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討議概要
Session 2 海の安全保障その2:海洋環境の保護
東アジア海域の海洋環境
2-1. 中国周辺海域の生態系に関しては、黄海、東シナ海、南シナ海の三つのエコシステムに区分できる。エコシステムの境界線についての研究があるが、東シナ海のデータは相当古い。UNEPなり、国連の支援のもとで調査ができればと考えている。黄海は半分閉じられた海域である。黄海と東シナ海は密接に関わっている。南シナ海と東シナ海は台湾海峡でつながっている。東シナ海は太平洋西域の海流の影響を受けており、南シナ海とは分断されていると言える。南シナ海における汚染については確かな情報を持ち合わせていないが、上海周辺については深刻である。
 海面上昇については、地球温暖化の影響として研究が行なわれている。東シナ海には、地質的な変化により大陸棚に向けて相当な土壌が流れ込んでいるという問題がある。それが海面上昇の要因にもなっている。地球規模の気候変動、地質学的な変化、海面上昇などが、揚子江の三角州地帯にとって深刻な問題になりつつある。海面上昇については、これから影響が顕著になってくると思う。
 
2-2. 地域海の協力として、黄海、日本海を含めたリーガル・フレームか既に存在する。UNEPのアクションプログラムの一つでNOWPAPというものである。中国、韓国、北朝鮮、ロシア、日本が参加しているが、今までは残念ながら余り機能していなかった。北朝鮮もだいぶ変わりつつあるから、努力を続ければもう少し強力な協力体制ができあがってくるのではないかと思う。先ずは交流をすることが重要ではないかと考える。
 
2-3. 東アジアの日本からマラッカ海峡までの国々12カ国か参加しているPEMSEA(Partnerships in Environmental Management for the Seas of East Asia)の取組みがある。この計画はGEF/UNDP/IMOが実施している。1994年から始まった第1期5年計画が終わり、99年から2004年までの第2期の計画に入っている。主体は政府で、各国の海事関係ないし環境関係の省庁がメンバーである。
 PEMSEAでは、アジアの海の沿岸域管理と閉鎖性海域の問題に取り組んでいる。そのため、この地域の「Regional Strategies for Sustainable Development」を作成中である。そのドラフトは2年ぐらい前にできており、来年採択の予定で調整中である。そのRegional Strategyのもとに、各国のNational Strategyを実施するもので、各国にそれぞれのフォーカルポイントがあり、これに取り組んている。
 
マラッカ海峡問題
2-4. 国連海洋法条約の43条の精神を重視し、海峡のユーザー側・受益者側が沿岸国に協力して、航行の安全および海洋環境の保護の向上を図るべきである。日本の協力があるが、その他のユーザーの関心は余りないように思われる。IMOの組織した会議がシンガポール、クアラルンプールであったが、それ以外は具体的な動きがないような気がする。もっと関心を持ってもらい、43条を実施するように働きかけていく必要がある。
 
2-5. 国連海洋法条約の43条をどのように実施に移すか、特にマラッカ海峡においてどのように実施するかについて、MIMAはシンガポールの大学の研究所と協力して研究している。利用国に参画してもらうように説得するには時間がかかると思われる。マラッカ海峡の管理を共同で実施してほしいとはいえるが、何をしてほしいのか、実際に何を分担してほしいのか、というのは大変難しい。日本以外の中国や台湾、韓国に対して何をお願いしたらよいのか、何を分担してもらうのが一番よいのかということについては、まだ答えが出ているわけではない。長期的なプロセスになると思う。
 
2-6.利用国を参画させて共同管理していくことが必要である。それによって43条が施行できる。今のところは日本しか好意的な反応をしていない。資金拠出という形の協力だけではなく、例えば他の形での国際協力によって、間接的に協力することもあり得る。
 
2-7. マラッカ海峡の安全問題というのは、沿岸国が航路標識を整備して安全を確保している。国連海洋法条約43条では、国際海峡について利用国も安全や環境問題に関して応分の協力をすることが定められている。この問題がもっと議論されてもいい。マレーシアが主催した会議、あるいはシンガポールが主催した会議、最近では1999年のマラッカ海峡会議で一応議論されたが、残念ながら一応と言わざるを得ない。
 今のところマラッカ海峡の安全がどうやって確保されているかというと、マレーシア、イントネシア、シンガポールの沿岸3国がやっている他、日本が年間平均数億円、過去30年間で110億円ぐらいの資金を拠出し、海峡の水路側量、航路標識を作る等の手伝をし、見回りもやっている。日本一国が海峡を主として使っていた時代ではなくなってきているので、一刻も早く43条の体制でこの問題を解決すべきであると思う。
 日本がやっているというが、その大部分は日本財団がやっている。今年はマレーシアに8億円で設標船の代替建造について協力した。それから来年はインドネシアに、やはり海峡の航路標識の安全を維持するための設標船を協力することにしている。ただこのやり方は長くは続けられないと思う。そこで、利用国と沿岸国が話し合いをする場を設けることについて提案し、大体の了解は得ている。あとは日本以外の利用国および利用者が、そういう会議に参加するように、今話を進めているところである。
 もしマラッカ海峡で大きな事故が起きて海峡が使えなくなると、アジア経済にとって極めて大きな影響を与える問題である。マラッカ海峡を使っているのは日本だけではなく、中国、韓国、その他の国々も使っており、マラッカ海峡の安全対策についての利用国の協力を皆で考える会を一刻も早く開き、話し合いをすべきである。
 
環境破壊と軍事行動
2-8. 環境破壊を平和に対する脅威として捉えて、国連憲章第7章における侵略行為として軍事的措置をとってはどうか、という思い切った提案があった。コソボの空爆は人権侵害を理由に外国が軍事行動を起こしたものである。冷戦終了後の武力行使の大きなエポック・メーキングであった。人権侵害が武力行使に対して正当性を持つかどうか、個人的には疑問を持っている。人権侵害が武力行使の理由になるならば、他にもたくさんある。個人的にはコソボの空爆に批判的であるが、世界は人権侵害に対して武力行使をすべきだという方向に行きつつあると思う。それと同じように、環境破壊も人類に対する犯罪である。環境破壊は国際的な問題である。1国だけで閉じこめられない。酸性雨などは世界に広がってしまう。そうすると環境破壊はやはり人類に対する犯罪であり、防止しなければ武力行使といった方向に行くように思う。
 問題はルール作りだと思う。人権侵害とか環境破壊を人類に対する犯罪とみなして武力行使に正当性を持たせるか、について国際社会がどうやってルール作りをするのか、大変大きな問題だと思う。ただ反対というのでは意味がない。もちろん環境破壊や人権の問題については、すべての国がいろいろな意味で持っていると思う。そういうものをどうやって国際社会が管理していくのか難しい。
 
2-9. 環境破壊に対する軍事力の行使はやはり最後の手段として捉えるべきだと考える。軍事力を使うときは他の手段が全部試みられた後だと思う。興味深い提案だと思うが、何を目的としているのか、慎重に考えなければならない。確かに、安全保障の中には環境の安全保障も含まれることは忘れてはならない。しかしやはり軍事力の行使というのは最終手段として考えるべきだし、なかなか受け入れがたいことだと思う。







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