海洋汚染防止の近年の傾向と問題点
海上に起因する海洋汚染から海洋環境を保護しようとする努力に影響する問題点の多くは、ここ数十年間変わっていない。油流出による汚染やその影響のような問題は、今後ともニュースの表紙を飾り続けることは間違いないであろう。ところが近年、海洋汚染を防止する努力の将来を決定づけるような幾つかの問題が新たに浮上してきた。
近年になって、海洋汚染の防止のシナリオに新たな項目が付け加えられた。海賊行為やテロリストの攻撃の結果、船舶から排出される汚染がそれである。海賊行為、シージャック、盗賊や強盗等をきちんと区別して対処することは確かに大切であるが、同時に、こうした行為が船舶の航行と海洋環境に脅威をもたらすものであり、マラッカ海峡のような海域では特に危険が大きいということも十分に認識する必要がある。本年10月6日にイエメン沖で発生した巨大オイルタンカー「ランブール号」の爆発事件は記憶に新たである。この時は、予備捜査の段階で早くもテロ攻撃の可能性が指摘された。幸い、この事故で海面に流出した重油は300トンに過ぎなかったが〔19〕、船舶に対するテロ攻撃の脅威によって、核物質の海上輸送も方針の再検討が迫られる可能性がある。極めて有害な放射性貨物を海上輸送することの是非を巡っては、これまでも様々な議論が繰り返されており、この分野の管理体制は最終的にまとまりつつあったのだが〔20〕、テロの脅威が加わったことでさらなる複雑化の様相を呈している。
船舶の設計に関する新しい規則の導入は、海洋環境保全にとって大きな期待を抱かせるものになっている。1996年以降に建造された全ての新造タンカーはダブルハル構造になっているが、MARPOL 73/78条約の2001年の修正条項によってシングルハル構造のオイルタンカーの退役がさらに早まることが見込まれる〔21〕。ただし、この規制に伴って犠牲が払われていることも確かである。エクソン・バルディーズ号をダブルハル構造で再建造した場合、さらに1200万ドルが必要になり、建造費は1億2500万ドルから1億3700万ドルに増加する〔22〕。一方、タンカーの重油積載トン数は減ることになる。今回の規則改定に伴って大方が原油価格の上昇を予想したが、実際には価格の上昇は見られなかった〔23〕。
さらに、生態系的にとって重要な海域を船舶が通過することに伴うリスクが広く認識されるようになってきている。最近グレートバリアリーフ海域で発生した2件の事故は、こうした海域を海上輸送に用いる場合に、内外の規制に従って運航することの重要性を改めて浮き彫りにした。MARPOL 73/78条約では、同条約の付則で特別海域が制定されている。これらの海域における船舶の運航について具体的に規定されており、船舶からの投棄についても明確に記述されている。MARPOL条約のAnnex Iに指定された特別海域には地中海、北極圏の海域、および黒海の海域が含まれている。また、MARPOL条約のAnnex Vではメキシコ湾が特別海域に指定されている〔24〕。
結論
原油その他の貨物を輸送する、世界貿易の担い手としての海上輸送は、同時に潜在的なリスクを海洋環境に持ち込んでいる。こうしたリスクを軽減し、事故の確率を下げるためには、国際条約の批准、国内法の適切な適用などを含む国内的および国際的な努力が必要不可欠である。さらに、汚染によって破壊された環境を修復する努力が必要となる。同時に、その他の海洋汚染の発生源にも注意を払う必要がある。陸上活動に起因する海洋汚染はその代表例である。テロリズムの脅威、極めて有害な貨物の輸送、環境的に脆弱な海域の保護など、海洋汚染の防止に関連して近年クローズアップされている諸問題にも取り組んでゆく必要がある。
19 |
CMB furious over Limburg demand. Fairplay Daily News. 28 October 2002. |
20 |
For a wide-ranging discussion on the issue see various papers presented at the MIMA Conference on Carriage of Ultra Hazardous Radioactive Cargo by Sea: Implications and Responses held from 18 - 19 October 1999. |
21 |
Yearbook of International Cooperation on Environment and Development: MARPOL 73/78. |
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22 |
Baird, S. 1993. Energy Fact Sheet: Oil Spills. Originally published by Energy Educators of Ontario. Referred to |
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23 |
Imho, Kim. Ten Years after the Enactment of the Oil Pollution Act of 1990: a success or failure. Marine Policy 26 (2002), 197 - 207. |
24 |
International Maritime Organisation. Resolution a. 720(17). 1991. Guidelines for the Designation of Special Areas and the Identification of Particularly Sensitive Sea Areas. IMO, London. See also, Spadi, F. Navigation in Marine Protected Areas: National and International Law. Ocean Development and International Law, 31 (2000), 285 - 302. on of Particularly Sensitive Sea Areas. IMO, London See also, Spadi, F. Navigation in Marine Protected Areas: National and International Law. Ocean Development and International Law, 31 (2000), 285 - 302. |
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