の交換、緊急事態の救助活動の支援、災害救助、海上航行の安全、海洋環境保全を提案している」[10]。中国は、他国と協力して、国際テロリズムや海賊行為と積極的に対抗し、地域のSLOCや海洋環境を保護している。2002年10月10日−11日に、中国は国境周辺部でキルギスタンと共同して対テロリズム活動を行った。それは将来隣国と共同作戦を行う上でも有効であった。
中国海軍は近代化されつつある。中国はこの地域で海軍力を有していて、今後20年間で中規模の海軍力を有することになるだろう。しかし、同地域において、支配的な海軍力にはならない。世界コミュニティは中国の長期の意図を心配している。私の考えでは、中国はアジア太平洋を支配する意図はなく、米国の役割を取って代わろうという意図もない。また、日本の優位性と対抗する意思もないだろう。中国の主要な戦略的意図はアジア太平洋の米国の意図と同じであり、中国は米国との対峙を希望していない。APEC上海会議におけるブッシュ大統領との会談で、江沢民国家主席は、中国は東アジアから米軍を追い払う意図は全くなく、この地域で米国が活発な役割を担うことを歓迎する旨を強調した。日中関係では、これも私の考えだが、中国は日本の再軍備化と大戦の再現を心配しているだけてある。日本は、おそらく中国の台頭を警戒していて、地域における日本の立場に影響を与えることを心配している。米国、中国、日本の3国間対話と安全保障制度が可能となれば、同地域における安全保障の協力制度の基礎になるだろう。
国際テロリズムは、新しいテロ攻撃を始めた。2002年10月6日にイエメンのアデン港沖700kmの位置で発生したフランスのスーパータンカーの爆破、2002年10月8日にクウェートで発生した米海兵隊狙撃事件、2002年10月12日に起きたバリの爆破事件、2002年10月17日のザンボアンガでの爆破事件など、全てはアルカイダが関与している。世界コミュニティと地域諸国としては、海洋を含むあらゆる分野で、緊急に協力体勢を構築し、テロリズムと対決していく必要がある。
7 |
Lianhe Zaobao, Singapore, 21 September 2002. |
8 |
"China's National Defense" by Information Office of the State Council of PRC, Beijing, 28 July 1998. |
9 |
People's Daily, Beijing, 15 September 2002. |
10 |
White Paper on "China's National Defense in 2000", Information Office of the State Council of PRC, Beijing, 16 October 2000 |
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