討議概要
Session 3 海洋秩序の法的・政策的枠組の形成と実行
海洋問題に関する国際協調
3-1. 海洋における領海画定と領有権を巡る紛争が東アジアの沿岸国の間にある。国民感情とナショナリズムの高まりに伴って、管轄権紛争の解決が難しくしなっている。さらに海軍力の整備を巡る競争もあるように思う。海洋資源、管轄権で優位に立ちたいということが狙いだろう。この地域で戦争が勃発するとすれば「たぶん海からだろう」というのが専門家の一致した意見である。南シナ海行動宣言のような採択は歓迎すべきであるが、実施についてはどうだろうか。信頼醸成措置として海上事故防止協定が必要と考えるが、中国はイニシアチブを取る気はあるか。
3-2. この10年問、中国はスプラトリー諸島に関して主権を主張してきたが、一方で政策を大きく変えた。最初、中国はスプラトリーに関しては中国に属しており交渉の余地がないという立場だった。しかし1990年になり、中国は紛争が存在し、交渉可能であるということを明確に言った。これは大きなシフトである。また、1995年には、中国は国際法に従って解決する用意があると言った。これも大きなシフトと言える。それから三つ目の大きなシフトとして、中国はスプラトリー紛争に関しては2国間交渉を基本とし、マルチの場での協議を拒否してきたが、譲歩し、1999年にASEAN+中国という場で協議した。さらに、南シナ海に関する行動宣言については、中国の主権を侵害するとの姿勢をとっていたが、2000年から中国がイニシアチブを取ってASEANとの協力を始め、行動宣言に向けた合意を結ぼうという動きを始めた。中国の政策はこのように大きく変わってきた。これらは中国が和解的な姿勢をとっているという証である。中国はアメリカを含めた関係当事国と信頼醸成を図る意図を持っている。
3-3. 南シナ海のワークショップにこの12年ほど積極的に関与してきた。最初、中国は参加そのものに及び腰だったが、全面的にこのプロセスを支持するようになった。中国の立場は変わったと思う。信頼醸成措置についても、中国は軍事的プレゼンスの新たな拡大には反対であると言っていたが、進展が出てきた。歓迎すべきだと思う。しかし、共同開発についての姿勢には疑問がある。中国は2国間での協議を主張するが、複数の国が紛争に関わる海域で、2国間で開発を協議することは無理だと思う。
3-4. 中国は信頼醸成措置をどのような形で進めようと考えているのだろうか。共通の懸念が今たくさん出てきている。国境を越えた国際犯罪などについて、アメリカを含めたこの地域の諸国はきちんと討議する必要があると思う。海洋のいろいろな問題に対応していくための信頼醸成措置が必要だと思う。密輸や海賊問題にどう対応していくかも話すべきだ。数年前にはデリケートな問題があったが、いまは理解を高めることができ、協力的な取り組みができると思う。
3-5. 中国はマルチの枠組みでの共同開発についても配慮し検討中である。また、信頼醸成措置に対してはNGOが大きな役割を果たすことができると思う。NGOや学会の会議には、個人的な資格で政府関係者も出席することができるだろう。NGOの中でコンセンサスを達成することができるのではないかと思う。公式な対話の条件はまだ成熟してきていないし、そこまでいっていないので、もっと準備が必要だと思う。大事なのは、アメリカが国連海洋法条約を批准することではないか。アメリカの関与なしに何も決定できないのではないかと思う。
3-6. トラック1での信頼醸成は海軍同士で盛んに行なわれ実効も上がっているが、中国はどちらかというとちょっと遅れ気味で腰が引けているというところがある。
排他的経済水域
3-7. 排他的経済水域での艦艇の行動の話がでたが、排他的経済水域は経済的な要素を考慮してできたものだと理解している。海軍が海底の地形まで変えるような演習をすることは論外であるが、偵察行動などがなぜ禁止されなければならないか理解てきない。偵察行動自体があらゆる場面で禁止されるというなら分かるが、経済行動を主体にして考えられた排他的経済水域の中で禁止しなければならないというのは何故だろうか。また、群島水域で軍艦の自由通航を認めればどういう不具合があるのだろうか。
3-8. 海洋法条約でも暖昧な点であるが、沿岸国の利益を守るべきであると明記してある。したがって、軍事的な活動は沿岸国の同意が必要であろう。外国の海軍が沿岸地域近くまでやってくると沿岸国は脅威を感じる。したがって、沿岸国に通告をすることは必要ではないだろうか。
3-9. 国連海洋法条約では排他的経済水域について決めてある規則以外の点、とりわけ航行の問題についてはかなり曖昧になっている。排他的経済水域における残余権(residual rights)をどのように今後考えていくのかという問題であろう。
3-10. 中国の排他的経済水域の中で沈んだ不審船に関して、中国の公式見解では、日本は中国の権利を侵害したか引き上げることについて承認したと説明されているが、どういう権限を侵害したのか。
3-11. 東シナ海、大陸棚の境界線の画定に関しては、日中間で意見の対立がある。不審船は日本側で日本の海上保安庁の船が発見し、これを拿捕しようとした。しかし逃げられ中国側に入った。それを追って日本の取締艦が入ってきた高度な武器を装備している船が中国に通知することなく入ってきたというのが問題である。中国側に対してまず事前に通知をすることが必要である。不審船が沈んだが、日中間の協議に基づいて中国側が合意し、回収、引き上げに賛成した。これは交渉、協議を通じて成功裏に問題解決ができたいい例だと思う。
ともあれ、武装した日本の艦船が中国のEEZに入った。しかもその際に中国側に対して通知がなかった。これは中国の主権を侵害したことになるというのが、中国側の立場である。日本の外務省もそのような中国側の立場を受け入れたように思う。しかしこの問題は協議によって解決された。
3-12. 排他的経済水域がどういう水域であるかという考え方に、日本側と中国側の間に基本的に大きな開きがあると思う。不審船の場合、それが正当な追跡権の行使であると考えれば、もちろん被追跡船舶がいずれかの他の国の領海に逃げ込むまでは、継続して追跡する権利はある。ただ先ほどから話があるように、排他的経済水域に軍艦を含めて武器を保有する船舶が入ること自体が、中国の海洋法条約の解釈として許されない、そういう前提に立つと、確かにそれは追いかけても排他的経済水域に入れないという立場も出てくるのかも知れない。
しかし国際社会一般の考え方はそういうものではなく、せいぜい領海について軍艦も事前通告なり、許可なりが必要かどうかということが問題となっている。この点は各国かなり立場は違っている。アメリカ、ロシア等主要な海軍国は、領海についても軍艦の無害通航権は認められるという立場だと思う。一方、多くの沿岸国は軍艦通航の事前届出制を取っている。領海についてですらその程度である。排他的経済水域は沿岸の安全を確保する水域というわけではない。日本が不審船について、もし排他的経済水域において沿岸国の安全を維持するために何らかの管轄権を行使することが認められた水域と解釈すれば、何も漁業法で追いかける必要もなかった。日本としては、沿岸国の排他的経済水域に対する権限を非常に限定的に理解し、それ以外の問題については基本的に公海と同じであるとするのが日本の立場であり、おそらく世界の多くの国の立場だろうと考える。
群島水域および内水
3-13. 群島水域の航行については、二つのレジームがある。一つは無害通航であり、もう一つは群島航路帯通航である。無害通航は、群島水域においても決まっており、軍艦も通ることができる。しかし潜水艦は旗を立てて海面を航行しなければならない。また航空母艦から飛行機を飛ばすことはできない。無害通航のときには、上空通過権を持っていないからである。国連海洋法条約は群島航路帯を確立するよう求めており、インドネシアはこれを設定している。群島航路帯では潜水艦は潜行航行でき、飛行機も飛ぶことができる。群島水域を設定する場合、安全航行のために水深のより深いところ、沿岸から12マイル以上離れているところ、というルールを作っている。軍艦か来ることに反対しているわけではなくて、群島航路帯を通るようにということである。
3-14. フィリピンは全く違った主張をしている。群島基線の中の水域はすべて内水と見なすと言っている。だから群島航路帯通航は認められない。かなり混乱するし曖昧だ。今後どのようにして解決していくかが課題である。
3-15.フィリピンの場合、インドネシアよりも複雑である。フィリピンの群島はさまざまな島を分けている線の特徴が違う。そこで内水としてこれを考えざるを得ない。憲法の規定もそうなっており、これは国連海洋法条約よりも以前からのものである。憲法修正は政治的にも大変難しい。フィリピンとしては国連海洋法条約に調印し、この群島航路帯通航は認めた。しかし一方で憲法の規定では、この水域を内水と見なすとなっている。もちろん実際上この水域では無害通航はできる。ただしその場合には同意がなければならない。つまりフィリピン側が同意を与えれば、国際的な航行ということで無害通航が認められる。しかし同意に基づく無害通航と、全く異議を唱えることのできない国連海洋法条約のもとでの無害通航との間には違いがある。
インドネシアの場合、内水に関して言及している規定は制令という形を取っている。しかしフィリピンは憲法のもとで定められている。だからずっと対応が難しい。どうやって国連海洋法条約の群島航路帯通航に関する規定を施行するか。インドネシアとフィリピンは確かに先頭に立って、この群島航路帯通航あるいは群島国家に関する規定について貢献した。必ずこの問題は克服できると考えている。
3-16. インドネシア群島水域における東西航路帯の設定についてであるが、南北3本の航路帯を設定する際に条件が課せられた。国際水路学会から、まず軸となる線に関してきちんと調査し、その情報について十分に与えてほしいと言われた。つまり浅いところとか危険なところにかからないように設定してほしいということであった。東西の航路帯については、まだその調査さえ十分に実施されていない状況にある。
インドネシアの省庁の中でも、航路帯に関して解釈の違いがある。軍艦の航行はさせるべきではないという考えと、航路帯が決まっていないのなら、どこを航行しても自由であるとのリベラルな考えとがある。いずれにしても、IMOでは航路帯を設定するにあたっては、その当該水域に対して慎重な調査と研究を行なわなければいけないと定めているから、まずは調査しなければいけないと思う。
3-17. 核兵器を搭載した船舶が群島航路帯を通航できるかという点に関しては、通航はできる。具体的なルールがある。航行の安全のため、インドネシアの安全のため、外国のタンカー、核エネルギーを使う船舶、放射性物質を積んでいる船舶、その他の危険な物質を積んでいる船舶、外国の漁船、外国の軍艦でインドネシアの水域を通るものは、群島航路帯を通航することが勧告される、というものである。
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