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討議概要
Session 1 海の安全保障その1:海上テロ、不審船等の新たな脅威
日本近海の不審船問題
1-1. 東シナ海で沈んだ不審船がスパイ船であったことは明らかであり、日本の排他的経済水域に侵入し主権国家の権利を侵害した。日本としては、乗船・検査するために追跡する権利があり、国際的にも認められると思うが、対応がやや過剰ではなかったかとの意見がある。武器の使用は極力回避されなければならず、やむを得ず使用する場合でも必要最小限にとどめるべきであり、人道的な配慮も必要であると思う。この事案を契機に、武器を使用する事案が多発するのではないかとの懸念がある。
 
1-2. 東シナ海の不審船の場合は、排他的経済水域であり漁業関係の法令を適用した。漁業法に基づく立入検査のための停船命令をかけ、これに応じないので射撃に踏み切った。武器の使用については慎重でなければならないことは当然であるが、事案となった船は武装した非常に危険な漁船であるとの認識があった。
 不審船の引き上げ作業が終わり、武器については、携帯用の地対空ミサイル、ロケットランチャー、14.5ミリ対空機関銃、5.45ミリ自動小銃、82ミリ無反動砲、7.62ミリ軽機関銃、その他、手榴弾、照準鏡、弾丸などが見つかっている。
 
1-3. 東シナ海の不審船追跡では、海上警備行動を発令すべきではなかったかと思っている。北東アジアは排他的経済水域が重なり合っている海域が多い。隣接する他国に対して、差し迫っている脅威と日本がとろうとしている行動を示すべきであったと思う。国際的な配慮が必要ではないかと思う。
 
1-4. 排他的経済水域での武力行使については、国際海洋法裁判所の判断にあるように、なるべく避けるべきであり、不可避な場合でも状況に応じた妥当かつ必要な線を越えてはならないが、武力行使を完全に禁止したものではない。工作船の進入は国家安全保障にとって極めて重大な脅威である。
 
1-5. 不審船あるいは工作船に対する武力行使については、航行目的以外のことを行なっているか否かが重要である。沿岸国の主権的権利を侵害しているかが明確に認識されなければいけない。東シナ海での不審船事件は単なる航行ではなかったし、海洋資源を捕獲しているとも考えられなかった。巡視船に対して発砲もしている。
 
EEZ内の軍事活動
1-6. 一般原則にかかわる問題として、排他的経済水域での軍事活動あるいは、スパイ活動も含めた広義の軍事活動が違法であるか否かという問題がある。アメリカは、偵察活動を中国の排他的経済水域で、年間400回を超えて実施している。日本と韓国は、北朝鮮のスパイ活動を深刻な問題であると論じ、武力行使によって問題解決に当たろうとしているが、この問題を国際法の観点から論ずる必要があるのではないか。武力行使に関しても国際法に照らして考えるべきである。国連海洋法条約の中にあいまいな部分があることが問題だが、問題が解決されるまでは慎重な態度をとるべきだと考える。
 
1-7. 武力の使用に関して日本は極めて慎重にやっている。海上警備行動の発令についても政府で閣議を開いて決定している。海上自衛隊のP3Cが不審船らしいものを発見して確定するまでには、大変時間をかけて分析している。
 排他的経済水域での情報収集は各国ともやっている。中国も日本周辺で情報を収集している。国際法上の曖昧さはあると思うが、曖昧さは曖昧さのままで残しておいたほうが良いのではないかと思う。
 
1-8. 排他的経済水域での軍の活動に関して、アメリカは国際法を明確に認識している。排他的経済水域での資源などに関わる責任と権限を遵守した上で、航行自由の原則を享受している。軍事的な活動などを実施しているが、中国もまた同様の活動を行なっている。北朝鮮との明確な違いは、北朝鮮があたかも漁船であるかのごとく偽装し、他国の国旗を掲げて行動していることで、これは海賊船と見なされることである。このような国への対処は認められる権利である。
 
1-9. 海運国にとっての危倶は、多くの沿岸国が国連海洋法条約を拡大解釈する傾向にあることである。管轄権がどんどん拡大されて、200海里の中で何でもやるということか起きかねない。アジアにおいて200海里を主張すると、北から南までお互いに海域が重なり合い、利害の対立を生むことになる。国連海洋法条約を遵守すべく努力する必要があるが、一方的に解釈して、拡大適用してはならない。
 
海賊および海上テロ
1-10. マラッカ海峡ではインドとアメリカの艦船による共同パトロールが行なわれている。インドの軍艦がアメリカの船舶をエスコートしており、取り締まりというよりも、むしろこれに付き添っている状況である。沿岸国も協力しており、沿岸国との間で利害の対立は生じていない。
 
1-11. 1988年のローマ条約は、テロや海賊に関する管轄も認めるものである。日本、中国、韓国、インド、アメリカなどが批准している。各国がもっとセンシティブになれば、批准する国が増えるものと思われる。シンガポール、マレーシアなども批准しているし、インドネシアも続くことになるであろう。この条約は、管轄に閥して残っていた空白部分を埋めるいい条約であり、なぜ批准をためらうのか理解できない。
 
1-12. アメリカ向けコンテナの85%を世界の主要港20港で扱っている。この85%のコンテナの検査が速やかにクリアできれば、残りの15%ももっと迅速に調査ができるようになる。
 アメリカは2国間における措置、例えばコンテナ関連のイニシアチブについて努力してきたし、税関当局やIMOなどとも協力して、コンテナのトラッキングと安全が担保できるように取り組んできた。このような努力の中に、96時間前の事前通知といったような制度もあるが、明確な基準を一律に適用しコストを抑えた上で安全を最大化することを考えている。
 
1-13. コンテナ検査に使われるVACISとは、4〜5年前に開発されたビークル・アンド・カーゴ検査システムのことである。エックス線による検査で、解像度の高い写真を撮ることができる。貨物の中身に対しては何ら影響を与えない。VACISはいろいろな種類がある。時速10kmとかの速さで貨物列車を通過させながらエックス線写真を撮ることもできる。コンテナの戸を開けると、それだけで30分かかってしまう。毎年600万個に及ぶコンテナを解放して検査すれば、アメリカの貿易は停止してしまう。
 
1-14. 炭疽菌やその他の非常に高度な殺傷能力のある菌を使った生物兵器がコンテナに隠されている場合であるが、薬物であればセンサーで把握できるし、化学物質も化学物質用のセンサーで把握できるが、生物兵器については検査、検出するのは極めて難しいというのが現状だと思う。







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