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Session 2-5
WSSDにおける海洋問題
寺島紘士
 
 1992年のリオ・サミットから10年を経て開催された今回の世界サミット(WSSD:World Summit on Sustainable Development)では、我々が環境や生活の問題に取り組んでいく上で中心となる事項は持続可能な開発であることが再確認され、そのための実施計画が定められた。
 
 リオのサミットでは、海洋問題は大きな柱の一つで、アジェンダ21の第17章に海洋と沿岸域の問題が取り上げられた。今回は、身近な、貧困、水、エネルギー、健康、食糧といった問題が中心テーマとなり、海洋の問題は陰に隠れた面があった。貧困や食糧といったものがすべて海洋と密接に関係していることを考えれば、もっと海洋の問題に注意を払ってもよかったのではないかと、若干の不満を持っている。
 
 実施計画は膨大なボリュームで、海洋については主として第4章「経済社会開発の基礎となる天然資源の保護と管理」と、第7章の「小島嶼国における持続可能な開発」に記載されている他、第10章の「制度的枠組み」にも取り組みのあり方が書かれている。今日は、そのうち第4章の中で、向こう10年間の行動指針として目標達成年限を付して取り上げているものを中心に、海洋に関する実施計画の内容を簡単に説明したい。
 
 冒頭には、海洋、島嶼、沿岸域が地球の生態系の統合された基本的要素を形成し、地球規模の食糧安全保障、多くの国の経済繁栄にとって極めて重要であることが記されている。その上で、海洋の持続可能な開発を確保するためには、海洋法条約の批准・加盟・実施、アジェンダ21第17章の実施の促進、2010年までに生態系アプローチの適用奨励、国家レベルでの統合的な沿岸域およひ海洋の管理の推進、といったことが述べられている。それから漁業について、持続可能なレベルに漁業資源を維持または保護し、枯渇した漁業資源については、可能な場合には2015年までに緊急にこれらの目標を達成する、また漁獲能力管理については2005年までの、IUUフィッシングの防止排除については2004年までという目標年限を設けて、それまでに発効させる、としている。さらに、海洋の保全と管理として、生態系アプローチ、破壊的漁業行為の排除、国際法に合致した科学的情報に基づいた海洋保護区を2012年までに代表ネットワークを形成することを含め設置する、などを求めている。また、陸上活動からの海洋環境の保護のための世界行動計画、いわゆるGPAについてこの実施を促進すること、特に2002年から2006年の間に都市排水、自然的形状の変更および生息地の破壊、富栄養化対策を重点として取り組むこととしている。海上安全やTBT塗料問題を含む、海洋環境保護に関するIMOの条約等の各国による批准・加盟・実施、旗国にIMOの条約等を実施させるためのより強い仕組みのIMOでの検討、IMOに船舶のバラスト水の制御と管理に関する国際条約採択の要請も取り上げられており、海洋環境の状態を地球規模で通報し評価するため、2004年までに国連のもとに常設のプロセスを設置する、なども記載されている。
 
現職 SOF海洋政策研究所所長
学歴 東京大学法学部卒
 運輸省入省。海上保安庁主計課長、貨物流通局政策課長、中部運輸局長、大臣官房審議官の要職を歴任し、1994年退官。この間、海上交通に関する国内・国際プロジェクトに従事。1994−2002年日本財団常務理事。海洋政策に関する各種提言まとめるとともに、マラッカ・シンガポール海峡の安全確保のための協力体制の構築、海賊対策、海洋管理の人材育成などで国際的に活躍中。これらに関する論文・講演多数。
  
 
 WSSDでは、海洋は協議事項の主役にはならなかったが、その実施計画文書には海洋と沿岸域についてかなり包括的、かつ具体的に実施計画が定められている。問題はこれをどう実施するかであり、実施するための強力な体制を組む必要があるだろう。関連して、第10章の制度的枠組みにおいては、国連の内に効率的で透明性のある常設の調整メカニズムを設立する、あるいは、持続可能な開発のための国家戦略の作成に早急に着手し2005年までに実施する、といった具体的なことが書き込まれている。
 
 海上交通に関する部分については、かなりIMOにその役割が期待されているようだが、その他、沿岸域管理や漁業の問題などは、それぞれに適した取り組みが要請されている。その中で、例えば沿岸域管理とか地域海の問題などは、地域的な取り組みによって解決することが強調され、奨励されている。最近の海洋問題は、やはり地域的な取り組みが非常に大事な時期ではないかと考えている。







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