III. 資源の利用と環境保護の問題
1. 今までの議論をより大きな視野で眺めると、一部の問題については、資源利用と環境保護の関係という観点から取り扱うことか可能である。したがって、明らかにされた挑戦やジレンマの問題は、このような方向性の問題として捉えることができる。と同時に、これらは「海洋の問題は相互に密接に絡み合っており、全体として捉えてゆく必要がある」とした国連海洋法条約の根本的な前提条件が適切であることを確認するものである〔18〕。実際、海洋は陸域や大気と密接に結びついている(例えば地球温暖化で実証されているように)。海洋環境に影響を及ぼすのは、その資源を海洋で使うときという訳ではない。実際、陸上における資源の利用が、広範囲な沿海地域の汚染源になりうる。この問題は、工場における、あらかじめ加工された資源の使用または利用の問題にも拡張される。こうした資源は最終的に海に投棄される大量の産業廃棄物を発生させている。実際、海洋汚染を引き起こす汚染物質のじつに75%が、陸上汚染物質に因るものであると推定されている。
2. 資源の利用と環境保護の関係に絡んで、問題点を特定したり、手法や安全装置を設計する場合には、特定の資源に話しを絞った方が賢明であろう。
資源の利用または使用には資源の運搬も含まれる。資源の運搬には、海事法の成立の歴史において中心的存在であった軍艦や海軍活動も含まれる。運搬を行うための資源という海の捉え方は、まさに資源の利用と環境保護の性質を表している。海は国や人々を隔てているが、同時に二者を繋ぐ媒体としての役割も努める。海上防衛システムの一部を担ってもいる。
海上輸送の爆発的な拡大は、部品をグローバルに調達して組み立てられる工業製品の製造工程の統合と歩調を合わせるものである。海上輸送がいかに産業のアキレス腱的な役割を担っているかは、米国西海岸の29の港湾が組合のストによって閉鎖されたことに伴って、「ジャストインタイム」方式の部品調達に支障をきたした日本第2位の自動車メーカーである本田技研工業のオハイオ工場およびカナダ工場の操業が一時停止に追い込まれた事例に象徴されている。油など戦略物資の輸送は、海上輸送の死活的重要性をさらに増大させているが、海洋環境へのリスクおよび危険も同時に増大させている。1975年を例に取ると、通常の運航に沿って船舶が海上に垂れ流した油は約100万トンに昇り、さらに200,000トン以上が海上事故で流出した。また、液化ガスタンカー、ケミカルタンカー、ディーゼル電気推進船など危険物の輸送を目的とした特殊船舶は、海洋環境へのリスクをさらに増大させている。中でも国連海洋法条約の第23条によって規制されている「原子力船、および核物質やその他特に危険または有害な物質を運搬する船舶」は非常に心配されている。こうした分野では、リスクの大きさに照らし合わせて、規制対象となる船舶の最小単位があまりにも釣り合いがとれていないと考えられる。軍艦やその他の軍用船舶は、現在も環境保護の観点からの規制対象外となっている。近年、深海で発生した原子力潜水艦の事故は、核兵器を搭載した船舶の事故という、極めて危険な事態が起こりうるという事実に対して警鐘を鳴らしている。放射能漏れは海中に拡散する危険性があり、またディーゼル電気推進船の排気ガスは、海水を鉛で汚染する可能性がある。
3. 海上輸送は、特に汚染に関して、極めて規制の厳しい業界であるが、にもかかわらず海洋分野でのリスクや危険性のレベルを効果的に減少させることに成功していない。各国の政治的意志を集約して、縦割り化、地域化した規制システムを打破してゆく必要がある。
「海洋の平和的利用を推進する」ための法律的、政治的な枠組みを国際社会が構築するという国連海洋法条約の基本理念を考えると〔19〕、関連性のある政策の枠組みおよび信頼譲成措置の統合化が将来的にはより一層押し進められ、平時においても核兵器や放射性物質を搭載する船舶の無害通航権が制限されるようになったり、排他的経済水域内での軍事演習に対して制限が設けられたりすることも十分考えられる〔20〕。
4. 公海における海洋資源の開発に使用される科学的、技術的手段が、ひと握りの先進国に独占されている状況は、海洋資源の採取コストおよび利益の分配に関する世界的な格差の拡大に拍車をかける結果となる。したがって、必要に応じた技術システムの移管を進めてゆくことが大切である。
5. 海洋資源の中には利用した場合に海洋環境に重大な影響を及ぼす可能性があるものも数多く存在するが、それらの問題については別の機会に譲りたい。持続可能な開発の枠組みの中において欠くことのできない要素として、数ある保護・救済方法の中から予防原則を自動的に適用できる統合的世界海洋監視システムを立ち上げてゆくことは、資源の利用と環境保護の関係から注目に値するであろう。
6. 世界的な環境の悪化、特に海洋環境の悪化に直結するような重大な脅威あるいは保安上の問題に対しては、必要な備えを事前に準備しておく必要がある。まずは研究課題として始め、のちには「国際的な平和維持および安全保障」の必要不可欠な部分として持続可能な発展の枠組みに盛り込んでいくべきである。これには、該当するような人間行動に関する項目を安全保障理事会に与えられた国連憲章第7章の権限に盛り込んでゆく目的がある。このような見通しから、このような人間活動は安全保障理事会によって「平和に対する脅威、平和の乱れ、および侵略行為」を含んでいると判断される可能性があり、実際に問題かあると判断された場合には「国際的な平和と安全を維持または回復する」ため軍事的手段を含む行政執行が行われる可能性がある〔21〕。
18 |
UN Convention on the Law of the Sea, third preambular paragraph, A/conf.62/122, 7 October 1982. |
19 |
UNCLOS, fourth preambular paragraph, supra note 18. |
20 |
See Josef Goldblat, Introduction, Review of Existing Constraints, Recommendations and Conclusion, in UN Institute for Disarmament Research, Maritime Security: The Building of Confidence, UN, New York, 1992, pp. 1, 6-7. |
21 |
See UN Charter, Articles 39-42. |
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